リンネローチ☆カプリッチョ
ゴカンジョ
第1話
まるで格式高いオークションにかけられる逸品であるかのように、赤い毛氈の敷かれた台座の上に鎮座まします転生ガチャは、薄暗い闇の中、ピンスポットライトを浴びて、妖しくきらめいていた。
鉄製と思しき黒い台形状のブロックから、ビカビカに磨き上げられた銀色のピストンシリンダーみたいなものが、扇状に何本も飛び出している。幅1メートル、高さ60センチ程度の重厚感あるその外見をマサヨシは、人生の成功者が乗り回すスーパーカーに搭載された、光り輝くW型16気筒エンジンみたいだと思った。
装置の中央からは、「&」マークのオブジェみたいな形をしたクリアケースが上に突き出ている。ヘンテコな形のケースは、一見すると丸底フラスコに似ていた。ただ、胴体から伸びる細長い首は、途中でぐにゃっと大きくひん曲がると、湾曲しながら下に向かって伸びて、そのまま丸い胴体部に突き刺さっている。「口のないフラスコ」とでも呼べばいいか。
そして、その騙し絵みたいなクリアケースの表面には、「転生ガチャ」と書かれた白い小さな紙切れが、マスキングテープでペラっと貼っつけられているのであった。
ケースの中には、卵型のカプセル容器らしきものがいっぱいに詰め込まれている。ケースの下にはガチャガチャっと回せそうなレバーと、コイン投入口のようなものもある。なるほど確かに、カプセルトイ販売機に見えなくも、ない。
小学生みたいなヨレヨレ文字で「転生ガチャ」と書かれた、ノートから雑に千切ったらしい紙切れを貼っつけているあたりは、いかにも人を小ばかにしている。しかし、「転生ガチャ」の作りこみ具合といったら、見るからに半端ではない。ガワを作るだけでも相当金がかかっているはずだ。これがカプセルトイコーナーの一角にあったとしたら、「ちょっとやってみたい」と思う人間も、相当数いるだろう。
「転生」などというオタク御用達設定に興味のないマサヨシだって、これを見たクラスメートが「やってみようぜ!」なんて盛り上がったとしたら、孤立しないよう場の空気を読んで、転生ガチャを回したに違いない。
ところが今のマサヨシは、そんな転生ガチャを回そうなんて気には到底なれなかったのである。
なぜならマサヨシは目下のところ、どこだかさっぱりわからない暗い場所で、マンガに出てくる「とっ捕まったドロボー」みたいに、しっかり固定された丸型ポールに上半身を縄でぐるぐる巻きに縛り上げられているのだから。
「やあマサヨシ君! 元気かい!?」
台座のそばで一人、白いウサギのベネチアンマスクをつけて、しかしそれ以外は一糸纏わぬ「生まれたままの姿」でジョジョ立ちしている男が、高校の制服姿のまま胡坐座で身動きとれぬマサヨシに向かって呼びかけた。
「ボクは転生ガチャの精霊! よろしくね!」
人気テーマパークのマスコットキャラみたいな調子でそう名乗ったすっぽんぽん仮面野郎。どっからどう見ても魂のステージが高すぎるこの
オープンマインドであることを示しているつもりなのか、しなやかな細マッチョボディにぶら下げた凶悪な「
誰か、助けてくぇ~。
通学途中の高校生には無縁なはずの激レア反社イベント「拉致監禁」の被害者となったマサヨシは、青春のシンボルが目立つ赤みがかった顔面を蒼白にしながら、心の中でか細く助けを求めたのだった。
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