第6話「イルカスーツ v.s. パワードスーツ」

 ブルネットの少女は続けた。


「私たち国際戦争撃滅軍は、いま助けを必要としています。特に私たちの強力な同志であるI.L.P.K.A.イルカの皆さんの…」

 

 アマンダの言葉は英語だったが、画面にはきれいに翻訳された日本語字幕がのっていた。

 そして話の内容は、動画のタイトルにあった通り救援要請だった。

 中南米アマカラグ共和国の密林地帯奥地に入った組織のボランティアチームと連絡が取れなくなったというのだ。


 アマカラグ政府は自由主義国家陣営との経済連携に失敗し、派遣主義国家の勢力に接近。

 その過程で誕生した軍事独裁政権によって、国民の自由や人権が抑圧され始め、反政府ゲリラとの内戦状態にあった。


「彼らは、アマカラグ政府軍に弾圧されている農村住民の実態調査と人道支援を行っていました。その最中、政府軍に包囲され、移動手段や通信手段を奪われ、一部のメンバーは拉致されてしまったようなのです。こうなっては、私たちには手も足も出ません。どうかI.L.P.K.A.イルカの皆さんのお力で、彼らの救出を…せめてその安否を確認出来ないでしょうか。皆さんが最後の希望なのです!」


「行こう!」

 伊流花は即決した。

 アマンダ・リースを尊敬する彼女としては当然の決断と言えたが、信幸には一抹の不安があった。

 これまで、伊流花の判断だけで活動してきたI.L.P.K.A.イルカが、初めて他人ひとの依頼で動くのだ。


 大丈夫だろうか…


 信幸の心配をよそにフィンドリアンの船は、中南米へと飛び立った。 

 

 やがて船はアマンダ・リースが示した、ボランティアチームの滞在地にたどり着き、世界平和部三名は早速イルカスーツで上空から眼下のジャングルを偵察した。


 見渡す限りの密林地帯…

 だが、そこを縫う細い赤土の道路には、軍用車両と思しき車列の動きが見てとれた。

「政府軍かしら」

 伊流花の声に信幸は答えた。

「そうみたいだね。屋根に“A”が書いてあるハンヴィーだ」

 伊流花たちは彼らに見つからぬよう、高度を下げてジャングルの死角に入った。


 と、その時…


「うわ!」

 ジャングルからおびただしい量の曳光弾が放たれ、伊流花たちに襲いかかった。

「散開!」

 伊流花が指示した次の瞬間、ジャングルから真っ黒な影が飛び出し、巾広の剣で信幸のイルカスーツに斬りかかって来た。

「!」

 信幸はなんとか紙一重のところでその攻撃を避けた。

 獲物に避けられた黒い影は、ジャングルに飛び込んで身を隠した。

 すかさず伊流花のイルカスーツがその後を追って降下する。


 だが、それが敵の狙いだった。


 大木の幹をかいくぐって地表近くまで舞い降りた伊流花の前に、待ち伏せていた黒い影が立ちはだかった。

 黒い影…HE-16型強化服パワードスーツはネットガンを撃ち、伊流花のスーツを木にくくりつけて動きを完全に封じた。

「しまった!」

 HE-16はビームドバズソーを起動すると、伊流花の方へ近づいて来た。

 回転刃が恐ろしい光を放ちながら迫って来る。

 その時…

「部長、危ない!」

 信幸のイルカスーツが両者の間に割って入った。

 バズソーを振り上げていたHE-16は目測を誤り、信幸のスーツに斬りかかった。

「赤津くん!」

 熱線回転刃は信幸のイルカスーツの尾を切り落とした。

 信幸の足は無事だったが、イルカスーツは完全に機能を失い墜落した。

 が、同時に伊流花を押さえていたネットの一部も切断され、伊流花は脱出に成功した。

「やったなあ!」

 すかさず磁力化ビームで攻撃するが、HE-16はものともせずジャンプすると、伊流花のスーツに掴みかかり、物凄い力で地面に押さえつけた。

 再びビームドバズソーの刃が迫る。

「くそお!」

 その時…

 敵の向こう側に浮かんでビームを放っていた恭子の声が聞こえた。

「ぶちょー!こっち側にイジェクトボタンがありまーす!」

 恭子の送って来た映像が、伊流花のフードモニターに投射された。

 小さくて見落としそうだが、ラジカセそっくりの三角形アイコンが、敵の背中の隅にある。

 もしやこれは…

「それ!なんとか押せない?!」

これイルカスーツ着てると無理で〜す!」

 伊流花は決断すると、イルカスーツの装着解除スイッチを起動し、ぱっくりと口を開けたイルカの口から、排出される耐G液とともに外へ飛び出した。

 信幸はスク水姿の伊流花が、パワードスーツの背中に這い上るのを見て唖然とした。

「部長!どうするんだ!」

 伊流花は三角アイコンのついたハッチを開け、中のスイッチを押した。

 HE-16は胸から上の部分をバカっと解放し、中の兵士を剥き出しにした。

「ホワット!?」

 伊流花は「トップガン」という映画を観ていたので、その兵士がトム・クルーズそっくりなことに驚いた。

 そして、その映画のおかげで兵士の頭のすぐ後ろにある黄色いリングが意味することもわかった。

「失礼!」

 伊流花はリングを思い切り引っ張り、直後にトム・クルーズは外へ弾き出された。

 彼は悲鳴を上げながらジャングルの奥へ飛び去り、そのまま見えなくなった。

 動かなくなったHE-16の背中から飛び下り、伊流花は信幸の元へ駆けつけた。

「赤津くん!大丈夫!?」

 信幸は安堵のあまり、意識が薄くなっていくのを感じながら、伊流花に微笑みかけた。

「部長…きれいだ…」

 耐G液の中ではビン底メガネを外し、コンタクトレンズをつけていた伊流花の素顔…

 水着姿の少女の腕の中で、信幸は気を失った。


つづく

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