リミット・ブレイク~落ちこぼれだった俺。幼女を助けるために命懸けたらぶっ壊れ能力が覚醒した。この力で俺は最強を目指す~

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第1話



「……ふぅ。いよいよか」


 自宅の玄関で、青年が息を吐いた。


 かなり大柄な青年だった。190センチをわずかに上回る長身に、鍛え上げられた体。


 顔立ちはそれなりに整っていたが、地味だった。


 だがスタイルのよさが、彼を格好よく見せていた。


 青年の名はカネモト・フミヤ。現在20歳だ。


「今日こそは受かってやる」


 今日はフミヤが探索者クランの入団試験を受ける日だった。


 探索者とは魔物が棲む領域を探索して生活の糧を得ている者たちのことであり、探索者クランとは探索者どうしの互助を目的とした組織のことだ。


 クランに入ることで探索者は様々な恩恵を受けることができる。


 だが、希望すれば誰でもクランに入ることができるわけではない。


 クランに入るには、入りたいクランが実施する試験を受け合格する必要がある(他の方法もないわけではないが、よほど特別なケースを除き試験を受けて入団するのが一般的だ)。


 クランの試験はだいたい半年に一度行われ、満15歳以上なら基本的に誰でも受けることができる。


 フミヤは今までに何度も試験を受けたが、そのすべてに落ちていた。


 通常、探索者として食べていきたいなら遅くとも18歳ぐらいまでには合格しておいた方がいいとされている。


 合格するのが遅い=才能なし。


 そう考えられているからだ。


 既にフミヤはそのラインから2年もオーバーしてしまっている。だから彼は相当に焦っていた。


 気合を入れるようにして頬を叩いてから、フミヤは家を出る。


「あ……」


「げ……」


「げ、ってなによ」


 家を出てすぐ、ある人物と遭遇した。そのまま逃げるように通り過ぎようとするも、呼び止められる。


「なっ!? ちょっと待ちなさい!」


「……なんだよ」


 フミヤはうんざりした表情を浮かべその人物を見た。


 黒髪のロングヘアで、スラっとした体型の美人だった。


 彼女の名前はフジヤマ・アサカ。フミヤの家の隣に住む、いわゆる幼馴染というやつだった。


「あんたその恰好、どこ行くつもり?」


 フミヤはジャージに運動靴を履き、背中にバックパックを背負っている。


「クランの入団試験を受けにいくんだよ」


「あんた、まだ諦めてなかったの?」


「ああ。じゃあな」


 そう言って話も聞かず立ち去ろうとするフミヤを、アサカは再び呼び止める。


「ちょっと待ちなさい!」


「急いでるんだけど。話ならまた今度にしてくれないか? もし時間に遅れたら試験が受けられなくなる」


「そんなに時間がかかる話じゃないわよ。どうせかなり早めに出てるんでしょ?」


「…………」


 フミヤは何も返さなかったが、アサカの言う通りだった。万が一トラブルが起きた場合に備え、試験会場に1時間前に着くように彼は家を出ている。


「あんた、魔物を狩り始めてからもう5年も経つでしょ? それなのにまだ一度も入団試験に合格したことがない。はっきり言うわ。あんたには才能がない。探索者なんてやめなさい」


「これから試験を受けに行く人間に向かって吐くセリフじゃねえな」


「別に私もあんたに意地悪したくて言ってるんじゃない。あんたのために言ってるの。このまま無茶をし続けたら、そう遠くないうちに取り返しのつかないことになるわよ」


「別に無茶をしてるつもりはないけどな。対処しきれない魔物が出るところには行かないようにしてるし」


「それも絶対じゃないわ。今まで大丈夫だったからって、次もそうだという保証はないのよ?」


 魔物には様々な種類がいるが、場所によってある程度は出現する種類が決まっている。


 今までに蓄積されてきた情報から、このエリアに出現する魔物の種類はどれとどれだとか、そういったことがわかるのだ。


 だが、それはあくまでも傾向であって、絶対ではない。時には普段見ないような強さの魔物が現れることもあり、探索者を窮地に陥れる。


「要するに、探索者の仕事そのものが無茶なのよ」


 常に命懸け。


 いつ死んでもおかしくない。


 それが探索者という職業だ。


「自分は有名クランに勤めてるくせに、よく言うよ」


「それとこれとは話が別よ」


 アサカは探索者ではないが、とあるクランで職員として働いている。


 しかも、この国に無数にあるクランの中でもトップクラスの力を持つことで有名なクランに。

 

 だからこそ彼女は、探索者の事情をよく知っていた。


「危険なのはわかってるよ。でも、普通に働いたってろくな人生は待ってない。俺みたいに大学も出てない人間は、安い給料でキツい仕事をずっとやらされ続けるだけだ。それなら、一発逆転を狙って探索者にでもなった方がいい」


 今の時代、給料のいい仕事につくには大学に行くしかない。


 大学を卒業すれば、よほど問題のある人物でない限りほぼ確実に大企業や政府の職員など待遇のいい仕事に就くことができる。


 しかし、その大学に入るということが難しかった。


 理由は、大学に入学してから卒業するまでには高い学費が必要だからだ。


 そのため、大学に行けるのは金持ちか政府から援助を受けられるような相当に勉強ができる人間に限られる。


 当然、フミヤは前者でも後者でもなかった。


 だからフミヤは探索者になったのだ。


 探索者として成功すれば巨万の富を手にすることができる。


 それがフミヤに残された唯一の希望だったから。


「……お金のことなら、私も少しは力になれるから」


 アサカの勤めるクランは業界でも有名な力のあるクランであり、そこの職員は大企業の社員並――いや、下手をすればそれ以上の好待遇である。


 つまり、アサカは一般人の中ではトップクラスの高収入なのだ。


 それだけの収入があれば、フミヤに金銭の援助することもできるだろう。


「気持ちは嬉しいけど。でも、さすがにそこまでしてもらうわけにはいかない」


「あげる方がいいって言ってるのに、どうして駄目なの? 私たち家族じゃない。あんたに危険な仕事なんてさせられない」


「じゃあアサカねえが俺のこと一生面倒みてくれるのか? 独身のうちはまだいいとして、結婚した後も? どう考えても無理があるだろ」


「……結婚なんて不確定な未来の話をされても困るわ」


「でも、一生独身でいると決まってるわけじゃないだろ?」


「それは……まあ……」


「だったら結局無理だよ。それに、たださえおじさんとおばさんには迷惑かけてるんだ。アサカ姉にまで迷惑かけるわけにはいかない」


 フミヤの両親は、彼が幼い頃に亡くなっている。


 その後フミヤを引き取って育てたのが隣に住んでいたアサカの両親だった。


 フミヤは15歳までアサカとその両親と一緒に暮らし、15歳からは元々両親と住んでいた家に戻って一人暮らしをしている。


「迷惑だなんて、お父さんやお母さんは思ってないわよ。私だって……!」


 これ以上話したところで、お互いに納得することはないだろう。


 そう判断したフミヤは、強引に話を打ち切ることにした。


「じゃあ俺は行くよ。またな、アサカ姉」


「あ、ちょっと――」


 アサカは不安げな表情で、走り去っていくフミヤを見送ることしかできなかった。



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