遍く忌憚のG

ボクはゲイだ

生まれながらにしてゲイだったわけではない

ゲイになったのは男子校に入った後だ


もちろんゲイになる何て思ってなかった

その男子校に入ったのも部活に打ち込むためだ

なのに、いつしか目で追っている人ができた


その子は成績も優秀だったしなんていうか、ボクにとってとても輝いて見えた

この学校の部活は強かったから入ったけど、頑張って入ったけど

その子のことを意識し始めてから、本当の目的を少しずつ忘れていった


正直最初はすぐに話しかける気にはならなかった

ボクは慎重派だったし何より自分が同性の男に恋をするなんて思ってもなかったから

なんて言えばいいのいか、分からなかったんだ


だけど、その子はまったく気にせずにボクに話しかけてきた

そりゃ躊躇はあんまりないだろう

ボクがその子に恋をしてるなんてその子はわからないだろうから

その時にボクはちゃんと恋に落ちた


一目ぼれの子が自分から話しかけてきてくれるなんて

とっても嬉しかった、ドキドキしてた

好きって言いたかった、でも言わなかった

絶対に言わなかった


ボクと同じゲイについて調べてみた

ボクとおんなじ人はどれくらいいるんだろうって

男子が男子に恋をするのは100人に一人だけだそうだ

意外といるなとは思ったけど、意外といるなってだけだ


学校で授業でゲイのことを習った

ゲイはバカにしてはいけません、100人に1人ならばこの中にいるかもしれません

と先生は言っていた

だから授業が終わった後に友だちに聞いてみた


「なぁ、ゲイってどう思う?」

「え~?まぁいいと思うけど、どしたん?」

「いや、なんてえいうか・・・」

「ん?お前ゲイとか?w」

「いや、えっと、まぁ」

「え、そうなの?・・・まぁいいんじゃね?俺に恋すんなよ?w」

「しねぇよ」


こいつはいい奴だから否定はしないんだろう

だけどこの日から噂が広まった

ボクがゲイっていうことが広まった


表立って悪口を言われることはなかった

だけど話しかける人は少なくなった

何を話していいのかわからなくなったんだろう

別に普通に話してくれればいいだけなのに


そんな時にボクに話しかけてくれた数少ない一人が

ボクが恋をしてるあの子だった

あの子は優しいからボクがゲイだって知っても明るく話しかけてくれる

やめてくれよ、君のそういう優しい所も好きになってしまうじゃないか


だけど、長くは続かなかった

というより続けなかった、ボク自身が

だってボクに話しかけてきたらその子までゲイって噂が広まりそうだから


ただ、もう無理だ

別に嫌がらせも受けてなかったし悪口も言われなかったけど

こんな息苦しいところで過ごすのはもう耐えられない

ボクのせいで優しくしてくれる人が傷つくのも嫌だ


だからこそここで終わらせよう

そうやって屋上に上がった

誰にも恨みはない、ただ自分が嫌になっただけだ

だからこそ、理由が薄いからこそ死ぬのが怖い

死に方も自分で刃物をもって刺すのは怖かったから

飛び降りるのなら一歩前に踏み出すだけでいい


「はぁ・・・よし」


もうそろそろいいだろう

こころの準備はついたか?

僕が生まれ変わるのならば、その時はもっとゲイに優しい世界でありますように


「待って!」

「・・・え?」


知っている声、それも僕にとって特別な声

ボクの好きな人の声だ


「ど、どうしたんだよ」

「こっちだよ!どうしてそんなところにいるの!?」

「いや、ボクはもういいんだ。もう辛いんだよ、息が苦しいだけ」

「なんでさ!」


ボクのことを心配してくれてるんだろうか

もういいよ、君の声で心配されたら

整理された心もまた乱れちゃうじゃないか


「なんで、か。ボクがゲイなのは知っているだろ?そのせいだよ、確かにボクは何にもされてない。だけどね?ずっと息が詰まりそうだったよ、生きづらかった」

「君がゲイなのは知ってる!しってるさ!だけど・・・」

「知っててもボクにかかわってくれた君はすごい優しいと思う。だから、そんな君が傷つくのは見たくないんだ。・・・っていうのは綺麗事だよな、君のせいにしてるみたいでごめんね」

「そんなことないよ、だから!」

「飛び降りないでって?ありがとな、じゃあこういったらどうする?君が好きだよ」

「っえ!」

「卑怯だよね、ごめん。どうせ死ぬなら最後に言っておこうと思ったんだ。気持ち悪いかもしれないけど、そんなボクが居たってことは覚えてくれたら嬉しいよ」

「・・・だから待ってって」


ふてくされた彼がいる

可愛いけど、そんなことを今思うのは違うだろう

きっと今彼は気持ち悪いと思っているだろう


「そりゃあ、驚いたけどさ・・・いやでは無いよ、君にそういわれるの」

「っえ?」

「君に恋してるってわけではないけどさ、いやじゃない。不思議だね」

「何で、何で?」

「何でだろうね、僕は君に恋はしてないと思うけど。君と一緒にいるのが楽しかったからかな?ゲイであることを否定しなくていいよ、そうだ!明後日君が進めてくれた漫画の新刊が出るんだって!一緒に見ようよ!」

「気持ち悪いと思わないのか?自分と同じ性別の奴に恋されて・・・いいの?」

「いいよ、人の趣味嗜好なんてそれぞれでしょ?君に告白されて驚いたし、まだOKとはならないけど・・・もしかしたら僕が君のことを好きになる日も来るかもしれない。そうでしょ?君のこと止めようと思ったけどやめた!そのまま落ちるのと明日からも僕と一緒に遊ぶの、どっちがいいかな?」

「・・・卑怯だ」

「君も卑怯だよ!隙を見て僕に告白するなんて、えへへ」


泣きそうになってしまう

飛び降りようとしてるやつからの最低な告白をされても一緒にいてくれるなんて

もう飛び降りることができなくなった、もう無理だ


「戻ってきてくれるの?飛び降りなくていいの?」

「意地悪言わないでくれよ・・・」

「えへへ、嘘だよ。ありがとね、明日も一緒に遊ぼうね」

「いや、こっちこそ、ごめん」

「ごめんじゃなくてありがとうって言ってよ!まぁいいや、いつか返事するね」

「・・・あぁ、ありがとう」


引き留めるんじゃなくて引き戻してくれてありがとう

告白を断らないでいてくれてありがとう

友達で居てくれてありがとう


「ありがとう」

「いいよ~、じゃあかえろっか」

「うん」


一人理解してくれるだけでいい

だから、理解してくれる人にボクもなりたい


薄橙の空はより一層赤く染まった

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