126 魔王城/シアン(2)

◆登場人物紹介

・魔王討伐隊…リリアン(主人公・サポーター)、シアン(顧問役)、ニール(英雄・リーダー)、マコト(勇者・異世界人)、デニス(英雄)、マーニャ(英雄)、ジャスパー(サポーター)、アラン(サポーター)

・マルクス…魔王配下の上位魔族の一人。10歳程度の少年の姿をしていて、ダンジョンなど物を作る力に長けている。戦闘は苦手。王都で薬売りをしているときにニールと親しくなった。


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 マルクスが魔法陣から呼び出したのは、魔力で動く2体の石像。ダンジョンでよく見るやつだ。


「あれはゴーレムだよな。でもアニーとは全く違うな」

 わざと気楽そうな事を言ってみせると、リリアンがそれを受けて返した。

「ええ。それにアニーの方がずっと性能はいいです。あれは掃除や料理はできませんから」


 まあ、そりゃそうだろう。アニーを基準にして話すからおかしく聞こえるが、本当ならあの石像が普通のゴーレムだろう。アニーはサムが作ったんだ。そこいらのゴーレムとは別格だ。


「でもあれはおそらくパワーがあります」

 そう言って、リリアンは鉤爪クローに手をかける。他の皆も、カチャリと武器を鳴らせたのが聞こえた。



 と、俺らが見ている前で、マルクスが立つ隣にさらに新たな魔法陣が現れた。

 先ほどのゴーレムたちの時のように光が湧き上がり、その光は人の形をとる。


 現れたのは別の魔族。黒く重厚なローブに、顔を隠す禍々まがまがしい仮面。

 その体だけでなく、手にした大きな杖にまで黒い魔力を纏わせている。その魔力の強さは今までで一番だろう。


「ビフロス……」

 リリアンが小さくヤツの名を呟いた。


「マルクス、主がお呼びだ」

 仮面の奥から、静かな声が響く。

「はーい。じゃあおれは行くね」

 マルクスはまるで友だちにそうするように、バイバイと手を振る。そのまま足元に現れた魔法陣と一緒にすぅと消えた。


「我らの代わりにこいつらが相手をしよう」

 ビフロスがそう言って杖を振ると、また新しい大きな魔法陣が浮かび上がる。そこから現れた巨大な魔獣に見覚えがあった。


「シアさん……あれは」


 リリアンの言葉に無言でうなずいた。

 俺たちを見下ろす毛むくじゃらの巨体は、一見するとオーガのようだ。しかしその肩からはそれぞれ2本ずつ、二対の腕が生えており、その体に乗っている頭はまるでヒキガエルのようにも見え、とても醜い。

 魔獣が嬉しそうによだれを垂らしながら大きな口を開けると、口の中に並んだ針山のような牙が見えた。


「ああ、あれは……アッシュを食った魔獣だ」

「!!」

 俺の言葉を聞いた皆の間に、緊張が走る。

 そんな俺らを置いて、ビフロスは魔獣と入れ替わりで魔法陣に消えていった。


 一方にはマルクスが召喚した2体のゴーレム。もう一方には強大で不気味な魔獣。

 あいつら上位魔族ほどじゃなくとも、厄介な相手には違いない。


 皆に声をかけようと息を吸った瞬間に、新しい異様な気配に気が付いた。



 懐かしい様な、でも何かが歪んで濁っているような……

 この気配はあの時と同じだ。


 緊張で、心臓の音が跳ねた。


 何かの足音が響く。部屋の奥から何かが近づいてくる。

「シアさん、魔族はもう1体いると言いましたよね」

「……ああ、言った…… リリアン……すまない……」

「え……?」


 俺の言葉に、リリアンが不思議そうな顔をする。

 ああ、そうだよな。俺が何で謝ったのかがわからないんだろう。

 でももうすぐだ…… きっとすぐにわかる……


「あの時、俺が倒さないといけなかったのに……でも倒せなかったんだ……」

 靴音のする方を見つめる。あの時も『彼女』はこうして現れた……


 部屋の奥にある暗闇から現れた魔族は、長い黒い髪、赤い瞳、すらりとした女性のわりに高い背。そして手にしているのは『英雄の剣』……


「……アッシュ……」

 愛しい、その名を呼んだ。


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・ビフロス…魔王配下の上位魔族の一人。黒いローブ姿に禍々しい仮面をつけており、魔法に長けているだけでなく魔獣を召喚して操る。16年前にアシュリーが捕らわれた時に戦っていた相手。

・アシュリー(アッシュ)…リリアンの前世で、前・魔王討伐隊の『英雄』。長い黒髪で深紅の瞳を持つ、女性剣士。魔王との戦いの前に魔獣に食われて命を落とした、と思われていた。

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