2.仏の顔も三度

 由美ゆみは、国語の勉強が苦手だ。


絵里子えりこちゃん!ねぇ、教えて!『仏の顔も三度まで』ってことわざって、どういう意味だっけ?三度目までなら許してもらえるの?」


 由美は、同じクラスの絵里子に質問した。


「あー、そのことわざは、正確には『仏の顔も三度』って言って、どんなに穏やかな人でも、三回も失礼なことをされたら、さすがに怒り出してしまうって意味。だから、三度目は許してもらえないね」


 絵里子は、由美に教えてあげた。


「なるほど。ありがとう!さすが絵里子ちゃん!詳しいんだね!」


「まあね」


 絵里子は、にっこりと微笑んだ。



〈数日後〉


「絵里子ちゃん!『仏の顔も三度まで』ってことわざの意味って何だっけ?三度目はセーフ?四度目からアウト?」


 由美は、この前と同じ質問をした。


「違うよ。三度目はアウトだよ。あと、よく間違えられてるけど、正確には『仏の顔も三度』だよ。江戸時代から使われていることわざで、元々は『仏の顔も三度ずれば腹を立つ』と言われていたんだ。三回も失礼なことをされたら怒るって意味だから、三度目はアウト。三度目までセーフって意味じゃなくて、三度目からアウトって意味だからね!」


 絵里子は、より丁寧に教えた。


「なるほど。ありがとう!絵里子ちゃんって賢いね!よくそんなに詳しく知ってるね!」


「まあね。国語とか歴史は得意だから」


 絵里子は、この前と同じように、にっこりと微笑んだ。



〈一週間後〉


「絵里子ちゃん!『仏の顔も三度まで』ってどういう意味だっけ?三度目までは大丈夫なの?」


 由美がまた同じ質問をすると、絵里子は自分の席の机を


バーーン!!


と叩いて立ち上がり、こう言った。


「何回同じ質問するんじゃー!!はやく覚えろよー!!!一週間しか経ってないのにもう忘れてんのかー!!馬鹿かお前はー!!!忘れたとしても同じ人に質問するんじゃねーよ!!こっちの気持ちも考えろよー!!!それとも私に質問したことすら忘れたってのか!?あぁ!?もうそれなら病気だよ!!病院行け!!!」


 絵里子の怒鳴り声にびっくりする由美。


「絵里子ちゃん、どうしたの?」


 そう聞くと、絵里子はまた机を


バーーン!!


と叩いて、


「絵里子じゃねーよ!!私は『仏』だ!!!今だけ人間のふりをして人間界に降りてきているんだよ!!!」


と言った。


「ええ!?絵里子ちゃんが……『仏』!?」


「そうだ!!!最近の人間は『仏』のことにまるで興味がない!!『仏』に関することわざの意味くらいしっかり覚えろよ!!!『仏』のことを軽く見ていると後悔するぞ!!!人間は私たち『仏』に支えられて生きてるということを忘れるなー!!!!」


 絵里子の剣幕に押された由美は、


「ごめんなさーい!」


と言って、その場から逃げていった。



 それ以降、由美は、『仏』に関する言葉の意味だけはしっかりと覚えるようになった。




 おわり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る