異世界転生してスライムになった僕は、勇者の相棒となる!?そして、最弱のスライムがラスボスとして、勇者の前に現れる……。

緑のキツネ

第1話 異世界転生

――午前0時を過ぎた静寂な町。


2年前まで、この町は、若者達の聖地として盛り上がっていた。家出をした若者達が集まり、グループを作って活動していた。


この町に警察は居ない。だから思いっきり遊ぶ事が出来た。犯罪行為もバレない。何をやっても良い自由な町だと言われていた。


でも、今は、警察署ができた事で、制限が設けられ、若者達は殆ど居なくなった。


そんなある日、春香から1件のLINEが来た。


「ねえ、病院の屋上に来て」


春香と出会ったのは3年前の事だった。







3年前、僕はこの町にやって来た。両親から逃げる為に……。きっかけは些細な事だった。僕は高校3年生でどこの大学行くか考えていた。僕は将来、ゲームクリエイターになりたかった。


自分の作ったゲームをみんなに遊んでほしい。そんな思いを持っていた。だから、大学もプログラミングが学べる学科がある場所を探していた。


ここから少し離れたところにプログラミングが学べる大学はあった。


「僕、この大学に行きたいんだけど……」


そう言って、両親にパンフレットを見せた。その大学は私立。入学金も高い。お父さんはそれを見た瞬間、怒り始めた。


「ゲームクリエイターなんて上手くいくはずが無いだろ!!もっと人生をしっかり考えろ!!」


お母さんも静かに頷いていた。僕の両親はいつも厳しく、僕の意見を受け入れてくれない。


高校を選ぶ時も行きたい高校があったのに、頭の良い公立の高校を受験させられた。


「やってみないと分からないだろ!!」


パチン!!


お父さんは僕の頬にビンタをした。頬から全身に痛みが走る。


「ゲームクリエイターで活躍できるはずが無い。今すぐ諦めて、サラリーマンにでもなれ!!」


「嫌だ!!」


「じゃあ……出て行け。お前なんか俺たちの息子じゃ無い」


「お父さん、それは言い過ぎですよ……」


俺達の息子じゃ無い……。その言葉は僕の胸に深く刺さった。重く痛い針のような感じ。そんな事を思っていたなんて……。


「分かった!!出ていってやるよ」


近くにあった小さな鞄を持って、帰り際にお母さんが1枚の紙を渡してくれた。


「ごめんね……」


お母さんは涙を流していた。お母さんは、いつも僕の味方をしてくれた。でも、お父さんに厳しく言われたのかもしれない。


「その紙はお父さんが書いた手紙なの……。読んでみてね」


僕は、黙ってこの家を出ていった。アイツの手紙なんて読みたく無い。僕はお父さんが大嫌いだ。お父さんなんて死んでしまえば良い。


その手紙を粉々に破り、ゴミ箱に捨てた。最近、家出をした若者達が集まると噂の街に向かった。






でも、お金も無い僕がここでどう過ごしていけば良いのだろうか。


「君も逃げて来たの?」


突然、1人の女の人に声をかけられた。僕は動揺していた。女子と話すことなんて滅多になかったから緊張していた。


「はい……。家出して来ました」


「私と一緒だね。私は春香。18歳だよ。君は?」


「僕は……秀太。18歳です」


「同い年だね。じゃあ私達のグループに入る?」


「グループ?」


「うん。この町ではグループを何個か作って、そのグループ内でお金の管理をするの。私達のグループ、結構お金稼いでいるから。分けてあげるよ」


そう言われ、彼女に付いて行くと、女子2人と男子2人が楽しく話していた。そこで、自己紹介をした。


「僕の名前は広瀬秀太です。好きな事はゲームをすることです。特に異世界ゲームにハマってます」


そう言った瞬間、みんなが笑い始めた。


「そんなに固くなるなよ。タメ口でいいから。俺も異世界ゲーム好きだよ!!」

 

「私も異世界ゲーム好きだよ。好きなキャラは?」


好きなキャラなんて聞かれた事がなかった。異世界ゲームを始まりから順に振り返っていった。最初に出会うモンスターが……。


「えっと……スライムかな」


本当は好きでは無かった。適当に言っただけだ。


「えーー!?何で!?弱いやん」


「可愛いから」


「俺、ずっと思うんだけど、スライムって最強だと思わない?口と鼻を押さえれば、呼吸困難に出来るんだよ」


確かに……。そういう見方で見れば、スライムって意外と強いのかもしれないな。新たなスライムの強さの一面を知る事が出来た。


「確かに」「それな」


異世界ゲームの話で僕はグループの中に入れた。それから色々と話して仲良くなり、この町での生活が始まった。





このグループに入って2年が経ったある日、この町に警察がやって来た。他のグループのメンバーが次々と万引きや窃盗の容疑で逮捕されていった。


僕達のグループは大丈夫だよね……。心の中で願いながら警察がこの町を去るのを待った。


僕達のグループは万引きや窃盗なんてやっていない。みんなのバイト代でお金を稼いでいた。


しかし、春香と僕以外、全員捕まってしまった。彼等は、お金の配分に不満を抱いており、金持ちの人からお金を盗んだ事があったらしい。


警察はこの町を出て行った。あんなに賑わっていた町が一瞬で静かになった。


それから、この町にグループのメンバーが戻ってくる事は無かった。きっと、自立して色んな場所で働いているのだろう……。





あの後、友達がいなくなったことでショックを受け、春香は精神障害を患っていた。


「久しぶりだね」


何も無い壁に話しかけたり、急に泣き出したり、幻覚や情緒不安定の症状が出始めていた。でも、僕が春香の元に行くと、症状は一時的に治る。


病院の屋上に行くと、春香がベンチに座って、空を見上げていた。


「何かあったの?」


「何もないよ」


春香は僕の方を見る事なく、ずっと星を眺めていた。


「ねえ……僕に会うのが嫌なんだよね?」


「嫌じゃ無いよ。秀太の事は好きだよ」


僕は全部分かっていた。春香がどうして、自分に会うと一時的に治るのか。


本当は一時的に治っていない。僕を見ると、周りにグループのメンバーが幻覚で見える。大好きな僕に心配させたく無いから、強がっていただけで、本当はみんなを見るだけで……心が辛くなるはずなのに。


「僕に心配させたく無いから強がっていたんだよね?」


「やっぱり……バレたか。そうだよ。秀太と会うのが1番辛い。長年一緒だったメンバーの顔を思い出すから……。本当は会いたくない。会いたくないけど、会いたくなるの」


「ごめんね」


「秀太が謝らなくても良いよ。今日は、別れを告げたくてここに呼んだの……」


「別れ?」


「私、生きていくのが辛い。秀太と会うのも辛いし、会えないのも辛い。いつも秀太の事ばかり考えてしまう……。会いたいけど会いたくない。今も、、」


春香をここまで追い込んでしまったのは、僕のせいなのかもしれない。


「じゃあ、、サヨナラ」


「待って!!僕も春香の事が好きだよ」


春香が自殺をしようとしている時に、告白なんて馬鹿かもしれない。でも、最期に想いを伝えたかった。


「私も秀太の事が大好き!!」


人間の性は不思議なものだ。僕はずっと長生きしたいと思っていたのに……。今、僕の頭の中には、春香と一緒に死ぬことしか無かった。春香と一緒に死ねば、春香を苦しめた事への罪滅ぼしができるかもしれない。僕は、空に駆け出していた。


「待って!!」


春香も僕の後を追って、空へ駆け出した。





――午前1時を過ぎた静寂な町で、2人の若者の中にあった灯火が静かに消えて行った。

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