第5話 仲直りしたとか

(あぁ……酷いことしちゃった……どうしよう、絶対二人気にしてるよね。アーベルとイズナだっけ……絶対気にしてるよね)


 レベッカは自室で落ち込んでいた。夕食は結局メイド見習いの方々と食べたのだ。アンナをはじめとする見習いたちは二人の相性の悪さをよく知っていたので、レベッカを優しく慰めていた。

 レベッカはその後落ち込んですぐに自室へ駆け込み、現在に至る。


「うぅ……神様、マリア様、私はどうするべきなのでしょうか……」

 レベッカは十字架を掲げた。アンナはドアの前でその様子を聞いていたが、どう慰めるべきか分からなかった。

(……レベッカ落ち込んでる。私、何かできないかな)

 アンナはそう思い、とりあえず持っていた雑巾を壁脇に置き、部屋に入った。


「レベッカ! 大丈夫?」

「あ、アンナ……」

 レベッカはアンナに抱き着いた。アンナはそんなことは慣れっこであるかのように背中をさすり、レベッカをあやした。レベッカはそれに安心して、十字架を握りしめている手の力を弱めた。

「ごめんね……二人怒ってた?」

「いいえ、そんなことないわよ! むしろ、困っていたような……」

「え、困らせてたの私!? そんなぁ……」

「落ち込むところじゃないわよ!」

 レベッカはまた十字を掲げ始めた。彼女はビビりなのである。




 一方そのころ、食堂に残されたバジル、アーベル、イズナ、ポッカはというと。


「……」

「……」

 召喚された二人は状況をいまだにつかめずに困り果てていた。

「お前ら、いい加減に喧嘩はやめるんだニャ!」

 それを喧嘩だと思い続けているポッカ。

「うーん、大丈夫そうじゃないね」

 それを遠くから見るバジル。

 バジルは立ち上がって三人のもとへ向かった。三人ともバジルの方に向き直った。


「君たち、勇者として勝手に召喚したこっちも悪いんだけど、いくら何でも仲悪すぎじゃない?」

 バジルが呆れたように言った。それに対して二人が口を開いた。

「だって、こいつルールしか頭にないんだぞ! それなのに不良で、矛盾しすぎなんだ!」

 アーベルがイズナの赤い髪の毛を指しながら言った。イズナはそれに対して、髪の毛と同じくらい顔を赤くした。そして、バズーカーみたいな大声で言い返した。

「はぁ!? 不良はかっけーだろ! 己の正義を貫くダークヒーローなんて、かっこいいに決まってるじゃないか!」

 そして、イズナはアーベルの体全体を指さして言った。


「こいつだって、ただ召喚された人間なだけで、ほかの人間と大して変わらないのに、世界を救わないととか正義のヒーローぶってるのが嫌だ!」

「なんだ、世界を救うことの何が悪い! ドイツだって世界をこれから変えていくんだぞ!?」

「ほら! この無駄に愛国的なとこが嫌だ! これからの世界広くなってくんだから、国なんて関係ねーの!」

「イズナ、君こそ日本人だろ? 自国のことは大事じゃ無いのか!?」

「そんな思い入れあるかっての!!」

「そんな……今、俺たちの国はただえさえ大変だというのに!」

「大変も何もねーよ!」

 どうにも二人の話はかみ合っていないが、二人は言い合いをつづけた。そんな二人に、ポッカが一喝した。


「おみゃーら!! いい加減にするんだニャー!」


 二人はびくっと体を震わせてポッカを見た。

「確かに、理不尽な環境にあるとは思う。幸せを奪われたんだ。俺たち世界も、おみゃーらを世界平和のための道具として扱っているも同然だニャ。でも! 人として最低限仲良くなれることもできないのか!!」

 すると、ドアが開いてレベッカとアンナがやってきた。

 四人は一斉にそちらを向く。目線に耐えられなくなったレベッカはアンナの後ろに隠れた。


「ちょっとレベッカ! 隠れてたら言えないわよ!」

「で、でも……」

「……そうね、わかったわ。ちょっとポッカ。あんたは後ろ向きなさい。バジル王もできたら後ろを向いていただきたいです」

 アンナの指示にポッカとバジルは従った。レベッカへの目線を減らすためである。

「これで大丈夫?」

「うん……ありがとう」

 レベッカは二人に向き直った。そして、頭を下げた。


「「!?」」

 てっきり怒られるのかと思っていたアーベルとイズナは驚いた。レベッカは震えた声を上げた。

「……あの、さっきはぶつかっちゃってごめん」

「え、そ、そんな気にしなくていいんだぞ!?」

 イズナが慌ててレベッカに駆け寄る。

「な、頭上げろよ! 仲良くなれない俺たちが悪かっただけだし」

「……すまないレベッカ。追い込んでしまっていたとは」

「そんな、追い込まれてなんかないよ! ただ、二人とも気にしてるかなって思って……」

 それに、主がどう思ってるかを考えて、きちんと謝ろうと思っただけだ、とレベッカは続けた。十字架は握られすぎて少し辛そうだった。




 すると突然、食堂に何名かの騎士がやってきた。

「失礼いたします!」

「泥棒が侵入してしまいました! 盗まれたものは王家代々伝わる聖剣!」


 ——なんでお城に泥棒入れるの!? バカでしょ!? ツッコミどころありすぎるんだけど!? ていうか、そんな大事な聖剣なんで盗まれるような管理してるわけ!?


 怒涛の勢いでレベッカはツッコミを入れた。周りの反応が怖いので心の中で留めたが。

 やってきた騎士はレベッカたち三人に頭を下げ、力のある声で言った。

「勇者様! 捕まえるので手伝ってください! ただいま我々騎士の何名か、そして執事と協力し捜索中です!」

「他のメイドの避難は?」

 バジルがそう冷静に聞いた。

「完了しております! アンナも、早く逃げるんだ!」

「ええ、レベッカも行くわよ!」

「勇者様もなのか?」

「彼女はメンタルが今落ち着いてないの。他の勇者に任せておいた方がいいわ」

「ご無事であることを願います、勇者様!」

 騎士はレベッカにそう言い、イズナとアーベルを連れて部屋を出て行った。


「私たちも逃げるわよ!」

「うん、でもどこに……」

「緊急時に私たち使用人が逃げる部屋があるの。そこは外にも繋がってるから、万が一は城からでるのよ!」

 アンナはレベッカの手を繋いで、速すぎない程度に走った。レベッカはその些細な気遣いに安心した。

 二人は地下へと続く階段を駆け下り始めた。

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