第4話魔王の視点

 大魔女と魔王との支配関係は太古からあった。

 魔力の駆け引きをしていて、腕輪で支配権を察知する。

 100の中で細かい駆け引き

 88になったら惚れてしまう。

 どちらかが100になったらしんでしまう。

 

 いつからこのシステムなのか知らない。

 吾輩が選ばれた時には、

 もうこのシステムは運用されていた。


 吾輩だって命の危機に瀕したくらいの恋はした。

 どれぐらい前のことなのか忘れるくらい前のこと。

 しかし彼女と一緒に過ごした季節は忘れないだろう。


 彼女は清楚で優しい心の持ち主だった。

 彼女の魔力は強く通例ならば死ぬのは吾輩の方だった。

 だが、相手は魔法の事故で死んでしまった。

 死ぬはずのない大魔女の不可解な死。


 何が起こったのかいまだに分からない。

 魔女同士の争いか、それとも腕輪の不具合か。

 吾輩は生き残ってしまった。

 これからどんなに美しく強い大魔女が現れようと、

 彼女がいなくなったときに吾輩の心は死んだ。


 彼女は黒髪美人だし、

 魔法はうまいし、

 フワリと上品に笑うヒトだったな。

 今の新米魔女とは比べ物にならないだろうな。


 もう惚れることはない。


 滅びるのはこれからも大魔女だけだ。

 腕輪を装着して肩先を見る。

 数値が浮かび上がる。


 51。


「面倒だ」

 会ったことも声を聴かせたこともないのに、

 魔力が上がっている。相手がこちらに興味を持ちかけている。


 新人大魔女お披露目から何か月か経ったようだが、

 まだ魔王の屋敷に押しかけてこないところをみると

 それなりに分別のある魔女なのだろう。


 魔王は危惧はしていた。

 あまりに恋愛に傾倒する大魔女が多すぎるのではないかと。


 魔王が管轄する男の魔物や妖怪に対する仕組みは

 ここ300年で完成させてあるし、

 後世に残るであろう書物も薬剤も整えてある。


 人間との小競り合いが起きたのとき、

 心の保ち方も生まれたばかりの魔物にも教えるように

 教育体制を敷いている。

 

 しかし、大魔女たちのほうはどうであろうか。



 過去を調べていいて同情でもしたのか、

 はたまた巷に出回った姿絵をみて恋心でも抱いたのか。

 最近、就任した大魔女はよくわからない。

 城に突撃して求婚してこないだけ分別はあると思っている。


 これまでの歴史を振り返り、

 ここらへんで魔王たちのシステムと

 同等のものを作り上げてくれないと

 世界のバランスが崩れかねない。


 それでなくても魔女は一般人に紛れてしまう傾向があり、

 注意事項が伝わりずらいというのに。


「今回の大魔女には期待している。

 恋情に負けずにシステムを学んでくれればいいのだがな」

 

 今回の魔女には期待しているからこそ

 だからまだ会うわけにはいかない。


 魔物新聞によれば彼女は遅咲きの魔女だとあった。


 慣例に縛られずに硬直した魔女の界隈を変えてくれることを願う。

「吾輩の言葉は色恋の言葉にしかきこえないようだから」

「魔王様、魔女協会の方から苦情が届いております」

 側近のバンパイアは報告する。

「いつものように返事をしておいてくれ」

「はい」

 バンパイアの問いかけにはそのように返しておく。

「いつものように『システムの構築に従事してくれと』返答いたします」


 大魔女の入れ替わりが激しいからだろうか。

 魔女の継承システムや統率体制には綻びが

 年々大きくなっているような気がする。


「魔女が箒でアチコチ飛び回っている。あれでは世の中の人に見られてしまう」

 そのような報告も受けている。

 バンパイアなどはアチコチで人の血を吸わないように命令してあり、由緒代々伝わる家の協力を仰いで飢えをしのいでいる。


 出来れば今回の大魔女か、次の大魔女のあたりで

 気が付いてくれると本当にありがたいのである。


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