Ep.2 ラントの町/(1)

 ここ、ラントは酒作りがさかんな町だ。果物や穀物などを使ったお酒も多く作られ、また国中の酒がここに集まるとも言われている。

 そこが冒険者には人気で、俺もこの町には良く立ち寄っている。


 町に着くとまず、魔法使いが『座標記録』の術を唱えた。

 転移の魔法は教会の魔法使いしか使えない上に、記録できる座標の数に限りがある。今は少しでも王都から離れた場所であれば、座標を記録しておいた方が都合が良い。まだ旅は始まったばかりだ。


 旅の初めの宿をとるのにこの町を選んだのは、お酒の力で友好を深めようというリーダーの計らいだ。確かに俺たち冒険者には酒好きが多い。だが貴族のおぼっちゃま方と酒が美味しく飲めるかとなると、どうにも敬遠したい気持ちが先に出る。

 そう思っていると、これから苦楽を共にする仲間なのだからな、と、隣でアッシュがぽつりと言った。


 独り言だったのかもしれないが、なんだか気持ちを見透かされたような気がして、頭を掻いた。

 そうだな仲良くやろうや、と言うと、こちらに視線を向けたアッシュと目が合ったので、へへっと笑ってみせた。


「よっしゃ!リーダー、ここは俺が案内しますよ」

「それは有り難い。でも仲間なのだから、敬語を使ったり、リーダーと呼んだりするのはやめてほしいな。身分もこの中では関係ない」

「そうですね、流石のお言葉です!」

「アレク、言ったそばから……」


 ぱっと顔を輝かせたアレクが声をあげたが、すぐにたしなめられた。

「申し訳…… いや、すいません。ついクセが……」

 結局敬語が抜けなかったアレクが、しまったというような素振りで口許くちもとを押さえると、皆に笑みがこぼれた。



 夕飯まで少し時間があるので、宿に荷物を置いて町を見て回る事になった。連れ立ってまだにぎやかさのある通りを歩く。

 俺らがこの町に着いた事はうに知れ回ってるらしく、行く先々で人々の視線を感じる。たまに抑え気味だが女性の黄色い声も聞こえてくる。だが少なくともあれは俺目当てではない。ちきしょー、羨ましい。ちょっとは分けてほしいぜ。


 そういえば、王都を出てからずっとクリスがルイのそばを離れない。慣れない土地での不安もあるからだろうが、ちょっと度が過ぎてるようにも感じる。

 まぁ、まだ初日だしな。後で俺からも声を掛けてみよう。でも俺はのだから、タイミングとか言葉とかは気にしないとな。


 皆を町の酒屋に案内すると、ここで旅の間に飲む酒をいくつか買っていく事になった。これだけの種類の酒を置いている店は、他の町ではなかなか見つからない。

 変わった酒も揃っていると、アッシュはとても喜んでいた。よく旅先ではその土地毎の色々な酒を愉しんでいるらしい。

 アレクにとっては知らない酒も多いらしく、棚をあちこちと眺めながら興味津々の様子だ。店員の蘊蓄うんちくにも熱心に聞き入っている。


 意外にここに来て、ルイとサムが二人で盛り上がっていた。歳が大分離れているはずなのだが、波長があったのかもしれない。

 クリスはあれこれと冒険はせず、いつものワインを選んだようだ。

 メルもいつもの酒にしようと言いながら、酒精の強い蒸留酒スピリッツを頼んでいる。なかなかに飲めるクチらしい。

 俺もと思い強い酒を眺めてみたが、やはりやめておく事にした。無駄な見栄を張って失敗したら元も子もない。クリスと同じワインを革水筒に詰めてもらった。


 他にも雑貨屋などを回り、旅で使う物などを物色した。王都を出る時に旅の支度はして来ているが、それとこれとは別らしい。

 雑貨屋では女たちが喜んでいたし、魔法石や護符アミュレットを扱う店では魔法使いたちが熱心に品定めをしていた。

 この先の旅の事を思うと、こんなゆったりとした時間がとれるのも今のうちだけかもしれないな。


 町の中央には噴水のある大きな広場がある。周りの店が広場に張り出す様にテーブルと椅子を置き、そこでも食事が出来るようになっている。流石に夕方になって冷えてきたからか、外で飲み食いしている客はいないが。

 そんな店から漂う食事の匂いに、つい腹が鳴った。皆は笑ったが、気持ちは同じだったようで、宿で聞いたこの町一番と評判の店で夕食をとることになった。

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