第9話 与えられる力とか

 翌朝、また五時に集合し訓練を始める。しかし、レベッカとポッカはオリバーから呼び出しを喰らった。

「なんだニャ」

「わ、私何かしてしまいましたか……?」

「魔物。昨日のあの嘘で彼女の本気を引き出すことができた」

「昨日の嘘……あれ嘘だったの!?」

「今更ニャ」

 レベッカは昨日、ポッカから言われたことを嘘だとは思っていなかった。ようやく気づいたのだ。怖くて夜も眠れなかったんだよ! それが嘘だったなんて……。

 レベッカは目の下にできたクマを擦り、続けて言った。


「あと、ポッカのこと、名前で呼んであげる方がいいかと……」

「……」

「ヒェッ」

 オリバーに睨まれたレベッカはポッカの後ろに隠れた。ポッカは困ったように笑っている。

「……レベッカ、要するにそのような陳腐な嘘なしでも、あれだけの全力を出せるようにしろ。魔物も、嘘などつくな」

「だっ、だから名前で呼んであげて」

「……ふん」

 オリバーはそのまま訓練に戻って行った。



 レベッカは昨日と同じくらい、周りよりもはるかに遅いスピードで訓練を進めて行った。昨日のようにお化けがいるかもしれないと考えましたが、「かもしれない」でありそれが自分の想像なら怖くもなんともない。

 レベッカは他の勇者三人や他の訓練兵が昼ごはんを食べ始める頃にも、訓練場を走り回っていた。

「……終わる気がしない」

 暖かい日が差し込む。レベッカにはそれがマグマのように暑いと感じた。


 あつい、あつい、あつい……。


 汗でジメジメしていることも、さらに気分を悪くした。ついにレベッカは地面に横になった。温められた砂がまとわりつく。

 水が欲しい……美味しい水が欲しい……欲を言えばジェラートが食べたい。美味しいジェラートが食べたい。

 レベッカはそんなことを考えながら、仰向けになって太陽に手を伸ばした。



 すると突然、水が降ってきた。


 冷たい水はレベッカの体を冷やした。

 空は青く晴れ渡っているのに、水が降ってくる。水が湧き出てくる。

 普段のレベッカなら、それを怪奇現象として捉えて大慌てで逃げるだろう。

 しかし、あまりに疲れていた彼女は、ただ降ってくる水を受け止めていた。


 冷たくて気持ちいい……美味しい水だ。これなら、走る気になれる。

 レベッカはゆっくりと立ち上がり、走り始めた。あとたったの五周だ、頑張れ私! そして、ようやくレベッカは訓練場を走り終えたのだ。




 まず食堂に顔を出したレベッカは、びしょ濡れであることを心配された。アンナがタオルを持ってきて、大慌てで頭を拭く。

「ちょっとレベッカ、何があったの!?」

「いや、分からなくて……」

「もしかして、訓練生に意地悪された!?」

「そんなことないよ! ただ、自然と降ってきて、冷たくて気持ちよかったよ」

「とにかくこの格好でご飯を食べたら風邪を引くわ! まずは着替えが先ね!」

 アンナはレベッカを部屋へ送った。

 そんなに心配する必要はないけどな……けど、あの水はなんだったんだろう。もしかして、昨日みたいにポッカが助けてくれたのかな。


 レベッカはポッカの元を訪れた。彼は部屋で本を読んでいた。

「レベッカが用があるなんて珍しいニャ」

「うん、ちょっと聞きたいことがあって」

 ポッカは本を閉じ、レベッカに椅子を出した。

「聞きたいことって?」

「私、今日の走り込みで疲れて倒れちゃったの。それで仰向けになって寝転んでたの。そしたら、空は青く晴れてるのに、私の上から水が降ってきたの」

「……」

「もしかして、ポッカが昨日みたいに助けてくれた? そうだとしたら、凄い嬉しい」

「……俺は助けてない。けど、多分それはレベッカの力ニャ」

「力?」

 ポッカは沢山ある本棚の中から一冊の本を取り出した。——あっ、あの本はバジルからもらった本と同じやつだ。


「異世界召喚の章は読んだか?」

「ざっくりと」

「このページ。よく読んでくれニャ」

 ポッカは赤くマークされている箇所を指差した。



『異世界人には、召喚された後の用途に応じて、それ相応の[力]が与えられる。異世界人には魔力も力もない。しかし、与えられたその[力]は異世界人のみの力であり……』


 そういえば、普通は古語は読めないんだっけ。ポッカは読めてるのかな。レベッカはそう思い、ポッカに聞いた。

「読めたの?」

「一応。これでも魔物だからニャ、文字に刻まれた思いで読むことが出来るんだニャ」

「でもどうして普通の文字で書かないんだろうね」

「この本、普通はそう何冊もある訳じゃないからニャ? シャルル王国がこの著者がいた国の末裔だから十冊ほどあるんだニャ」

 なるほど、とレベッカは思い著者名を見てみた。——アレン・ヒューノ・レイラ。ジャレクトゥア王国国王。

 国王様か。バジルと同じだ。この国は著者の末裔ってことだから、バジルのご先祖様ってことか。思った以上にすごい人だな、とレベッカはつぶやいた。


「それで、その水とやらの正体は分かったニャ?」

「あっ、うん! もしかして、これが力?」

「そう。レベッカは見つかったんだな。何か出してみろニャ」

「えっ、何か?」

 水なら出せるんだよね……けど、せっかくならもう少しすごいものを出してみたい。水しか出さないなら別だけど。

 そう思いながら手に力を込める。すると、手のひらからオレンジ色の球体が現れた。

「わっ、できた!」

「固形物ニャ? ……いや、液体か」

 球体かと思ったら、球体の形を保っている液体だった。レベッカはそれを口に運んでみる。懐かしいオレンジの味がした。

「レベッカ、大丈夫か? 飲み込んで異常は起きてない?」

「うん、すっごい美味しいよ!」

 少し見当違いな返事だが、レベッカは液体を作り出す力を手に入れたようだ。

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