第20話 王都にて3

 読者の皆さん済みません。

2話後の物語を誤って公開しました。

従って、それを繋ぐ話を2話(王都にて3、及び王都にて4)一緒に公開します。


     ー*-*-*-*-*-*-*-*ー


 翌朝、いつもは不機嫌な顔でしぶしぶ起きてくる皆が、明るい顔を起きてくる。そして、古着だけど清潔な寝間着から、買ってきたばかりのワンピースに着かえて、スカート部分をつまんで回って自分を見ながらご機嫌だ。


 マリアも上半身を起こしており、顔色もずいぶんよくなって、落ちくぼんでいた目の周りの青かった部分が大部分消えている。

「みんな、おはよう。長い間お世話をかけたわね」


 すこし力の戻った声で彼女が言うと、幼い皆はその声に目を輝かす。マリアは起き上がろうとするが、なかなか立てないようなので、私はあわてて彼女のそばに駆け寄って起きるのを止める。


「待って、クララ、まだ病み上がりだから、もう少し我慢してちょうだい。昨日治してくれた、ライ様がきて、見てもらってからにしようよ」


「うーん。長い間、寝ていたから力が出ないわ。でも、気分はすっかりいいわ。なにより痛みがないのがありがたいわ。そうね、ライ様が来るのを待ちます」


 私は、いつものようにガーラの手伝いで、皆の朝食に昨日買ってきた肉と野菜でスープを作る。今日は、皆清潔な服を着て、朝食べるものがあって、まだまだお金もあるし、本当に幸せだ。


 マリアも昨夜体を拭いてあげて、買ってきた寝間着に着かえさせたけど、長い間に体も随分痩せてあばら骨がはっきり見えるようになっていたし、豊かだった乳房もしぼんだような気がする。


 私は、小さい皆の目が食べ物に釘付けになっているのを見て、さっさと皆に昨日買ってきたパンとマーガリンに、古い木の皿に入れてスープを出して皆に言った。

「さあ、食べなさい。ごめんなさいね。今まで食べるものが無くて」


 そして、私は木の板に載せたスープとパンを運んで、クララの半身を起こして食べさせる。その後自分も食べて、ライ様を待つ間長い間碌に掃除もしてなかった室内を皆で片づける。


 日が高く登り始めたころ、外に出て待っていたジーラが駆け込んでくる。

「ライ様が来たわよ」


 そうやって、皆に告げる彼女は、やせこけているのは変わらないが、悪かった顔色も良くなって何より目が生き生きしてきた。


「さあ、皆外に出てお迎えするのよ」

 私の声に、7歳のジーラの他、8歳のサマーラ、6歳のミラヌとイレナが外に出て勢ぞろいする。近づいてくるのは、ライ様に昨日と同じ、カーリク様と2人の兵士だ。

ライ様が片手をあげて、私達に向かって笑顔で言う。


「やあ、皆綺麗になったね。元気そうになってよかった」

 私達は練習していたように、私が口上を言って、皆で揃ってお礼を言う。


「ライ様、カーリク様。おかげさまで、本当に久しぶりに十分食べることが出来ました。また、体も洗って人並の服を着ることが出来ました。本当にありがとうございました」


「ありがとうございました」

 皆揃って言って、頭を下げる。

「いや、いや。皆が元気になってくれてそれで十分だよ。クララはどうかな?」


 ライ様は、小さな体で大人のようなことを言って、中に入ると、クララも上半身を起こしている。ライ様はクララをみて、彼女に近づいて寝床の横にひざまづく。


「やあ、クララ。だいぶ顔色もいいな。ちょっと見せてくれるかな」

 そうして、彼女の体をジッと見て言う。体の中を魔法で見ているのだろう。


「うん、体の中で血も出ていない。良くなっているよ。後は長い間、動かなかったから衰えた筋肉をつけるために、少しずつ動くことだね。とりあえず立ってみよう」


 そう言って、クララの後ろに回って「そら立ってごらん」そう言うと、クララの体が持ち上がって、よろよろしながら立ち上がる。魔法でその体を持ち上げて、立たせているらしい。確かにライ様の身長では持ち上げることは難しいだろう。


「ライ様、私が」

 私はクララに駆け寄り、彼女を支える。彼女の手が私の肩にかかり、力が入る。


「そら、少し歩いてごらん」

 ライ様の言葉に、クララは唇をかみしめて、よろよろしながら歩き始める。


「そう、その調子で、一日数回、あまり疲れない範囲で出来るだけ歩きなさい」

 しばらくそうやって室内を歩いて回ったあと、ライ様が止めさせて、クララは再度横たわる。


「さて、今から君らに魔法の処方をしよう。ジーラはもう魔法を少し使えるようだし、魔力はすごく強いな。カーミラも結構魔力が強いから魔法を使えるようになるよ。他の皆も身体強化は使えるようになるから、やった方がいいよ」


 ライ様はそう言って、私達皆を立たせて、魔力を感じさせ、魔力を操り・体に巡らせる。しばらくすると皆、身体強化ができるようになって、軽く跳んでも考えられないほど跳びあがる。


「身体強化は、今やったように入るんだよ。今日は余り体を急に激しく動かないように少しずつ慣らしていきなさい」

 ライ様はそのように皆に言い聞かす。


 それから、私の顔を見て言う。

「さて、この家の家主の家に行こう。カーミラ案内しておくれ」


 私はそれを聞いてためらった。家主のイーガルさんは私たちが住み着いているのを黙認はしてくれているのだけど、余りいい気はしていないことは確かだと思う。出来れば出て行って欲しいと思っているはずだけど、私達を哀れに思って無理に追い出そうとはしていない。


「あの、家主はイ―ガルさんですが、どういう話を?」

 私は恐る恐る言ってみたが、ライ様は笑って言う。


「心配ないよ。そのイ―ガルさんに、君たちが済むのを黙認してもらったことにお礼を言って、ここを買わせてもらおうと思っている。ここは、商売するには向かないけれど、倉庫を作るにはちょうどいい」


 その言葉で私は安心したけれど、ずいぶんお金がかかるのではないかと心配しながら、近所のイ―ガルさんの家に案内する。とはいっても、私はクララさんから家主と聞いているだけで、話したことはない。


 案内した家に着くと、兵士の年かさの人ミザルさんが、ドアを叩いて呼びかける。

「イ―ガルさん。ごめん下さい」


 その声に、60歳くらいの穏やかそうな白髪の人がドアを開けて、子供3人と兵士らしき大人2人という変わった一行を見て答える。

「私が、イ―ガルですが、どういった御用件でしょうか」


「あなたがお持ちの、あの角を曲がったところにある、土地と廃屋についてお話をしたい」

 ミザルさんが言うとイ―ガルさんが応じる。


「確かにあそこは私が持っている土地です。家は実際には値打ちはないがね。子供たちが住み着いていて困ってはいるが、哀れでね。追い出せないのだよ」


「あなたの土地ならよかった。出来れば、あの土地を譲ってほしい。あそこに倉庫を建てる予定なのだ」

「うむ、それは願ってもないが、あの土地は半エル(500㎡)もあって、安くはないよ。それとその場合、子供たちを追い出すのかい?」


「子供は、商売に雇うつもりだ。あそこは倉庫兼の子供の宿舎にする予定なのだ。それで、いくら位を考えているのかな?」


「前に金貨20枚(2万ダイン)で買うといった話があったが、安すぎて断った。40枚は欲しいところだが、子供たちの面倒も見てくれるというのであれば気が楽だ。わしも老い先短いのでそう金は要らん。金貨30枚だったら売ろう」


 私は途方もないお金に気が遠くなったが、ライ様がそこに口を挟む。

「買った!金貨30枚ね」


 ライ様はどこからか、皮の袋を出してきて、そこから金貨を出して数え始める。

イ―ガルさんがびっくりしてライ様を見て、ミザルさんに問うように視線を向ける。

「こちらが、ライ・マス・ジュブンラン、ジュブラン男爵家の御次男だ。彼が、土地を欲しがっているのだ」


 ミザルさんの答えにライ様がニッコリ笑って言う。

「イーガルさんも、最初から僕のような幼い子供から、土地を売ってくれと言われても話をする気にはなれないでしょう?」

「う、うむ。そうだね。君はあの土地で何を?」


「はい、いずれ、私の領で作る産物を王都で売ろうと思っていたのです。その場合、いずれにせよ、倉庫が要りますが、当面あのくらいの土地があればいいでしょう。また、直接には、このカーミラもその一人ですが、孤児のかれらを助けてやりたいと思ったのが動機ですね。あそこには倉庫と、雇う孤児の宿舎を作ります」


 イーガルさんの問いにライ様が答える。それから、近くの公証人を呼んできて、契約書を作って、私達の家に帰ってきたのはもう昼になる頃だった。帰る前にライ様が気になることを言った。


「イーガルさん、僕たちが今日は変わった方法で家を建てます。多分夕方には大体の形は出来ていると思いますよ。良かったら、見に来てください」

「おーお、それは是非見てみたいな。いずれにせよ。夕方には行ってみるよ」


 イーガルさんは冗談だと思ったのだろう、笑って言った。帰る途中、食べ物屋がないかというライ様の言葉に、少し回り道をしてランチということで、一緒に歩いている皆と、待っている子供たちのためのランチを飲み物と一緒に買った。


 かなりかさばるが、ライ様がアイテムボックスというものに片端から収納していったのには驚いた。たった今買った土地に着いたライ様は、私たちが住んでいる廃屋と広い草むらを見比べて言った。


「ランチは外だね。では土魔法で、テーブルとイスを作ろう」そう言って、ライ様が周りに腐りかけた板塀のある土地の端を見つめ、「テーブル!出てこい!」叫ぶと、ちょうどテーブル位の高さの平らな台が地中から生え、さら上の台が外に張り出す。


 ここにいる2人の大人、7人の子供には十分な広さでしょう。

 今度はライ様が「イス!出てこい!」と叫ぶと、そのテーブルの周りの、イスとして程よい位置に少し高めと低めの台がにょきにょき現れる。


 見ていた子供は大はしゃぎで、すぐに現れたテーブルとイスと言うかベンチに駆け寄り、イスに座って撫でている。

「わあ!すべすべ。テーブルもすべすべ!」


 ライ様が、食べ物と飲み物をテーブルの上に出す。見ていると、何もないところから急に物が現れる感じだ。

「さて、クララを連れてこようか。今日は天気がいいからね。外の方が気持ちがいいよ」


 ライ様の言葉にはっと気が付いて、私は「私が連れてきます」そう言ってクララを起こして、外に連れ出す。久ぶりに外に出て、その光にまぶし気にしているクララを支えながら、たった今出来たベンチに座らせる。


 クララはちょっとつらそうだけど、明るい外で沢山の食べ物を見てはしゃいでいる子供たちを楽しそうに見ている。

「では、食べようか、沢山食べてね。午後は家を建てるから忙しいよ」


 ライ様が声をかけて「頂きます」と小さい子供が元気に言って食べ始める。ライ様も小さいのだけど。

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