第8話 訓練開始とか
翌朝五時に訓練場に集合した四人は、まずは訓練服を受け取りパジャマから着替えることから始めた。
「君がレベッカよね。今日から一緒に頑張りましょう!」
「は、はい!」
「よろしくね! ところで、朝ごはん抜いてきたかしら?」
「食べる時間もありませんでした……」
「それがいいわ。食べてたら吐くからね」
「えっ」
綺麗な笑顔で言う女性に、レベッカは恐怖を感じた。
着替えたのち、まずは全員で準備体操を始めた。しかし、終わった後は追加補強がある。これがハードモードなのだ。
「腕立て三十、腹筋三十、背筋三十、スクワット三十!! 終わったやつから男は広場を百周、女は七十周だ!!」
「えっ、そんなに数が……!?」
「ゆっくりで大丈夫よレベッカ。何事もやり遂げることが大事だからね」
驚きを隠せないレベッカに、リリーがそう声をかける。彼女はもう腕立てを始めていた。
「一日中やることになっちゃいますよ!?」
「私も最初はそんなもんだったわ。応援してるわ、頑張ってね!」
気づけば養成生徒の先輩達は腕立てを終えて腹筋を始めていた。レベッカもこれには焦ったのか、すぐに腕立てを始めた。
レベッカがスクワットを始める頃には、もうほとんどの人が走り出していた。残っているのは体力も最小の勇者のレベッカに、オリバーに対抗心をむき出しているイズナだけであった。
なぜかムキムキで体力もあるアーベルと、アーベルより遅かったが魔物であり力もあるポッカはもう走っている。
「あと、スクワット二十回……」
絶望しながらもレベッカは運動を続ける。イズナはやっと終わったようで、周りの訓練兵に混ざって走って行った。
——ところで、フリグシュガーさんはどこにいるんだろう……。
レベッカはそう思い、周りを見渡した。オリバーは訓練場のすみで一人、大きな岩を持ち運んでいた。
「えっ、凄い……」
これは本心であった。するとレベッカとオリバーは目が合った。オリバーはキツくレベッカを睨み、レベッカはビビってすぐにスクワットを終わらせた。
平均と同じくらいの時間をかけて、アーベルは言われた訓練を終えた。周りの人からも称賛の声が上がる。
「君凄いな! きっと騎士としてもやっていけるよ!」
「始めたばかりでよくあんなに体力があるなぁ」
「俺は元いた世界でも厳しい訓練を受けてましたから」
「そうなんだ! そんなに物騒なの?」
「はい、まあ」
「へぇー、俺たちの知らない世界か」
「でも、魔王よりはマシじゃないかしら?」
「そうね、魔王は私たちを滅ぼすつもりだもの」
生徒たちは次第に魔王の話へと話題を変えて行った。アーベルにはそれがほとんどわからない内容で、話についていけなかった。
「やるじゃニャいか」
少し遅くに百周を終えたポッカが、アーベルにそう声をかけた。
「ありがとう、これでも訓練を受けていたからな」
「そっちの世界も大変なんだニャ。それにしても、二人は遅いニャ……」
ポッカは散歩する人よりも遅いスピードで走っている二人を指差した。
「くっそ、あの野郎……絶対に殴ってやる……!」
「……あと、ええと……六十五周……」
レベッカに関しては今にも倒れそうだ。
「アーベル、お前訓練してたんだよニャ? なら、なんで二人は体力がないんだ? 同じ元いた世界なんだろ?」
「体力には当然個人差があるだろう。あと、イズナは分からないが、レベッカは仕方ないだろう」
そもそも、全てに対してビビりであるレベッカが進んで運動する理由もわからないが。
「お前ら、あとは自主練だ! 成長したいやつだけ鍛えろ! そして必ず水分はしっかり取れ! ……あと、訓練が終わった勇者二人は帰れ。訓練の他にやることをやれと、国王からの命令だ」
オリバーがそう命令すると、養成生徒はすぐに行動に移した。ポッカはしばらく何かを考えてから、レベッカの元に向かった。
「えっ、どうしたんだポッカ!」
「貴様、手助けは許さないぞ」
「いいや、レベッカの本当の力を引き出すんだニャ」
ポッカはニヤニヤしながらレベッカに近づく。レベッカはヨロヨロと弱っている犬のように走っていた。真後ろにいるポッカにも気づかないほどだ。
「レベッカ」
「……」
「こりゃダメだな」
ポッカはそう言ったのち、自身の喉に補助魔法をかけて、大きく息を吸って声を大きくした状態で耳元で叫んだ。
「お前の後ろにお化けがいるニャ!!!」
この大声は疲れ果てたレベッカの耳にも届いた。
お化け、おばけ、オバケ、お化け……。
レベッカの思考はお化けが全て埋めた。そきて、ビビりなレベッカは悲鳴をあげて走り出した。
「いやぁぁぁぁ!!! 私の後ろのお化け、誰か取ってぇぇぇぇ!!!」
あっという間にスピードも上がり、体力もできた。ずっと先を走るイズナに追いつき、追い越した。レベッカのビビりな性格はもはや超能力の一つである。レベッカはすぐに五十周を終えた。残り二十周は頑張れるだろう。
ポッカは自身の作戦が成功したことに喜び、笑顔で帰って行った。
「……まあ、あれは彼女本来の力だから、違反ではないな」
「いいんですか……」
「最終的に力になればそれでいいんだ」
オリバーは他の生徒とそう話し合った。
その後、レベッカはイズナと同じ時間に走り終えた。昼ごはんには間に合ったのでちょうど良かったのだろう。
「クソ……一番遅かった……」
「え、私より早かったよ!」
「お前、本当はすっごい足速いんだろ!」
「あれは……ただ、お化けが怖くて」
「……疲れた。お前先に帰ってろ。俺はあの男を殴ってくる」
イズナはそう言って自主練をするオリバーに走り、蹴ろうとしていたが返り討ちにあっていた。
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