ポイズン~自己中毒~

喜屋武 たけ

第1話

 正月気分がまだうっすらと残る、松が取れたばかりの平日の昼前。

 綿貫政雄は乾燥した砂埃混じりの寒風が容赦なく吹き付ける地上ホームから、地下鉄東西線の暖かい車内に身体を滑り込ませると、無意識に安堵のため息をついた。

 だが次の瞬間、乾いた鼻腔粘膜をカレーと思しき刺激的な臭いが襲ってきた。

 昨年九月に六十二歳で四十年間勤めた会社を定年退職し、全てに窮屈だった通勤電車とはめでたく縁が切れた。

 時間に追われることのない今は、平日の昼間にゆったりと走る電車の座席で推理小説を読むことは政雄の楽しみの一つだ。

 しかし、予想だにしていなかった刺激臭に、安息地帯の空席に向かう足が止まってしまった。

 政雄はカレーの臭いの発生源を、さりげない視線で探した。

 吊革に摑まっている乗客はわずかで、心地良い電車の暖気に目を閉じて居眠りをしている乗客以外は、席に座ってスマホやスポーツ新聞、あるいは本を見ている。

 そんな平和な車内でドア寄りの席に座り、だらしなく広げた脚の上に置いたカレーを、黙々と食べている若い女性がいた。

 迷彩色のダウンジャケットを着て、細めのダメージジーンズ、モコモコとしたムートン風の汚れたブーツを履いている。

 色褪せ気味の金髪に毛玉が目立つ黒のニット帽を被り、そこから覗く金髪に隠れた耳には、スマホから伸びたイヤホンのコードが挿されていた。

 女性は慣れた動作で、右手のプラスチック製のスプーンでカレーライスを口に運び、時折、横に置いてある黒いリュックからペットボトルのお茶を出して飲んでいた。

 他の乗客は避けているのか、その女性の両隣の席は空いている。

 政雄は席が空いていると思い、カレーを無心に食べている女性の方に足を向けていた。

 だが、カレーの臭いとその女性から発せられる負のオーラを感じ、ぎこちないステップで咄嗟に向きを変え、ドアに凭れかかることにした。

 車内をそれとなく見回すと、寝ている乗客以外の人々は、このカレー女とでも呼ぶべき若い女性にチラチラと覗き見をするように視線を向けるが、注意をする人はいない。

 政雄もこのような異質な人間に、注意や意見を言う勇気は持ち合わせていなかった。

 窓外を流れる見慣れた風景に視線を向けたが、カレーの臭いが気になって、マスクをしてこなかったことを悔いた。

 

 異様な車内の事情を忖度することなく、電車は徐々に速度を落とし時刻表通りに行徳駅に到着した。

 政雄のいる車両からは降車する人はなく、外の冷気と一緒に数人の乗客が、ホームから異空間と化している車内へ無防備に入ってきた。

 その中に臙脂色のコートを纏い、銀のメタルフレームの眼鏡をかけ、顔半分が隠れるように手編みらしいマフラーをした初老の女性が、しっかりとした足取りで乗車してきた。

 初老の女性は脇目も振らずに、一直線に空いているカレー女の隣の席を目指し、勢いよく席に腰を下ろした。

 初老の女性は席を確保した安心感からか、手に持っていた布製のバッグを両膝の上に載せ、マフラーとその下のマスクを外して暖かい車内の空気を深呼吸するように吸い込んだ。

 政雄の位置からはカレー女と初老の女性が良く見えたので、初老の女性がどのような反応を示すのかと興味深く見ていたが、深呼吸を止めた初老の女性はいきなり右隣のカレー女に顔を向けた。

「ちょっと、あんた!なんで電車の中でそんなもの食べてるのよ!」

 平日の長閑な車内の空気を一変させるのに充分過ぎる、金属質な声が響いた。

 カレー女は突然の攻撃に全く動じることなく、スプーンでカレーライスを口に運び、落ち着いた動作でリュックからペットボトルを取り出した。

 そして、流れるような動作でキャップを開けてから、美味そうにお茶を飲んだ。

「あんた、聞いてるの?なんでカレーなんか食べてるのよ!電車の中がカレー臭いじゃないの!」

 自分の言葉に無反応なカレー女を睨んで、初老の女性は抗議を続けた。

 だが、カレー女は初老の女性の声が聞こえていないかのように、スマホの画面を操作し、またスプーンでカレーライスを口に入れた。

「ちょっと、あんた聞こえないの!イヤホンを取りなさいよ!」

 初老の女性は、カレー女がスマホを持っている左腕に手をかけた。

「うるせーな!なんなんだよ!」

 カレー女は語彙力のない男のような科白を吐き、スマホを持った左腕を乱暴に振って初老の女性の手を撥ねのけた。

「うるせーなってどういうことなのよ!あんた、そんなににおいの強いものを車内で食べていいと思ってんの!」

 初老の女性はカレー女を睨み、残り少なくなっているコンビニのカレーライスを指差した。

「バアサンには関係ねーだろ!ちゃんと料金払って電車乗ってんだ。何を食べようがあたしの勝手だろ!」

 カレー女は左耳からイヤホンを外し、初老の女性を睨み返した。

「関係ないってことないでしょ!カレーの臭いが充満してるじゃないの!乗ってる他の人たちに迷惑だって分からないの!」

 初老の女性はそう言って、車内を見回した。

 二人の様子を腰を引き気味にしながら傍観していた政雄は、初老の女性と視線が合いそうになり、慌てて流れ去る街並みに視線を変えた。

 他の乗客も、二人の戦闘バトルから距離をとるようにして視線を逸らしている。

「うるせーんだよ!あたしがどこで何を食おうと勝手だろ!」

 そう言って、カレー女は残りのカレーライスを福神漬けと一緒に掻っ込み、ポケットから出したコンビニのレジ袋に、空になった容器を乱暴に入れた。

「勝手じゃないでしょ!人に迷惑をかけちゃダメだって学校で習わなかったの!」

「別に迷惑なんてかけてねーだろ!あんたの安い香水の方が、あたしには迷惑だよ!」

 カレー女は汚れたブーツを跳ね上げるようにして脚を組んだ。

「まあー、なんて言い草!あんた、頭おかしいんじゃない!電車の中でカレーなんかを平気で食べるし、それを注意されても平気な顔して……。恥っていうものを知らないの!それでも日本の女性なの!」

 初老の女性は自分の香水のことを指摘されたからか、激高してカレー女に詰め寄った。

「バアサンには関係ねーだろ!こう見えてもバリバリの日本の女だよ!萎びたあんたみたいな元女なんかとは違うんだよ!」

 カレー女も負けていない。

 組んだばかりの脚を降ろし、初老の女性に向かって痛罵した。

 

 車内の修羅場に関係なく、電車は規則正しく南行徳駅に到着した。

 政雄は一瞬この電車を降りようと考えたが、野次馬根性に負けてそのままドアに寄りかかった。

 小さな女の子を連れた若い母親が二人の諍いを横目に降車し、代わりに数人の男女がヒートアップした二人の熱気と、カレーの臭いが残っている車内に乗り込んで来た。

 その中のサラリーマン風の男性が空いている席に足を向けた。

 だが、そこは熱戦の真っ最中だということを素早く察知し、先程の政雄と同様によろけるようなステップで、熱戦の場から離れた空席に目標を変更した。

「萎びたですって!あんたこそ、その汚らしいトウモロコシのような髪の毛と、粉をふいてる貧乏くさい化粧をどうにかしなさいよ!家に食卓がなくて、車内でカレーを食べるしかないようだけどね!」

 初老の女性は口が達者なところを見せ、カレー女に反撃をした。

 カレー女も直ぐにカウンターを返そうとしたが、たった今乗車してきた紺色の作業服のようなジャンパーを着た五十歳前後の角刈りの男性が、二人の間に割り込んできた。

「おねーちゃん、なに揉めてんの?」

 角刈りの男性は両手で吊革に摑まって、カレー女の顔を見下ろすようにして前に立った。

「なんだよ!おっさんには関係ねーだろ」

 カレー女は初老の女性を睨みつけていたムカデのような睫毛に縁どられた眼を、角刈りの男性に向けた。

「関係ねーってことはないだろ。電車に乗ったらカレーの臭いがしたけど、おねーちゃんだろ?」

 角刈りの男性は、カレー女の横に置いてあるコンビニのレジ袋を顎で指した。

「そうなのよ。この人、車内でカレーなんか食べてるから臭いがきついですよって注意しても開き直ってるのよ」

 孤立無援状態だったが、颯爽と現れた援軍の登場に初老の女性は力を得て、どんなもんだといったドヤ顔をカレー女に向けた。

「そりゃいけねーな、おねーちゃん。いくら大好物でも、周りに人がいる電車の中で臭いのするもん食っちゃだめだよ。あんた一人の電車じゃないんだからな」

 角刈りの男性は見た目の印象とは違って、至極もっともなことを言った。

「あんたらみたいにヒマじゃないんだよ!こっちは時間に追われて生活してんだ!」

 カレー女は角刈りの男性をキッと睨み返した。

「ヒマで悪かったね。でもさ、だからと言ってなんでもあんたの都合でことを進めてもいいって風にはならないだろ?世の中にはカレーの臭いが嫌いな人だっているんだぜ。それに、そんなに忙しいんなら、早起きするとかしたらいいだろ?夜遅くまで何をしてるのかは知らねーけど」

 角刈りの男性はそう言って、ヤニで汚れた歯をむき出して下卑た笑い方をした。

「うるせーな!なにいやらしい顔で笑ってんだよ!」

 カレー女は横に置いてあったリュックとコンビニの袋を持つと、角刈りの男性を押し退けるようにして立ち上がった。

 電車は徐々に減速して、浦安駅に到着しようとしている。

「ちょっとあんた!逃げないでよ!一言謝ったらどうなのよ!」

 初老の女性は、立ち上がったカレー女の背に向けて言葉を投げつけた。

 電車は定刻通りにホームに滑り込み、規則正しくドアが開いた。

 カレー女はホームに降りたがその場に立ち止まり、ドアが閉まる寸前に食べ終わったカレーライスの容器が入ったコンビニのレジ袋を、初老の女性と角刈りの男性に向けて投げつけた。

「きゃあ!」「なにしやがる!」

 投げつけられた二人が驚きながらコンビニのレジ袋を避けた時、電車のドアが間の抜けた音と共に閉まった。

 走り出した電車からホームを見ると、カレー女は慌てる風でもなく、悠然とホームを歩いていた。


「まったく!何を考えてるのかしら!」

 初老の女性が憤懣やるかたない、といったように角刈りの男性を見た。

「奥さん、最近ああいう変なやつって結構いるんですよ。たまたまレジ袋を投げただけだから良かったけど、下手すると刃物かなんかでブスっとやられるかもしれないから、気を付けた方がいいですよ」

 角刈りの男性はそう言って、足元に転がっているコンビニのレジ袋を蹴って、座席の下の方に追いやった。

「そうですね。でもありがとうございました。あなたが助けに入ってくれたから、あの人も居づらくなって電車を降りたんでしょうし」

 初老の女性の言葉に、政雄を含めて傍観者を決めてかかっていた乗客は下を向いた。

「いや、何、ちょっとお節介かなと思ったけど、悪いことは悪いって誰かが言わないとね」

 角刈りの男性は、少し照れたように小さく笑った。

 次の葛西駅に電車が滑り込むと、初老の女性はカレー女が投げ込んだコンビニのレジ袋を拾い上げ、角刈りの男性にお辞儀をして電車を降りた。

 静かになった車内には、カレーの臭いと、政雄を含めた傍観者たちの気まずさが残っていた。


 地下に潜って最初の南砂町駅で降車した政雄は、地上に出てからバス停の時刻表を確認したが、次のバスまで二十分程の間があった。

 寒空の下で長い時間待つのも辛いので、運動不足解消とバス代の節約を兼ねて、徒歩で北砂にある中華屋に行くことにした。

 ゆっくりと歩いて少し身体が温まった頃、政雄は昭和の雰囲気を色濃く残す商店街から狭い路地に入り、数軒の住宅の前を通り過ぎてから年季の入った中華屋の前に立った。

 汚れた暖簾に辛うじて読める文字で〈紅龍亭〉と書かれていて、路地に面した換気扇は油まみれになりながら、食欲をそそる炒め物の匂いを吐き出している。

 店の前に本日のランチメニューが書かれている黒板があり、政雄はその黒板を一瞥してから暖簾をくぐった。

 店内は中華鍋のたてるリズミカルな音と、元気のいいおかみさんの声が響き渡り、平日のランチタイムらしい活気に満ちている。

 店の奥にテレビが置いてある座敷があり、そこに生ビールのジョッキと餃子の皿を前に、政雄と同年配の男が二人、笑いながら話をしていた。

「綿貫、こっちだ」

 白髪が目立たない長めの髪型と、細面に黒縁メガネをかけている方が政雄を手招きした。

 小学校時代から半世紀以上の長い付き合いになる、親友の長谷川浩之だ。

 もう一人の男は、政雄に笑顔を向けて生ビールのジョッキに口をつけているが、政雄には面識がなかった。

 政雄は座敷に上がりながら、白髪交じりだが豊かな髪を角張った顔の真ん中から分けている男に、軽く目礼をした。

 そのやり取りを見ていた浩之が、笑いを押し殺している。

 席に近付いて来たおかみさんに「俺も生ビール」と頼んで、政雄は浩之の隣に座り、着ていたダウンジャケットを脱いだ。

「綿貫、分からないか?」

 浩之は黒縁の眼鏡越しに悪戯っぽい目で政雄を見てから、正面の男に視線を向けた。

「いや……ちょっと分からない。俺の知ってる人?」

 戸惑い気味に政雄が言うと、正面に座っている男がテーブルに手をついて、顔を近づけてきた。

 中肉中背だが、腹周りはでっぷりとしている。

「俺だよ。分からないか?」

 男は政雄を試すように言った。

「いや……すみません、ホント分からない……。いつ頃会いました?」

 会社員時代は営業の第一線で働いてはいたが、実は人見知りの政雄は背を反らし気味にして、無遠慮に話しかけてくる男の顔を見た。

「俺はすぐに綿貫って分かったぞ、なーんて、長谷川から綿貫が来るって聞いてたからだけどな。俺だってお前と偶然道ですれ違ったりしても気が付かないよ」

 今でも三十代の服が着ることができるスリムな体形の政雄に視線を向けたまま、男は餃子を口に入れた。

「えー、誰?ホント分からないんだけど。小学校か中学校の同級生?」

 政雄は再び正面の男を凝視した。

 その時、政雄が注文した生ビールが届いたので、浩之が正面の男に正体を告げる承認を取るように頷き、「まあ、先ずは乾杯だ」と言って、自分のジョッキを持った。

 政雄も冷えたジョッキを手に持ち、三人でジョッキを軽くぶつけ合った。

「四十五、いや四十七年振りか?」

 ビールを一口飲んで、浩之が男に確認するように訊いた。

「そうだな、中学を卒業して以来だからな」

 男は頷き、政雄を見た。

「いい加減に教えろよ、誰?」

 政雄が焦れて、浩之に詰め寄った。

「ホントに分からないか?……梅沢だよ、梅沢良彦」

 浩之が笑いながら、男の正体を明かした。

「えっ!梅沢?あの梅沢か。三年の時F組にいた」

 驚いたように政雄が言うと、梅沢は「やっと分かったか」と笑った。

「全然分からなかったよ。だって中学の時はもっとひょろっとしてたよな?髪の毛も短かったし……。いやー、でもホント久しぶりだよな」

 中学生時代の面影が全くない同級生を前にして、政雄は驚きと懐かしさで言葉が上手く出てこない。

「綿貫だって背は高くなったけど、オッサン丸出しだな。あの頃はもう少しハンサムというか美少年だったぞ。髪の毛もふさふさだったし。でも、やっぱり下っ腹は俺よりはましだが、少し出ているな」

 梅沢はそう言って、白髪は目立つがボリュームのある自分の髪の毛を掻き上げた。

「驚いただろ?俺も一週間くらい前に、ひょんなことで梅沢と再会したんだ。その時、中学時代の話になって……。それで今でも付き合いのあるお前にも会わせようと思ってさ」

 懐かしがりながらも下っ腹を気にして擦る政雄に、浩之が謎解きをするように言った。

「へー、どこで会った?」

 政雄が二人の顔を見ながら訊いた。

「俺が北砂こっちで部屋を借りることにしたんだが、不動産屋に紹介された賃貸物件の契約書を見たら、オーナーの名前に記憶があったんだ。しかも住所は北砂だ。それで不動産屋に訊いたら、オーナーは昔から北砂ここの住人だって言うんで、契約書に書いてある電話番号に来月からお世話になりますって電話したわけよ。そしたらビンゴ!」

 梅沢は器用に指をパチンと鳴らし、浩之はそうだというように頷いた。

「あー、浩之の持ってるマンションを借りるのか。今はどこに?確か、中学を卒業してすぐに川崎の方に引っ越したよな」

 政雄は当時の記憶を手繰るように、油とタバコのヤニで薄汚れた天井を見上げた。

 

 政雄と浩之、それに梅沢の三人は、中学時代に一緒に遊ぶ仲だった。

 政雄と浩之とは小学校に入学した時からの付き合いだが、梅沢とは中学校に入ってから部活の野球部で知り合い、三年に進級した時に三人共同じクラスになったこともあり、それからはお互いの家に行き来をするような仲になっていた。

 高校は三人共別々の学校に進学することになったが、梅沢は卒業して直ぐに親の仕事の関係で川崎市に転居した。

 その後、生活圏の違いから政雄や浩之と会う機会がなくなり、お互いに疎遠になってしまった。

 政雄は大学を卒業して総合化学会社に就職し、入社と同時に会社の寮に入るまで江東区北砂の実家で生活していたので、浩之との付き合いは続いていたが、梅沢とは年賀状のやり取り程度になり、それもいつしか途絶えてしまった。

「ああ、麻生区にな。結婚してからは世田谷にいたんだが、だいぶ前に別れてからは横浜、といっても戸塚だ。だけどこの春に無事に定年で仕事を辞めるので、子供ガキの頃に住んでた下町が懐かしくて、四十数年振りに砂町の方に引っ越すことにしたんだ。これからは通勤の心配は要らないから、駅近じゃなくてもいいしな」

 梅沢は早口で説明してから、ジョッキのビールを飲み干した。

「俺もビックリしたよ。入居前の人から電話なんて殆ど貰わないからな。最初は家賃の値切り交渉かと思ったよ」

 浩之は笑いながら、正面に座っている梅沢を見た。

「で、俺が不動産屋の前から電話してるって言ったら、長谷川がお茶でも飲もうって言うんで、商店街の喫茶店で久しぶりの再会となったわけさ」

「その時昔話をして……当然お前の話にもなって、引っ越して来たら三人で一杯やろうかって言ったんだ。そしたら今日、不動産屋に諸費用の支払いと正式契約をしに来るって言うんで、お前にも声を掛けたんだ」

「そういうこと。でも、綿貫には俺が来ることは内緒にして、驚かせようぜってなったんだよ」

「なーんだ。浩之とは時々会ってるから、今日の呼び出しもいつもの飲みかと思ってたよ。でも、店に入ったら見知らぬオッサンがいたので誰かなと思ったんだ。でも、ホントに懐かしいな。こっちに引っ越してくるんなら、これからは時々会えるな」

 政雄が浩之と梅沢の顔を交互に見ながら、ジョッキを掲げた。

 浩之は三人のジョッキが空いたので、忙しく動きまわっているおかみさんに、「おかあさん!生三つ!」と大きな声で注文した。

「で、いつから北砂こっちに来るんだ?」

 少し油で汚れたメニューを見ながら、政雄は訊いた。

「二月の下旬くらいかな……。綿貫は老眼鏡は要らないのか?」

「俺?薄暗くなると文字が見づらいけど、今のところはなんとかな。でも、パソコンやスマホを見た後は目がしょぼしょぼして焦点が合わなくなる」

 政雄は苦笑した。

「俺もこのメニュー程度の文字なら大丈夫だけど、もう少し小さいと老眼鏡がないとダメだ」

「お互いに爺さんになったてことだな。浩之のカッコつけた眼鏡は遠近両用だぜ」

「ほっとけ!俺はお前なんかと違って文明人だからな!」

「こっちに越してきたら連絡をくれよ」

 政雄は浩之の戯言を無視して、メニューを元の位置に戻しながら梅沢に言った。

「もちろんだ。盛大に引っ越し祝いをしてくれよ」

 半世紀近いブランクはあるが、梅沢は遠慮のない口調で言って笑った。

「オッケー。浩之というパトロンがいるから豪華にやってもらおうぜ」

 政雄も軽口を叩いた。

「バーカ、そういうのは折半にするのが礼儀だろ。ちゃんとお前からも徴収するからな」

「そうそう。綿貫、セコいこと言うなって」

 浩之と梅沢は、二人で政雄を窘めた。

 三人はおかみさんが運んで来た生ビールを持ち上げて、再び乾杯の仕草をした。

 それから昼の定食メニューをそれぞれが注文し、食べながら中学時代の話に花を咲かせた。

「梅沢、今日はゆっくり出来るんだろ?」

 回鍋肉定食を食べ終わり、タバコに火をつけながら政雄は梅沢に訊いた。

「いや、すまん。今日はこのあと錦糸町で人と会う予定があるんだ。越してきたら毎日のように付き合うから、今日は勘弁してくれ」

 梅沢もタバコの煙を吐き出し、テレビで時間を確認してから政雄に軽く頭を下げた。

「そうか、俺たちはこの後、浩之のところでダラダラと飲むのが恒例行事なんだけど……。まあ、今日は勘弁してやるか」

「なに偉そうに言ってんだよ。いつも俺ん家の酒をタダ飲みしてるくせに」

 タバコの煙を顔の前で払いながら、浩之は政雄の肩を小突いた。

 

 中華屋を出て、錦糸町行きのバスに乗る梅沢と再会を約束して別れた。

 政雄と浩之は商店街に戻り、総菜屋や肉屋、魚屋でつまみになりそうなものを買い、路地を歩いてこの辺りでは際立って広い敷地に立つ浩之の自宅に入った。

 浩之が冷蔵庫に買って来たものを入れている間に、政雄は勝手知ったる他人の家の食器棚からグラスを二個取り出し、リビングの炬燵の上に並べた。

 エアコンとテレビのスイッチをリモコンで入れてから、キッチンに入る。

 冷蔵庫の前にいる浩之を尻で押しのけ、缶ビール二本と練りわさび、浩之が入れたばかりの刺身のパックを冷蔵庫から出し、カウンターに置いた。

「もう食うのか?さっき昼飯を食ったばかりだろ!」

 浩之が呆れた顔になった。

「これはつまみだよ。メシじゃない」

 浩之の抗議を柳に風と受け流し、割箸と皿、醤油を一旦カウンターに置き、トレイに載せて炬燵に持って行く。

 政雄はキッチンで忙しく作業をしている浩之に気兼ねすることなく、炬燵のスイッチを入れ、座椅子に座って足を炬燵に入れて寛いだ。

「先に飲むからな」

 浩之に儀礼的な声を掛け、政雄は缶ビールを開けてグラスに注いだ。

「まったく、お前には遠慮というもんがないのか!」

 キッチンで憤慨する浩之を気にすることなく、政雄はグラスのビールを一口で飲み干し、刺身のパックを開けた。

「でも、すごい偶然だよな。梅沢がお前のマンションを借りるなんて」

「そうだな。当たり前だけど、あいつも大家が同級生の俺だったなんて、想像もしてなかったって言ってたよ」

 ローストビーフとポテトサラダを載せたトレイを手に持ちながら、浩之がキッチンから出てきた。

 ヨイショ、という掛け声を出しながら炬燵に座り、政雄が注いだビールのグラスを一息に飲んだ。

「そりゃあそうだろ。だって、中学時代のお前ん家は鉄工所だったからな」

 政雄の父親は平凡なサラリーマンだったが、浩之の親は大きな鉄工所を経営していた。

 裕福な家庭が少なかった当時の下町にあって、浩之の家は羽振りが良く、一人っ子の浩之には乳母のようなばあやさんもいた。

 政雄たちが浩之の家に遊びに行くと、必ずばあやさんがおやつや、当時は珍しかったコーラ、カルピス、ジュースなどを出してくれた。

 そのおやつと飲み物を目当てに、下町の洟垂れ小僧たちは宿題を一緒にすると言っては、浩之の部屋でレーシングカーを楽しんだり、バンカースというボードゲームなどで遊んでいた。

 バブルが弾ける少し前に、先見の明があった浩之の父親は北砂にあった工場を千葉に移転し、その跡地を一部売却して、残った土地に八階建ての賃貸マンションを建てた。

 浩之は両親が経営していた会社を継ぐことなく、有名私立大の理工学部を卒業後、大手電機メーカーに勤めていた。

 だが、五十五歳の時に父親が亡くなり、病気がちだった母親の生活を考慮して早期退職をした。

 付き合った女性は政雄が知っているだけでも数人はいた。

 だが、何故か浩之は一度も結婚をすることはなく、独身のままだ。

 二年前に母親も他界し、浩之は両親が経営していた会社の非常勤取締役となったが、経営には一切タッチしていない。

 今は築年数の経ったマンションとはいえそれなりの家賃収入もあり、還暦を過ぎた男が一人で住むには手に余る、大きなリビングの他に六部屋、二階にもトイレとシャワールーム、洗面台がある一軒家で悠々自適の生活を送っている。


「まあ、自分で言うのもなんだけど、あのマンションは少し古いが、ちゃんと部屋の中はリフォームしているし、配管とか共有部分は早めに手入れしているから借り得だと思うよ」

「それはお前がガツガツする必要がないから家賃を安く出来るだけだろ。……でも、梅沢はなんでこっちに越して来る気になったのかな。懐かしいと言っても、五十年近く経ってるのに」

 政雄はポテトサラダを口に入れ、ビールで流し込んだ。

「さあ、詳しくは聞いてないけど、長い間横浜の方にいたから東京の下町で暮らしたいと思ったんじゃないの」

「離婚したとか言ってたよな。原因は訊いてる?」

「そんな事訊くかよ!入居条件に離婚経験者は原因を報告すること、なんて書けねーだろ」

「そりゃあそうだな。でも、なんか雰囲気変わったよな。昔はどちらかというと後ろの方に控えていたけど、今日のあいつはちょっと傲慢なところがあったよな。店のおかみさんに、注文した料理はまだか、この店はどうなってんだって言った時なんか、超上から目線でさ」

「ああ、あの言い方はちょっとな……。お前がこの店はおかみさんと親父さんの二人で切り盛りしてるから昼飯時は仕方ないんだって言ったら、そんなの言い訳にならない、忙しければバイトでも雇えってむくれてたからな」

「まあ、俺たちの知らないところで、半世紀近く別の生活を送っているんだからな。いつまでも中学生のままだったら逆に怖いよ」

「そうだな。梅沢だって俺たちの変貌ぶりに驚いているかもしれないし、お互い様だな」

 浩之はマグロの刺身を口に運びながら笑った。

「そういうこと。これから付き合いが再開するんだから、過去の詮索はしない方がいいかもな」

「そうだな。爺さん同士で過去の栄光を自慢したり、失敗したことを卑下しても仕方ないからな。人生いろいろ、人もいろいろだ」

「なんだそれ……人もいろいろって言えば、今日こっちに来るときに、電車の中でとんでもない女を見たよ」

 浩之の調子っぱずれの節で、政雄はカレー女のことを思い出した。

「とんでもない女って?」

「それがお前、電車の中でカレーを食ってるんだよ」

 カレー女の件を浩之に話そうと思っていたが、予期していなかった梅沢との再会ですっかり忘れていた。

「電車の中でカレー?それってどんな女だ?」

「そんなの○○に決まってるだろ!一応、若かったけどな」

 政雄は世の女性から火あぶりで処刑されるような、偏見に満ちた言葉を放った。

「なんで○○がそういうことするって決めつけるんだよ」

「綺麗なおねーちゃんで、そんなことするのって見たことない!」

「お前、そんなこと言ってると奥さんに殺されるぞ」

「うちのは見た目は○○じゃねーぞ、性格はともかく、って、そんなことはどうでもいいんだよ!」

「お前の奥さんが○○だなんて言ってんじゃないよ。世の女性を敵に回す発言だって言ってんの。でも、ホントか?盛ってないだろうな」

「こんな話を盛ってどうする!エラが張ってて、裂け目みたいな目にはムカデの足みたいな付けまつ毛、それに汚ねえ金髪の女だよ。そいつが堂々とカレーを食ってるんだ」

 中華屋での生ビールと今しがた飲んだビールの酔いもあり、政雄は悪口雑言を吐き出す。

「マジか!カレーパンとかじゃなくて、カレーライスか?」

 酔っ払いの戯言と思いながらも、浩之は顔を顰めながら訊いた。

「だから、さっきから言ってんだろ!正真正銘のカレーだよ!」

 政雄は半信半疑の浩之に、強い口調になる。

「おにぎりとかパンを食ってるやつは見たことあるけど、カレーを食ってるのは見たことないな。しかも女って……」

 酔っているとはいえ、政雄の真剣な表情を見て、浩之は嘘ではないと思ったようだ。

「ああ、この国も終わったなと思ったよ。そしたら新たなキャラクターが登場してさ……」

 ビールで喉を湿らせて、政雄は話を続けた。

「俺たちより少し歳が上のおばちゃんが、途中の駅から乗ってきたんだ。最初は席を確保するのに夢中で気が付かなかったみたいで、なんとそのカレー女の隣に座っちゃったんだ」

「で?」

 政雄の熱い口調に引き気味になりながら、浩之は先を促して、イカの刺身をパクついた。

「カレーの臭いに気が付くや否や、いきなりカレー女に、あんた何してんのよ!って大声で注意し始めたんだ」

「それは勇気があるな」

 浩之はイカを咀嚼しながら言った。

「そしたらカレー女も負けてないのさ。うるせーな!バアサンには関係ねーだろ、と反撃したんだ」

「女同士のバトル勃発か?」

 浩之は咀嚼したイカをビールで嚥下しながら先を促した。

「ああ、それから二人での言い合いだよ。それでも日本の女性かとおばちゃんが言えば、カレー女は萎びたバアサンだの安い香水の方が臭いとか、罵詈雑言の応酬よ」

「なんか、ちょっとした修羅場だな」

 浩之はその場面を想像して、再び顔を顰めた。

「そしたら、次に停車した駅でまた新たなキャラクターが乗車してきたのさ。今度は角刈りの男で、なんか職人っぽいおっさん。そのおっさんがカレー女に、何を揉めてるんだ、みたいなことを訊いたら、おばちゃんがこの女が車内でカレーを食べてるので注意したけど、逆ギレされたってチクったんだ」

「そのおっさんはどうした?」

 浩之は缶ビールを、熱くなっている政雄のグラスに注いだ。

「おっさんは、そりゃあおねーちゃんがいけねーな。あんた一人の電車じゃないんだから、みたいなことをカレー女に言ったんだ。そしたらカレー女があんたらみたいなヒマ人じゃねーんだ、とかなんとか言って次の駅で降りたんだが、その時、俺はビックリしたね」

「どうした?」

「カレー女が、おっさんとおばちゃんに向けて、食い終わったカレーの容器が入っているレジ袋を投げつけたんだよ」

 政雄は身振り手振りで、その状況を再現した。

「マジか?おっさん、追っかけなかったのか?」

 浩之は驚いて、政雄に訊いた。

「ドアが閉まる寸前だったからな……。でも、その後のおばちゃんが偉くて、自分が電車を降りるときに、そのレジ袋を持っていったんだ」

「へー、そりゃあ感心だな」

「だろ?それに比べてカレー女の非常識さったら……」

「まあ、若いから非常識ってこともないけど、電車内でマナーの悪いのは沢山いるよな。化粧している女とか、男女関係なくドア付近に立ってて、梃子でも動かないぞってやつとか」

 浩之は空になった缶を潰しながら嘆いた。

「あと、やたら意識過剰の女で、身動き出来ない程の満員電車なのに、揺れのせいでちょっと身体に触れると、邪険に撥ねのける女もいたな。誰がてめえみたいな○○を触るかよって顔してんのに」

「お前、女性を外見で判断するのは止めた方がいいぞ。良くそんなんで大手企業の管理職が勤まったな……。いくら会社を辞めたからって、そんなんじゃ、この先いつか地雷を踏んで後悔するからな」

 浩之は政雄の前にある缶ビールを奪い取ってから自分のグラスに注いで、顎をキッチンの方に向けた。

「別に偏見じゃねーよ。俺の経験から弾き出した統計に基づいたもんだ。カレー女みたいな極端なやつ以外にも、非常識というかモラルのモの字もないのが多くなったよな。自分の言動のどこに大義名分や正当性があると思ってんのかね。指摘されると逆ギレして、理屈にもならない戯言をまくし立ててさ。しかも言葉遣いの悪さって言ったら……」

 日頃感じている鬱憤を吐き出すように言いながら政雄は炬燵から立ち上がり、缶ビールを取りにキッチンに向かった。

「もう血圧が上がるからよせって……」

 浩之がヒートアップしている政雄を宥めるように言った。

「でも、確かにお前が言うように、野郎にもロクでもないのはいくらでもいるけどな」

 政雄はキッチンから戻って、浩之に缶ビールを手渡しながら言った。

「お前みたいに言葉遣いが悪くて非常識なジイさんか?」

 缶ビールのプルタブを開けて、浩之は政雄を見た。

「俺?俺のどこが口が悪くて非常識なんだよ!二宮金次郎の再来と呼ばれてるこの俺の……」

「はいはい……」

 政雄の言葉を無視して、浩之は注いだばかりのビールを飲み干した。

「まあ、それはおいといて。……俺が納豆を食えないのを知ってるだろ?」

 政雄の突拍子もない話の展開に、浩之は訝しげに頷いた。

「俺は中学まで納豆を食えたんだ」

「そうだっけ?」

「ああ、毎回じゃなかったけど、朝飯に出てたからな。だけど、高校から電車通学になっただろ?ある朝、満員電車で立ってたんだけど、俺の前のサラリーマンのおっさんと、こう正面から向き合う格好になったんだ」

 政雄は気をつけをするように、両手を真っ直ぐに下ろした。

「そしたら、そのおっさんがゲフってゲップをしたんだよ。その口臭が臭いのなんの。文字通りに納豆と腐ったネギが混ざった悪臭でさ。次の朝、うちの親父が納豆をくちゃくちゃかき混ぜてる臭いを嗅いだら、前の日のおっさんを思い出して吐き気を催しちゃって。それから、納豆が食えなくなった」

「お前にそんな繊細なところってあった?」

 浩之は、テレビのワイドショーの画面から政雄に視線を移した。

「俺は繊細がスーツを着てるって言われる程ナイーブなんだよ!」

「へー、そうですか。でも、お前の奥さんは納豆食べるだろ?」

「ああ、週に三―四回は食うな。俺が嫌いなのを知ってから回数が増えた記憶がある」

 政雄の冗談めかした言い方に、浩之は腹を抱えて笑った。

「でも奥さんを責められないよな。お前のタバコの臭いだって、喫わない人からすれば大迷惑だからな」

「俺はベランダで喫って、家の中では喫わないぞ。だが、あいつは納豆を家の中で食ってるから罪は重い」

「アホか!納豆をベランダで食べる人がいるかよ。逆にそっちの方が変だろうが」

 政雄の屁理屈に、浩之は呆れた。

「お前は嫌いな臭いが部屋に充満することに不満を抱かないのか!女に甘くて、変にフェミニストなんだよ!」

「別に女性の肩を持ってるわけじゃないよ。お前は気を遣ってるって自分を正当化しているけど、一服して外から戻って来た時のお前は、全身がタバコの臭いに包まれてるんだぞ」

「そう?……なんか急にタバコを喫いたくなってきた。寒いから部屋で喫うかな……なーんて、ちゃんと極寒の庭で喫うよ」

 政雄はポケットからタバコを取り出し、炬燵から出て庭に面したアルミサッシを開けた。

「バカ野郎!喫ったら、そのまま玄関に回って帰れ!」

 浩之の罵声を背に浴びながら、政雄は軒下に座った。

 それから、火をつけたタバコの煙を、部屋に面した窓ガラスに向けて吐きだした。


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