29 二人の狐(2)

◆登場人物紹介(既出のみ)

・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。『変姿の魔法石』で大人の姿に化ける事ができる。

・ドリー…自称「人ではない、ゴーレムのようなもの」。ギヴリスの助手で、聖獣たちの健康管理をしているらしい。

・タングス…仙狐(3本の尾を持つ白毛の狐)の兄妹の兄

・シャーメ…仙狐の兄妹の妹。二人とも20歳程度の人狐の姿になれる。

・ギヴリス…リリアンを転生させた神。『黒の森の王』と呼ばれる獣人たちの神


====================


「お待ちの間に本でも読まれると良いかと。 シャーメさん、案内してあげてください」

 そうドリーさんに言われ、シャーメの顔がぱっと明るくなった。

「リリアンさんの情報制御は正しく動作しております。知る事のできない情報にはアクセスできませんので読んではいけない本はちゃんとわかるでしょう。逆に言えば知る事の出来る情報には好きにアクセスしていいと言う事ですから、そういう本はお好きに読んでいただいて構いません」

 ドリーさんのなんだか回りくどい様な言い方に、少し心のつかえを感じたけれど、はしゃぐシャーメに名前を呼ばれた事で有耶無耶うやむやになった。


 こっちこっちとシャーメに腕を掴んで連れていかれた部屋は、どうやら図書室らしい。広すぎない程度のこの部屋の、入口以外のすべての壁は天井までの本棚で埋め尽くされている。部屋の中央には円卓とイスが、さらにソファーもあり、読み手のスペースもしっかりと用意されていた。


 図書室の書物の半分以上は神代文字で書かれていた。その神代文字で書かれたもののさらに半分以上は、どうやら娯楽書らしい。挿絵の書かれた物語や、ほとんどが絵だけで書かれた絵物語もある。そして娯楽書でない書物の中に、魔法書の様なものを見つけて手に取った。


 * * *


 ドリーさんは食事をとらないそうだ。ゴーレムなのだから当然だろう。

 タングスとシャーメはここの勝手を知っているようで、二人が食事も風呂も用意してくれた。

 正直ドリーさんと二人?だけだったら色々と戸惑っていたかもしれない。二人が来てくれて良かった。それに昔一緒に過ごした時間を思い出して、なんだか嬉しくなった。


「おねーちゃん、一緒に寝よう!」

 可愛い寝間着に着替えたシャーメが、そう言って飛びついてくる。

「んー、でもここのベッドは一人用で狭いよ?」

 思い出したのはさっきの刺激臭のする部屋の白いベッドだ。寝心地もいまいちよくはなさそうだし。

「ギヴリス様の私室があるので、そこのベッドを使えば良いでしょう。主不在でもちゃんと手入れはしてますから大丈夫です。ついでにギヴリス様の私室に色々魔道具がありますから、必要なものがあるか見ていくと良いですよ」


 そうドリーさんが言うと、シャーメが私の腕を取って行こう行こうとせっついた。

「えー…… でもそれはなんだかギヴリスに悪いなあ……」

「私室と言ってもここに来たときに使ってた部屋だというだけなので、大丈夫ですよ。主も良いと言ってましたし」

 うーん、じゃあお借りしようかな。正直、あの白いベッドに寝るのは気が進まなかったし。

 ちらとタングスの方をみると、わずかに顔を赤くして何かを言いたそうにしている。空いている方の手で手招きをすると、彼もおずおずと付いてきた。


 ギヴリスの部屋のベッドは普通のベッドの二つ分以上は、ゆうにあるようなサイズだった。ブルーを基調としたパッチワークのカバーリングがかけてあり、他の部屋が全体的に白っぽい雰囲気だったので、対照的に思えた。

「これなら3人で寝れるねー」

 シャーメは大喜びだ。


 二人に挟まれるようにしてベッドに入ると、なんだか昔を思い出すよう。けれども今は私の方が体も小さいしすごく年下に見える。二人は見た目はもうすっかり大人になっているし、まるであの時とは立場が逆みたいで、ちょっと可笑しくなった。


「そういえば、ドリーさんに神秘魔法が使えるようになったって言われたのだけど、二人は神秘魔法って知ってる?」

「知ってるよー 私たちも使ってるよ」

「どんなの?」

「人や魔獣に化けたり、尻尾を減らして見せたり、鑑定も使ってるよ。転移魔法は使わないかなー」

「走ればすぐだから困らないしね。あと昼にリリアンがメールをくれた、あの魔道具も神秘魔法だよ」

「あ、そうなんだ? そういえば私は元から使ってたってドリーさんに言われたのだけれど、それって変姿かえすがたの魔法石の事かな?」

「僕らは魔法石は使わないよ。リリアンにもできると思う」


 そうタングスに言われ、魔法石を全て外し前世の姿をイメージして魔力を全身にまとわせてみると、簡単に昔の姿に変わった。

 女性にしては高い背、黒く重い髪、キツイ吊り目。相変わらず、可愛げのない姿だろう。でもこの姿を見ると、二人の目が嬉しそうに輝いた。


「匂いが同じだからおねーちゃんだってわかっているけど、でもやっぱりおねーちゃんなんだなって思えて安心するー」

「うん、リリアンも好きだけどね」

「……ごめんね。あの後帰って来れなくて」

 そう言うと、二人は両側からぎゅっと抱きしめてくれた。

「うん、寂しかったよ。でもギヴリスに聞いてたから、いつか会えるって思ってた」

 タングスはそう言って顔をすり寄せてきた。それを見てシャーメも。二人はとても温かかった。


 そのままの昔の姿のまま、二人の体温を感じていると次第にまぶたが重くなっていった。

 独りで眠らなくて良いというのは…… 嬉しい……


====================


(メモ)

 仙狐(#25)

 『変姿の魔法石』(#18、#25)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る