104 焼き鳥と談笑

◆登場人物紹介(既出のみ)

・リリアン…前世(前・魔王討伐隊『英雄』のアシュリー)の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。姿を変える魔法を使う事が出来、人間の騎士の姿に扮する時もある。

・ニール(ニコラス)……前『英雄』クリストファーの息子で、現国王の甥。正体を隠して冒険者をしている。

・アラン…デニスの後輩のAランク冒険者。騎士団に所属しながら、ニールの「冒険者の先生」をしている。

・デニス…Sランクの先輩冒険者。リリアンに好意を抱いている。

・シアン…前・魔王討伐隊の一人で、Sランク冒険者。デニスの兄貴分。ずっとアシュリーに想いを寄せていた。

・ミリア…『樫の木亭』の給仕(ウエイトレス)をしている狐獣人の少女。17歳。


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 『樫の木亭』に戻ると、グースはすっかり山盛りの焼き鳥に姿を変えていた。私たちがマイルズさんと話をしている間に、ニールがほとんど一人でさばいたそうだ。

 グースはモーアほどの大きさはないので、肉屋に持ち込むほどではない。でも、普段よく調理されているヤマドリよりは二回り以上も大きいので、自分で処理すれば安価で沢山の焼き鳥を店に出す事ができる。

 今日も早速その噂が広まったようで、いつもよりも早い時間から店がにぎわい始めていた。


 グースの肉は少しクセがあるので、塩味よりもタレ味の方が良く似合う。今日の焼き鳥はタレ味と、もう一種類は塩だけでなくハーブを効かせた味らしい。

 このスパイスは以前にニールが持ってきたもので、それ以来『樫の木亭』の新しい味として定着しているのだそうだ。


 これがまたワインや蒸留酒と良く合うのだと、奥さんのシェリーさんがニコニコしながら教えてくれた。店主のトムさんが奥から新しい蒸留酒の樽を持ってくると、店内は沸き立って、お代わりを求めるカップが幾つも頭上に掲げられた。



 私たちもお酒とジュースで乾杯し、焼き鳥を頬張りながらしばらくはニールの話を聞いていた。あれから新しい先生がついたとか、キツイ特訓が増えたとか、勉強の時間も多くなったとか。

 そんな感じでニールが忙しくなり始めた頃に、『樫の木亭』にはタイミングよく新しいバイトが入ったそうで、今は店のバイトは殆どしていないらしい。


 アランさんに噂になっているお相手の女性がいるという話になると、アランさんは大袈裟おおげさな程に手を振って否定した。

「べっつにアランにカノジョが居ても良いと思うんだけどさー 俺にもこうして否定するんだよ。最初の頃はデレデレしてたクセになー」


 それを聞くと、アランさんは驚くほどに慌ててニールをたしなめた。それでもニヤニヤを止めないニールによると、お相手さんは騎士団のお仲間でかなりの美人さんらしい。

 私もアランさんの噂は耳にしてはいたけど、タイミングが悪いのかそのお相手さんを見かけた事はなかった。まあ、騎士団にはたまにしか行かないからね。


 あらかた食事が済んだ辺りで、話題は私たちの旅の間の話に移った。

「で、俺を置いてどこに行ってたんだよ」

 ニールは思い出したように、ねた風に言ってみせたけれど、これは本気で拗ねてるわけではない。むしろわざとそんな言い方をして、私たちから話を聞き出そうしている。

「これはナイショの話だぞ?」

 シアンさんが勿体もったいぶって話し始めた。



「「竜人??」」

 ニールとアランさんの声が綺麗に揃った。

「俺、竜人って見た事ない。どんな姿をしてるんだ? やっぱり竜の耳と尻尾が付いているのか?」

 ニールが私の耳と尻尾を見ながら言った。

 他の獣人と違って、竜人は獣人の国から出てくる事は殆ど無い。恐らく、見た事のある人も少ないだろう。ただでさえ好奇心の強いニールが目を輝かせるのも当然だ。


「俺も話に聞いた事はあったが、実際に会ったのは初めてだ。背中に竜の翼、あと竜の尻尾が生えていた。頭についているのは耳じゃなくて角だな。これはあるヤツと無いヤツが居た」

 デニスさんの言葉に、今度はアランさんが身をのり出してきた。

「って事は、会ったのはお一人ではなかったんですか!?」


「ああ、竜人の集落に邪魔したからな」

 二人の前のめりの反応に、愉快そうに笑いながらシアさんが応える。

「それは凄いですね…… リリアンさんのつてかお知り合いとかでしょうか?」

「まあ、そんなところだ。そこにえらく強い爺様が居てな、皆で稽古を付けてもらっていた」


「俺、てっきりシアンさんが特別な仕事でも受けてるのかと――」

 そう言い掛けたニールに向けて、シアさんは口の前で人差し指を立ててみせる。

「あ――」

 さすがにその意図を察したニールが口をつぐむと、シアさんはニッと笑って少しだけうなずいた。

「なかなか出来ない体験だったぞ。獣人の家にも泊めてもらったしな」

 横からのデニスさんの言葉に、またニールがあからさまに羨ましそうな顔になった。


「獣人と言えば…… あの時の方々ですか?」

「あの時?」

「えーっと、旅にでる前です。皆さんでお食事されていましたよね」

 少し言い難そうにしながら、アランさんはちらりと個室の方に視線をやった。ああ、あの時の話ね。

「リリアンさんのお兄さんがいらしてたとは聞いてましたが、他の方もいらっしゃいましたよね。あの女の子とか……」


「シャーメとタングスですよね。あの子たちは狐の獣人の兄妹です」

「へーー あの女の子、白い髪だったよな。同じ狐でも金髪のミリアさんとは違うのかな」

 そう言って、ニールがミリアちゃんをちらと見たのを、用があるのかと思ったのだろうか。はーいと言いながら、ミリアちゃんがテーブルの横に来た。


 皆すでに食事は終わって、皆の皿もすっかり綺麗に空いていた。

 シアさんが私に目配せをする。さらに軽く手をかざし、ミリアちゃんには断りを入れて下がってもらった。

「店も混んで来ましたし、場所を変えませんか??」

 皆の顔を見回してそう言った。


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(メモ)

 モーア(#3)

 アランの噂(#91)

 特別な仕事?(#88)

 あの時(#84、#85)

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