第1章 11


(お化け!?)


「でもお前触れるよ?」



雪坂の体をぺたぺた触れながら言う。



「当たり前だ。人間に近くさせてるからな」


(まじで…!?)



「いーや、絶対違う!」


「疑い深いなあ」



雪坂は呆れたように俺を見ながら呟く。

…当たり前だろ。急に言われて信じられるか。



「じゃあ証拠みせろよ」


「は?」


「証拠だよ。お前が人間じゃないということを証明できるもん。それがない限り信じない」


「証明…」



雪坂は辺りを見渡す。

そして先程北条が刺したナイフを手に取った。

そして手首にナイフを当てるーー



「ーーっ、お前、なに……!!」



雪坂はこちらを見、笑みを浮かべ



「証明、だろ?ちゃんと見てろよ」



手首を切った。





「うわ…」



ドクドクと流れ出る血を見ながら、俺は気持ち悪げに声を出した。



「……」



切った本人はというと、表情を全く変えずじっと傷口を見ている。



「うぷっ」

(やばい、吐き気がしてきた)



思わず口に手を当てる。



「どうした?顔色悪りーぞ?」


「そりゃそうだっつーの!!お前のせいだよ!」


「証明しろっていったのお前だろうが」


「いや、まさかこんなことするとは全く思ってなかったし」



本当に切るなんて思わなかった。


そしてちょっとしてから血が止まり傷口が消えていく。



「っ…」



そして完全に傷がなくなった。




「……」



俺は呆然とする。

…うそ、本当に?



「なんだその顔」


「いや…本当なんだなーって」


「これでどうだ?」


「はいはい、わかった」


「…ムカつくな、お前」



不機嫌そうな雪坂に俺は軽く微笑む。



「つーかさ、雪坂何で俺がここに居るって分かったんだ?」


「ああ…気配探ったんだよ、お前のな」


「へー、今のお化けって気配読みとれんのな」


「まあな、でも俺ら程じゃねえがな」


「え?」


「お前らが一般的に言っている霊と俺とは違うぜ」


「……てかいきなり呼び方変えないでくれる?”霊”って超リアル…」



*********



ううん、と伸びをしているとぐぅーと腹が鳴った。



「あー、腹へった。今何時……ってああ!?」


(やべーバイトすっかり忘れてた!くそっ、北条のせいで…!!)



「携帯…!!」


俺は急いで携帯を取り出し画面を開く。

ものすごい着信の数だった。しかもバイト先ばかり…


急いでバイト先に電話をかける。


プルルルル……



[はい、セブンイレブン桜宮店です]


「あの、バイト店員の高瀬ですけど、店長いますか?」


[…高瀬か、店長怒ってたぞ。あと心配してた]


「まじか」


[まじ。まあ店長に代わるね]



[おいこら高瀬、どうして今日来なかった。つーか何で電話出なかった]


「いや…今日ちょっと不良に絡まれまして…」


[不良!?大丈夫なのか?]


「ええ、まあなんとか」


[まあ良かった、特別に許してやる]


「ま、まじですか?ありがとうございます」


[じゃーまた明後日な]


「はい、おやすみなさい」



携帯を切りズボンのポケットに閉まった。

小さく息をつく。



(よかったー、これからはほんと気をつけよ)




「……何してんの雪坂」




雪坂は何やら気絶している先輩の1人の側に屈み、なにかを吹きかけていた。



「……」


返事はない。



「おーい」


俺は雪坂に近付いた。



「……?」


見たことがない物。

それは香水のようであったが匂いは無い。

それを雪坂が1人ずつ一人ずつ吹きかけていく。



「雪坂…なにそれ?」


俺の問いかけに雪坂は先輩の方に目を向けたまま答える。



「忘幻水」


「忘幻水?」


「記憶を消去したり変えたりするためのもの」


「記憶を消去…?」


「ああ…」



雪坂はまた別の奴に吹きかける。



「なんで?」


「いろいろ他言されると面倒だからな…。俺が致命傷負ってもピンピンしてるところとか」


「でもその後先輩たち気絶したじゃん」


「気絶してもだ。途中で起きてさっきの会話聞いてるかもしれねーだろ?まあ、気配は何もなかったがな」


「……」


「まーでもこれは簡単な処置だ。他にも記憶消す方法もあるが、力食ってしゃーねえからなー」


「…俺の」


「ん?」


「…俺の記憶も消すのか?」



雪坂が俺の方をじっと見る。

黒い綺麗な瞳で。



(何か消してほしいような、消してほしくないような、微妙な気持ち。まだ知りたいことたくさんあるしな)



そう夢中になって物事を考えていると、雪坂が腰を上げ俺に近付いた。


そして顔をぐいっと近づけ覗き込む。



「お前は…他言しねーよな」


「え」


「もししたらーー」


忘幻水を俺の前に出しにやり、と笑い



「かけるぜ」


「っ…、他言しません!!ほんとに」


「…ほんと、だな?」


「はい!」



雪坂は笑いながらそれを閉まった。


(…つーか顔近っ!びっくりするだろーが!)



雪坂は顔を離し、少し離れた場所に置いてあったスーパーの袋を持つ。

そして俺に声をかけた。



「さ、帰ろうぜ」


「おう」


「生徒手帳持ったか?」


「あー、持った持った」



俺たちはそこを後にした。



第1章 終わり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る