クローバー🍀

内藤 まさのり

Ⅰ 僕の日常

 僕の日常は普通の人の日常とは違っている。でもその違いを誰かに話しても信じてくれる人は誰もいなかった。だから長い間僕は自分の目に映る世界を語ることは無かった。しかしこの夏僕がした体験は、それを語る事で誰かの目に留まれば不幸な出来事を一件でも減らせるのではないか、また減らしたいと願うほど鮮烈だった。


 いつの頃からか記憶は定かではない。しかし幼い子供の頃から僕にとって霊の存在はごくありふれたもののようだった。というのは両親や親戚によると、僕は幼い頃、急に何もない空間を指差して泣いたり怯えたりしたそうだ。多分、霊が見えていたのだろう、今でも「お前は小さい頃、霊感があった。」と話題にされる。しかしそれは事実とは少し異なる。成人になった今でも霊は変わらず見えており、自分に見えるものが他の人には見えていないと気付いてから、好奇の目で見られないよう口を閉ざしただけだ。

 そんな僕の住むアパートのすぐ裏に、狭いが公園があった。公園というところは霊にとっても安まる場所なのか霊が濃い場所だ。何処どこからかやってきて公園にしばらく留まったのちどこかに行ってしまう霊もいれば、一日中公園内を徘徊はいかいしている霊もいる。ただ僕にとっては霊の存在はありきたりなもので、公園で遊ぶ人をいちいちチェックすることがないのと同じように、霊についても特に気にする事はなかった。しかし2ヶ月ほど前のある初夏の日曜日、公園で遊ぶ二人の子供の霊に違和感を感じて僕は視線を止めた。違和感を感じた理由はすぐに分かった。二人の霊はあまりにもアンバランスだったからだ。 

 年下に見える女の子の霊は、年の頃五歳ぐらいだろうか。ぷっくりとした体型に可愛らしい黄色いひらひらの服を着て頭には麦わら帽子という出で立ちだった。今はしゃがんで公園に生えているクローバーの花を掴もうとしている。霊なので掴むことができないのだがそれが不思議で面白いのか笑っていた。霊の輪郭がはっきりしているので亡くなってからまだ日が経っていないように見受けられた。

 それに比べてその小さな女の子の霊を見守る八歳ぐらいの女の子の霊は…左目の上が紫色に大きく腫れ上がり、左目はほとんど開いていない。また唇も大きく腫れ上がっており、あか汚れが目立つ下着の白いシャツからのぞく腕にも痛ましい大きなあざがあった。亡くなってからは何年か経っているように見受けられたが、生前に酷い虐待を受けていたであろうその姿に僕の胸は締め付けられた。

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