85 友達/ニール(2)

◆登場人物紹介(既出のみ)

・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。転生前は前・魔王討伐隊、『英雄』のアシュリー

・ニール…主人公リリアンの友人で、冒険者見習いとして活動している自称貴族の少年

・シアン…前・魔王討伐隊の一人で、デニスの兄貴分の冒険者

・アラン…ニールの「冒険者の先生」をしているBランク冒険者

・デニス…西の冒険者ギルドに所属するAランクの先輩冒険者。リリアンに好意を抱いている。


・カイル…リリアンの兄で、灰狼族の若き族長。銀の髪と尾を持つ。

・タングス…仙狐(3本の尾を持つ白毛の狐)の兄妹の兄。前・魔王討伐隊たちとは顔見知り

・シャーメ…仙狐の兄妹の妹。二人とも20歳程度の人狐の姿になれる。


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 目をらせずにいると、シアンさんが口を開いた。

「……アラン、ニール。どういう事だ? なんでお前たちがを持っている?」

「こ、これは……マー――」

「ニール!」

 アランが叱咤しったするように、俺の言葉を止めた。

(これの入手経路については、誰にも言わないと約束したはずです)

 こっそりと耳打ちされた言葉にはっとした。ああ、そうだ、言っちゃいけないんだ。でも……


「二人にあげた尻尾を……あんたたちが奪ったの? ひどい!」

 女の子は獣のうなり声を上げながら、まるで今にも噛みついてきそうな様子で言い放った。


「ち、違う……!!」


「お母さんが魔族に殺されたのも、あんたたち人間の所為せいじゃない! それでも皆は人間を恨んだりはしなかったし、私たちだってそんな事思いもしなかった。でもあんたたちはそうやって、平気で仲間同士で殺し合うんだ!! しかも私たちの大好きなおねえちゃんたちまで!! なんの為に私たちがいのち――」


「シャーメ!!」


 不意に、リリアンが叫んだ。

「止めなさい。キンキニフレル」

 リリアンの言った事の後半はよくわからなかったけれど、それを聞いて獣人の女の子はハッと気が付いたように言葉を止めた。


 代わりに言葉を発したのはシアンさんだった。

「……お前らが…… サムを殺したのか?」

 え? ころ……?


 シアさんの体から何かがにじみ出ている気がして、肌がぴりぴりとしびれた。

 怒っている……

 俺なんかでもすぐにわかる程に、殺気を放っている。


「サマンサ様は……亡くなられたのですか?」

 アランが静かに驚いた様な声を上げる。


「亡くなっています。先日シアさんと、彼女の最期を知る者に会ってきました。彼女の物は全てが持ち去られたそうです。その中には彼女のアミュレットと、メルのアミュレットも含まれていました」

 淡々と話しながら俺たちを見るリリアンの黒い瞳が、中で赤く燃えている様にも見えた。


「いったい、サムに何をしたの?」

「俺たちは、何もしていないっ」

「なら、それをどこで手に入れたの?」

「言えません」

 アランが強い口調で答えた。

 確かに言わない約束だけど。でも、このままじゃ……


「何で言えないの? 後ろめたい事があるんじゃないの?」

 リリアンまで、俺たちを憎むようににらみ付ける。

 違う。信じてくれ…… 俺たちは友だ――


「ニール。見損なったわ」

 気分が悪い。横を向いて、そう吐き捨てるように言ったのが聞こえた。


 あ――


「帰る。カイル、タングス、シャーメ、行きましょう」

 そう言って、もう俺の顔を見もせずに、リリアンは部屋を出て行った。


 続いて獣人たちが俺たちを睨んで出て行くと、その後にシアンさんも黙って付いて行く。

「お、おい! 皆、待てよ!!」

 デニスさんがそう叫んで後を追うと、部屋には俺とアランだけが残された。



 アランがふぅーと長く息を吐いたのが聞こえて、我に返った。


「あ…… 俺たちは…… 違う。そんな事はしていない……」

「……ですね。しかしリリアンさんとシアンさんは……かなりご立腹のようです……」


 なんでこんな事に……

 すがるようにアランの方を見た。


「……変な勘ぐりをしたくはないのですが…… マーニャさんはこれをどこで手に入れたのでしょうか?」

「あ――」


「これの入手経路は、私たちではわかりません。でも、もしもリリアンさんの言う事が本当ならば、これを持っている私たちも共犯なのかもしれませんね……」


 * * *


 部屋のベッドに体を預けて、天井を見上げた。

 何もない空間のはずなのに、今はそこに何かが見える。

 皆で笑ったり、しゃべったり、クエストに行ったり、美味いもん食ったり。そんな光景が浮かんでは消える。


 さっきの…… あんなリリアンは初めて見た。

 いつもいつも笑ってた彼女が、俺を憎むような目で睨んでて。あの目が、脳裏に焼き付いて離れない。思い出すとまたつらい気持ちが奥から沸いてくる。


「違うんだ……」


 そんな事、くうに向かって呟いたって、誰にも届かない。明日、ちゃんとリリアンたちに言わないと。


 なあ、俺たち友だちだよな?

 ちゃんと話せばわかってくれるよな?

 そうしたらまた、一緒にクエストとかに行けるよな?


 それでまたあの『樫の木亭』で、皆で焼き鳥とか食べながらさ。

 あーでもないこーでもないって、他愛のない話なんてしてさ……


 見上げている天井に描かれた文様が、溢れた何かで滲んで揺らいだ。


 * * *


 次の日から、まるで避けられているかの様に、ぱたりとリリアンに会わなくなった。

 リリアンだけじゃない。デニスさんにも、シアンさんにも。


 3人が旅に出たのだと知ったのは、十日も過ぎてからの事だった。


====================


<おまけ・席順について(散々もめた)>


タ シ シャ  □

[テーブル]  扉

カ リ デ   □


 仙狐二人を、シアが収めて自分の両隣に座らせました。

「ったく、おめーらは。大人しく俺の隣に座ってろって!(保護者風)」


 二人はシアも好きですが、リリ(アッシュ)の方がもっと好きでとても懐いてます。

 シャーメがそれを正直に言うもんだから、シアがちぇって舌打ちしてました。



(メモ)

 アミュレット(#19)

 サムの最期(#23)

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