105 アミュレット(2)

◆登場人物紹介(既出のみ)

・リリアン…前世(前・魔王討伐隊『英雄』のアシュリー)の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。教会の魔法使いしか使えないはずの転移魔法や、鑑定の能力を使う事ができる。

・デニス…Sランクの先輩冒険者。リリアンに好意を抱いている。

・シアン…前・魔王討伐隊の一人で、Sランク冒険者。デニスの兄貴分。ずっとアシュリーに想いを寄せていた。

・マーニャ…エルフでBランクの魔法使い。デニスとは古くからの知人。実年齢不詳(かなり年上らしい)。

・サマンサ(サム)…前・魔王討伐隊の『サポーター』の一人で魔法使い。可愛いらしいドレスを着た、金髪巻き髪のエルフの少女


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 二人を帰し、少し熱気が冷めたような部屋で、今度は3人だけでテーブルを囲む。


「マーニャの事、リリアンはあまり驚かなかったよな…… 知っていたのか?」

 新しく注いだエールを口に運ぶと、ため息をきながらデニスさんが言った。


「いいえ、でもマーニャさんが本当はBランクではないのと、あの名前が本当の名ではない事は知っていました」

「いつからだ?」

 シアさんは自分のカップに手も付けず、テーブルに片肘をついている。

「最近です。見習いの頃には気付かなかったんです。その頃にはまだ神秘魔法が使えませんでしたから」


「神秘魔法?」

 どこかで聞いたなと、デニスさんが誰に聞かせるでもなくぽつりと言った。

「魔法と呼んでいますが、詠唱を必要としないものもあります。シアさんの『龍の眼』と同じように、私も神秘魔法で鑑定と同じ事ができるんです」


「マーニャの本当の名前とランクは見えたのか?」

「名前は……エルフの文字で書かれていましたが、マリーと。ランクはSでした」

「マリーか…… マーニャと呼ばせるのに、そこまでの不自然さはないな。ランクは…… 確かにあいつの実力はBランクなんかじゃないと思ってはいたが……」



「ああ、そうだ。それと、俺はマーニャの事は

 思い出したように投げ込まれたシアさんの一言に、デニスさんが少し目を見開いた。

「え? でもさっき……」

「あれはお前に合わせたんだ。以前にリリアンにも訊かれたが、俺はマーニャに会った事はない」


「いやだって、マーニャはシアンさんの事が苦手だって確かに言ってたぞ。以前……あっと……セクハラまがいな事をされたとか」

「はあ?! 俺がそんな事する訳ないだろう?」

「なんかあいつの胸をじろじろ見ていたとか」


「胸?? ……マーニャって、そんなにいいカラダしてるのか?」

 シアさんがまんざらでもない様子でデニスさんの話に食いついたのに、何故かちょっとだけ気分がモヤっとした。

「まあ、胸はデカいな。スタイルもいい。それに男にかなりモテる」

 デニスさんもニヤニヤとしながら答えているように思える。


 むぅ、なんだろう? ニヤつくデニスさんと、わきわきと手を変な風に動かすシアさんに、やけに面白くない気分になった。


「そ・れ・で!? シアさんはマーニャさんに会った事は無いんですよね!?」

 つい声が大きくなり、二人は少し驚いた様にこちらを見た。


「ああ、そうだ……けど…… リリアン、怒ってるのか?」

「怒ってませんよ!?」

 そうは言ったが、どんな顔をしていいのかが分からずに、咄嗟とっさに二人から顔をらせた。なんだろう。怒る理由なんて無いはずなのに、なんだか嫌な気持ちになっているのが、自分でもよくわからない。

 気分を落ち着けようと、ふぅとひとつ深呼吸をした。


「……それで、どうなんですか?」

 もう一度訊くと、戸惑う様にシアさんが答える。

「あ…… ああ、会った事はない…… が、西ギルドの冒険者なら全く会った事がないのはおかしい。だとすると、敢えて俺の事を避けているんだろう」

「俺はてっきり、シアさんの冒険者時代の知り合いとかだと思ったんだ。マーニャはエルフだから長命だし、シアさんとは一度組んだ事があるって言ってたし」


「……少なくとも…… アシュリーわたしが覚えている範囲では、あの頃にそんな魔法使いは……」

 15年前の記憶を手繰りながら、同時にマーニャさんの事を思い浮かべる。すらりとしたスタイル、豊かな胸、金の流れる髪に、美しい切れ長の紫水晶アメシストの瞳……


 ……どこかで……その瞳を見た……

「あの紫の瞳……」

 昔の仲間の瞳を思い出す。美しい金の髪、透き通る白い肌、深く光を湛える紫水晶の瞳……


 ――私が愛しているのは姉様だけなの――


「サム……『姉様』……?」

「待てよ、リリアン。サムの『姉様』はマーガレットだって、そういう話になっただろう? あ、いやまてよ……そうだ…… マーガレットになら、俺は会った事がある…… しかも…… 魔王の玉座で……」


 ――おかしいわね――

 ――なんでこんなにバランスが崩れたのかしら。これでは上手く星に力が注げないわ――

 

「……マーガレットは…… アッシュが死んだ事を気にも留めていなかった。あいつは俺らの事を……何かをする為の『餌』なんだと言った。ただの餌の癖にと。……アッシュが死んだというのに…… 俺らがあんなに命がけで戦ったっていうのに……」


 シアがつらそうに吐き出した言葉に、何故か『間違っていない』と、そう思う自分が居る。

 そうだ…… 人間は……


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(メモ)

 神秘魔法、鑑定(#29)

 マーニャを知らない(#82)

 セクハラ(#71)

 マーガレット(#46)

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