青春のタイトルにはなれそうにないシリーズ

@nilcof

ハンガー

私は、青い針金ハンガー。

クリーニング屋さんが付けてくれる、あの、青いハンガー。


役に立つけど、意味はない。

便利な純国産品。


分厚い木製のハンガーは高級衣類。

幅広のプラスティックが付けられた、ジャケットやコート用のハンガーよりも。

汎用的で、凡庸で、ありふれている。


形を変えて、ストッキングをつけて隙間掃除に使うって聞いたこともある。

ほらね、やっぱり。

ハンガーの中でもいちばん。役に立つ、けど。

意味はない。


意味のある、生き方、

どれだけ、楽しいんだろうか。

与えられた役割だけじゃない。

そこにいることこそが、価値になる。


素敵な布で装飾されて、形が崩れないように補強されて。

大切に扱われる。

そんな生き方、望めるんだろうか。


クローゼットの隅から、無作為に選ばれた隣のハンガー。

妙な形に折り曲げられて、コーヒーフィルターのホルダーになった。暗いクローゼットの中とは違う景色、充実した生き方。だって。

表情が少し暗い気がしたのは、私の思い込みかもしれない。


結局は。

青い針金ハンガーは、役に立つけど、意味はない。

この運命を変えることなんて、できる分けないのに。

いつか、きっと、って。

心のどこかで期待している。

御伽噺のお姫様みたいに。

そんなこと、あるわけないのに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る