第2話:ビッグチャンス到来!
白い封筒に鮮やかな模様が描かれて、明らかに普通の手紙でないことが
それを虎丸も察しただろう。おずおずと
ただでさえ厳ついのに、より険しさを増せば並大抵の者はすくんでしまう。
これ、いすくみの術という――正式には
勝手に一颯が命名しただけで、ただし実際に効果はあるのでやはり歴とした技と断言できよう。
案の定、リフィルの口からは「ひっ!」と短い悲鳴がもれる始末だ。
「中にはなんて書いてあるんだ?」
「そうそう! お父さん何が書いてあるの!?」
「まぁ待て待て二人とも。えぇっとなになに……――これは、武術大会の招待状か?」
「え? そうなのか?」と、一颯がリフィルに尋ねる。
「は、はい」と、すっかり虎丸の顔面凶器に委縮してしまった様子のリフィルが小さく首肯する。
「そ、そちらは我がヘルムヴィーケで年に一度開催される武術大会【
「優勝したら賞金とかは出るのか!?」
一颯にとって――否、オオトリ家にとってこれが最優先事項だった。
オオトリ家は万年貧乏生活を強いられている。
毎日かつかつな生活をほんの少しでもいい。もっと潤いのあるものにしたい。
これは家族全員の総意であり、武術大会は正しく彼ら一家にとって地獄に仏でもある。
優勝すればおいしいものも、贅沢だってたくさんできる! 一颯は俄然やる気に満ちた
王国で開催されるぐらいなのだ、今が目にしたことがない猛者も五万といよう。
それらを淘汰して栄光を掴んでこそ意味がある。
これはまたとないチャンスだと一颯は直感した。
「でも、どうしてウチなんですか?」と、楓がふと疑問を口にする。
楓の言い分は、確かに疑問すべき点だと言えよう。
招待状を届けに使者が送られるほどだ。その選考基準も適当でないのはまず間違いあるまい。
数多く存在する武芸者の中から、何故選出されたのか。
これについては一颯も気になる次第であった。
「オオトリ家……もとい、
「そんな話――」
あっただろうか? まったく記憶にないのだけれど……。一颯が眉間にくっとシワを寄せて小首をひねると、楓が「あっ! あれだよお兄ちゃん!」と何かを思い出したように声をあげる。
あれとは、どれだろう? ますますわからない一颯は更に小首をひねった。
「ほらっ! 前に都の方で最強の鬼が出たからとか武士を募集するって、お金ないからいっちょ稼いでくるって言ったじゃない」
「……あぁ、あれのことだったのか。いやでも、あれ最強だったか?」
「でも、多くの人が実際に殺されちゃったわけだし、最強だったんじゃない?」
時は今から
群れることを嫌い、大の酒飲みで、一度暴れればその暴威はさながら嵐の如く凄烈。
むろん、帝はこの暴威を許すはずもなく。
数多くの武芸者を集い討伐に出たが、結果は悲惨なものだった。
生存者は一人もなし、身元がわかるだけまだマシな方。
酷いものだとぐちゃぐちゃの肉塊に変えられた者の方が寧ろ多い。
そんな負の歴史に終止符を打ったのが、他の誰でもない。
「あの時の懸賞金で生まれてはじめて腹いっぱい食ったな」
「その時のお金も、もう底を尽きそうだからヤバいけどね」
「あ、あの……こう言ってはなんですが、そんなにもひもじい生活をしているのですか?」
恐る恐る尋ねたリフィルに、一颯と楓は力なくふっと笑う。
「も、申し訳ありませんでした!」と、察したのだろうリフィルは慌てて頭を下げて謝罪した。
「――、そんなことよりもだ。優勝したら賞金とか出るのか?」
「は、はい。それはもちろんです。優勝した人には金一封が出るのは――」
「それはど、どれぐらいもらえるんですか!?」と、楓が食い気味に尋ねた。
「え、えっと……恐らくですけど、大きな屋敷を一つ余裕で建てられるぐらいは――」
「つまり、しばらくの間は安泰ってことだな!」
「やったねお父さん! これで焼きめざしがいっぱい食べれるよ!」
「めざしだけじゃないぞ! もっと大きな魚だって食べ放題だ!」
「その前にまず身なりを同行した方がよくないか?」
既にこの三人、優勝したつもりで
「では今すぐにでも出立の支度をするぞ!」
「え? 親父も行くのか?」
「当たり前だろう」
怪訝な眼差しを向ける一颯に、虎丸は呆れ顔だ。
「
「あ、申し訳ありません虎丸様。虎丸様のご出場は不可能です」
「……へ?」
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