第5話 書庫の乱れ

 書庫を整理し始めて、2か月目。

 書物は年代別でも種類別でも著者別でも、ましてやアルファベット順でもない。

「技名なんてことあるのかしら」

 回復系の記載はすべて転記し終えたと思っていたが、そうでもないらしい。


「こんなところにも回復のし方があるのね」

 攻撃系の魔法の記載の次のページには回復系の技。

 次は防御。

 その次はまた回復系の技。


 一貫性のない記録は先代大魔女の仕業だけでない。

 なにか思いついたものを手当たり次第に書き込んだ書物が散見される。

 そして昔の文字で書かれている。

 魔法で文字を現代語にして、1冊にまとめようとしている部分に挿入する。

 なかなか手間のかかる作業なのだ。

 もう慣れたとはいっても疲労はするものだ。

「はかどらないわね」


 司書の役目を果たしているゴブリンに、

 本当に魔女の歴史はここですべてかと聞いた。


「なぜそんなことを聞くのですか?」

「あまりに一貫性がないのよ」

「おいらたちは先代の大魔女から『この辺は魔女の領域でゴブリンごときに整理されるのはたまらない』とお叱りをうけた。

 魔女関連はそれから触れないようにしている。魔王様はそこらへんは図書館の意向に任せるとおっしゃってくださって。

 魔王様関連のものはそろってます」


 魔王様からすべて指示され、男性のものはそろっているが、魔女は知らないという。


「先代め」


 図書館なのに思い当たる整列方法もされていないのは先代が原因だったらしい。

 ゴブリンにも嫌煙されるほどに傲岸不遜だったらしい。


「これはもっとしっかりしないといけないかもしれないわ。私」


 あまりに態度がひどい。


 それからはしっかりとゴブリンにも挨拶するようになったし、身だしなみもきちんと魔女らしい黒でまとめることにした。


 それで、何十年間のイメージを払拭できるとは思っていないが、きっとやらないよりもましだ。


 そこまで魔女の威厳もイメージも落ちている。

(厄介なことになっているわ)


 先代大魔女たちの所業を後悔する日も近いのだろう。 魔法の最古の記録から最新のものまではいっているはず。

 5ヶ月通い詰めて治癒系の魔法は書き写しが完了していた。


 攻撃的な魔法はまだ手を付けられていない。

 防御力のある魔法までを視野に入れると、何年単位の活動になるだろう。

 ここの奥深くで見つけたのが300年前の魔女も見たと思われる資料。

 それより前の記録も存在する。

 

 きっと目を通したのだろうが何か見落としはないだろうか?

 まだ見落としていることが。

 この不毛とも不遇ともとれる儀式の突破口があればいいのに。


 

「文字が違うのだもの。

 また別の辞書が必要ね。

 この図書館にあるのかしら」


 きっと歴代の魔女たちも解決方法を求めて資料をあさったものもいただろう。

 時系列がその通りではない場所もあることから恋焦がれてから資料を探したと思われる。

 ふーんと思いながら書き漏れはないか、

 乱雑になった背表紙を取り、読んで確認する。

 年代のふさわしい場所を探し、ない時には近い種類を探して間に挟み込む。


 「両思いの魔法?」

 お互いにしんでしまう。片方でも生かすのは焼身自害しかない。

 そうすれば1人の犠牲だけで済む。

 なんてこと

 きっと当時の魔女はこれを使ったのだろう。


 両思いであったのに報われないとはなんと残酷なシステムなのだろう。

 腕輪を取り出し、装着。

「え?」

 指数は49。

 同情でも「惚れた」に判定されるようだ。

 非情にならないと生き残れない。


「残酷なシステムね」

 同情もできなければ、好意を抱くことも致命的なのだろう。


 縛っている腕輪を一緒に燃やすと魔法は解除される。

 そのかわり魔法を使えなくなる。


「魔法の源は腕輪ってことになるけれど、本当にそうなのかしら」

 間違っていたら自分の魔力指数を知るアイテムを失う。

「それは魔王の協力も必要ね」

 やはり会わなくては話にならない。

 しかし、万が一にも心が動かないという保証がない。

 それほどの感情を知らないから断言はできないが、きっと大丈夫と思うしかない。


 出来る限りの昔の記載を集めていくべきか、魔王に会う機会を設けるべきか。

 ある程度実績は必要だろう。

 まだまだ図書館通いは続きそうだ。

 それにしても、実績をこのまま積んだとして、


「素直にお会いしてくださるかしら」

 いや、まずは実績を積み上げることだ。

 これまでの先代たちの失態ともいえる態度を改めないと。

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