第12話

 また人が死んだ。サラ・クレマン、笑顔が素敵な少女。僕は同室の二人が死んだことで、部屋を移転させられた。ガランとした畳の部屋を振り返りため息をつく。

「僕は誰を殺してたとしても、死にたくない。死にたくないんだ」

 自分自身に言い聞かせるて僕は扉を閉めた。


 味のしない米を食べていると、アンジェルが淡々と伝える。

「続けて四◯四号室のサラ・クレマンさんが死亡しました。同室の鈴音努さんは次の標的にされる危険性が高いので四◯一号室に移動を命じます。警戒を怠らないように」

 僕は首肯して席を立つ。

「検査だ」

 食堂から出ようとすると看守が無感情に言う。僕は黙って看守に体を触らせる。返り血は既に洗い流してある。ばれる心配はない。

「包帯か……この手袋は?」

「許可されています」

「包帯は置いていけ。必要になれば提供する。……通ってよし」

 僕は作業場への廊下を歩きながら後を振り返る。

「ハレンチな奴だな」

「静かにしろ」

 忌々しい女の声が聞こえ振り返る。ヘレンはニヤニヤとこちらを見て嘲笑っていた。拳銃をどこに隠しているんだろうか。僕は無視して歩いた。


「なんでここに居るんだ」

 僕は四◯一号室の扉を開けた姿勢のまま呆然と立ちすくんでいた。目の前には畳に胡座をかいたヘレンの姿。

「偶然か。それともどこかの誰かさんの陰謀だな。我は後者を指示する」

「どっちでもいい」

 苛立たしげに吐き捨てる。反抗することが更に困難になったと考えるべきか、それとも寝首をかけると考えるべきか。

「そう、我を嫌うな。そもそも悪い提案ではないだろう。こんな監獄、貴様だってゴメンだろ」

「誰もがそう考えるとは思わないでくれ、僕はそこそこ気に入っている」

 警戒しながら腰を下ろす。ヘレンは苦笑いして首を横に振った。

「毒されているな。それとも貴様の元の世界はそんなに酷かったのか」

「ここに居る大多数よりは幸福だったと思うよ」

「絶望の強度は人によるということか。……我に貴様を殺させるなよ。仲間はあまり殺したくない」

「誰がいつ君の仲間になったんだよ……」

 眉をひそめる。

「何を言っている。我と契約した時点で立派な仲間だ。少なくとも我はそう思うようにしている。努よ。今日は早めに寝ておいた方がいいぞ。深夜動く」

 ヘレンはさっさと布団に包まる。数分後には呑気に寝息を立てて眠る。無防備すぎる。殺されると思っていないのか。とは言え、二人しかいないからここで殺すと確実にバレる。諦めて眠ることにした。


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