ライフ・オブ・ファンタジー

MC RAT

始まり

第1話 人殺し

 今日みたいなジメジメした日は億劫なことが多い。

 昨日は雨が降ったせいか、辺りは若干霧に包まれていて、木々は僅かに湿っている。時折強くなる涼しい風が唯一の救いだ。

 人工的に作られた仮想世界とは思えないほどのリアルな気候には感心するが、だからといって楽しめるかと言われれば別問題だ。

 鬱蒼とした森の中で、僕は岩に腰掛けていた。

 そろそろお昼、ご飯を食べるにはいい時間だ。

 僕が指を軽く振りメニュー画面が表示させると、アイテムストレージの中から『回復アイテム』を選択する。

 その中にある『パン』と『干し肉』をタップして実体化させた。一応空腹ゲージを回復するアイテムだから、回復アイテム扱いだ。

「いただきます」

 小さく呟いて僕は実体化させたアイテムを食べ始めた。どっちとも硬いから食べにくいけど、安価だしちゃんと腹は満たされる。

 この後どうするかを考えながら食事をしていると、近くの草むらからガサッと音がした。

 僕は食事をしていた手を止めると、食べかけたアイテムをストレージに戻した。手を黒いフード付きのロングジャケットの裾で拭く。

「そこにいる十人、用があるなら出てきてください」

「へっ!勘のいいガキだな」

 僕が声をかけると、予想通り僕を取り囲むように十人の男達が現れた。

 既に全員が武器を実体化させて手に持っている。

 それにしてもガキとは。まぁ彼らは見た感じ二十代後半。対して僕は十代だし、充分に子供か。

「お前、『悪魔遣い』だろ?」

「………だったら何ですか?」

「そんなの決まってんだろ」

 男達は手にした武器を一斉に構えた。

「お前の悪魔、俺達が貰ってやるよ!」

 そう言うなり男達が僕に斬りかかってきた。僕は岩から降りると、その場に立ち止まる。

「オラァッ!」

 目の前にいた男が一番最初に僕に剣を振るった。落ち着けて右に避けてから、男の背中を押す。

 息を吐く暇もなく、左右から攻撃が来る。しゃがんでから前に転がり避けると、彼らの脚を蹴り飛ばして掬う。

「うわっ⁉︎」「ぐっ!」

 身体を起こしてから後ろに迫ってきた刃をターンして避けると、右から振り上げられた斧が届く前に持ってる人の腹を蹴り飛ばした。

「ぐふっ!」

 次に襲ってきた三人は、さっきまでの人達とは違う独特の構えをしている。それぞれ持っている槍、短剣、メイスの三つの武器が光り出した。

「はぁっ!」

 スキルか。それなら………

 腰を落として拳を構えると、僕の身体が淡く輝いた。

 体術スキル『清流拳』

「ふっ!」

 俊敏性が上がり、三人の攻撃も余裕で避けられる。彼らの懐に潜り込み、真ん中にいた男の腹に拳を突き刺す。

「がはッ⁉︎」

 それから左右の二人も連続で殴り飛ばした。

「ぐっ!」「ぎゃッ!」

 三人を撃退して一息吐こうとしたが、僕の不意をつくように一人の男が横凪を繰り出す。

 まぁ分かってたけど。

 僕は身構えると、今度は脚のみが光った。

 体術スキル『刺針脚』

 後ろに向けて蹴りを放つと、彼は大きく吹き飛ばされた。

「ぐあッ!」

 一応全員まだまだ動けるけど、それなりにダメージが入っている。

 でも今のところ攻撃したのは九人だ。となると後一人は残ってるな。

「へぇ、思ったよりやるじゃねぇか」

 さっき僕のことを言い当てた男が僕と向かい合う。この人がリーダーなのか。

「けどなぁ、たった一人でイキがれるのも今のうちだぜ」

 そう言うと彼は腰から提げていた片手剣を引き抜いた。それを合図とするかのように、さらに森の奥から十人くらいの男達が現れる。さっきの男達も含めて二十人か。

 男の引き抜いた片手剣は、見るからその辺の武器屋で買える剣とは違う、炎のような豪華なデザインが施されていて、柄に狼の顔の紋章が描かれている。

「来い、バーニングウルフ!」

 リーダーが叫ぶと、僕の周りを紅蓮の焔が囲んだ。その中から象くらいの大きさの真紅の毛並みを持つ狼が現れた。

「グルアァァァァァッ‼︎」

 真紅の狼は、僕を睨みつけると凄まじい咆哮をあげた。空気が震えて少しだけ身が引く。

 ほぉ、バーニングウルフね。レベルとして中堅くらいか。

「ほら、痛い目見たくなかったら契約の証を寄越しな。特別に痛めつけずに殺してやんよ」

 片手剣を僕に向けてリーダーの男がニヤッと笑った。

 なるほど、圧倒的人数差とモンスターの力で僕を襲おうってことね。しかも言葉からしてPKプレイヤーキル常習犯だな。

 それなら、容赦する必要もないか。

 僕は軽く首を回して、腰に提げてあるホルダーからコンバットナイフを引き抜いた。

 僕の持つ唯一の武器『デモンズエッジ』だ。

 真っ黒で艶消しの施されているナイフには、ゴテゴテとした装飾は無くグリップに悪魔の紋章が描かれてるだけ。

 食事再開したいし、さっさと終わらせよう。

 僕が身構えようとすると、ナイフに施された悪魔の紋章が淡く輝いた。

 あぁ………ここにも食事したいヤツがいたか。

「オイ!聞いてんのか!」

「あぁ、はい。でも、渡す気ないので」

「そうか。なら、死ねぇッ!」

 そう言うなり、男は剣を振り下ろした。剣から炎が放たれて僕を飲み込む。威力から見て武器固有の必殺技、クリティカルスキルだろう。

「ハッハッハ!これで悪魔の力は俺のものだ!」

 男は品のない笑い声をあげて喜んだ。しかしその笑い声も束の間、彼は異変に気がついたのだ。

「どういうことだ?死亡エフェクトが、出ていない?」

 そう、この世界では死ねば分かりやすく死体が四散するエフェクトが出る。それは障害物があっても見える。

 しかし炎の中から何も浮かんでこない。バグの可能性を省けば、考えられることは一つだ。

「まさか、死んでないのか?」

 首を傾げた瞬間、力強い突風が彼らを襲った。

「ぐあぁぁぁッ⁉︎」

 何人かは吹き飛ばされて、リーダーの男も大きく後退した。あまりの威力にHPの三分の一が削られてイエローゾーンに入る。

 そして視線を上げた彼らは目の前の光景に固まり、ガタガタ震え出す。

 吹き荒れた突風によって森を囲んでいた炎は全て消され、僕はその中心にボーッと立っている。

 HPバーは一ミリも減っておらず、満タンのままだ。まぁ、あのレベルの攻撃ならこんなものだろう。

 そして僕の周りには、一体のモンスターが姿を現していた。

 森の木々よりも高く筋骨隆々の全身を真っ黒の毛が覆い、手足には鋭く伸びた爪、腰からは尻尾が生えて、頭には山羊のような角がある。

 背中には蝙蝠のような翼があり、さっきの突風はこの翼の羽ばたきによるものだ。

 顔は般若の如く醜く歪み、僅かに開いた口からは長い牙が見える。目は左右に一つずつと額に第三の目がギョロギョロと蠢いている。

 人が思い浮かべる悪魔そのものの姿をしたそのモンスターは、僕を守るように覆い被さると、怯えきっている二十人の野盗を睨みつけて雄叫びをあげる。

「ア゛ァァァァ──────────ッッッ‼︎」

 モンスターの咆哮に木々が震えて葉が舞い散り、野盗達は顔が真っ青になった。ここが現実世界なら失禁してる頃だろう。

「こ、これが………この世界、最強の悪魔………」

 さっきまで余裕そうに下卑た笑みを浮かべていた彼らが震えて見上げる中、僕は自分よりもはるかに高い巨体と目を合わせ悪魔の名前を呼ぶ。



「さぁ。召し上がれ、グリモワール」



「ガアァァァッ‼︎」

 僕の呼びかけに応えるように吠えると、グリモワールの口から赤黒い熱線が吐き出された。

『────────ッッッ‼︎』

 熱線は野盗達の半分を飲み込み森に一直線の焼け跡を残す。

 まともな断末魔をあげることもなく、一瞬にして十個の死亡エフェクトが焼け跡から浮かび上がった。半分が死んだな。

 すると彼らの魂を表しているように輝いて浮かぶ死亡エフェクトが、グリモワールへと吸い込まれていく。

 グリモワールは大きく裂けている口を開くと、その光を全て飲み込んだ。

 一瞬満足そうに喉を鳴らすが、グリモワールの目は再び鋭く僕を睨みつけた。

「グルルルルッ!」

「はいはい、まだ食べ足りないんでしょ?餌与えなかったのは謝るから、好きにしな」

 もちろん僕はグリモワールの言葉が分かるわけではない。

 この仮想世界じゃモンスターだって所詮はただの映像。決まった動きをするプログラムだ。

 そもそも意思が伝えられるわけないし、伝えられたとしても僕は悪魔と話すスキルなんてない。

 でもプログラムだからこそ、グリモワールの行動には法則性がある。その法則こそがグリモワールの意思だ。

「ぼ、ボス!もう、逃げた方がいいんじゃ………」

「い、今さら退けるかよ!大丈夫だ、所詮はヤツ一人なんだし、何人かでグリモワールのヘイトを稼げ!その内に囲んでブッ殺すぞ!」

 声が震えながらもリーダーが声を荒げた。

 たしかに半分消せたとはいえ残りは十人、出来ない作戦では無いだろう。

「バーニングウルフ、やっちまえ‼︎」

 リーダーの命令を受けてバーニングウルフが僕に襲いかかってきた。

 さっきの攻撃が平気な時点で無駄だって分からないかなぁ。

 もういいや、これ以上は時間の無駄だ。

 僕はナイフをクルッと回して目を閉じた。そして再び目を開けると、僕の目が赤黒く光る。

 その瞬間、飛びかかろうとしたバーニングウルフがピシッと固まり、地面へと落ちた。

「グウゥッ………!」

「お、おい!どうしたんだよ⁉︎何で倒れて………」

「あぁ、それ僕のスキルですよ」

 コントラクトスキル『デモンクルーズ』

 この世界に存在するあらゆる呪いを使うことができる、グリモワールの契約者である僕のみが使えるスキルだ。今の呪いは『身体麻痺』ね。

 グリモワールは倒れて動けなくなったバーニングウルフを掴んだ。

 人からすれば大きいバーニングウルフも、グリモワールからしたら子犬のようなものだ。

「ガウゥッ!」

「ギャンッ!」

 口を大きく開けてグリモワールはバーニングウルフに頭から齧りついた。バキバキと骨の砕ける耳障りな音がして、バーニングウルフは三口でグリモワールに食べられた。

「ア゛ァァァッ‼︎」

「そ、そんな………バーニングウルフが………!」

 契約したモンスターが目の前で食べられて、リーダーは恐怖に顔を歪ませる。

 すると彼の手に握られていた炎を象った片手剣にヒビが入った。

 契約モンスターが倒されたことにより、契約の証である剣はあっさりと砕け散る。

「ば、馬鹿な………こんな、はずじゃ………」

「さぁ、次は誰が食べられたいですか?」

 僕がニヤッと笑って近づくと、リーダーを除いた野盗の全員が四つん這いになって逃げ出した。

「いやだぁぁぁッ‼︎俺は、死にたくない‼︎」

 泣き叫びながら地面を這う野盗達を、グリモワールの鋭い目が捉えた。

「ア゛ァァッ!」

 獲物を捕捉したグリモワールはその場で飛び上がった。ヤツからしたら軽く跳んだだけだろうが、木々を悠々と飛び越えて逃げ出した野盗の目の前に着陸する。

 衝撃で地面が震えて大きな影が彼らを覆う。

「ヒィィッ⁉︎やだ、やめろ!やめてくれぇぇッ‼︎」

 男の懇願も虚しく、グリモワールは彼らを掴んで口に運んだ。

「ギャアァァァッ‼︎」

 必死に逃れようとジタバタする野盗を抑え込むように、グリモワールは彼らを丸呑みにした。

 グリモワールの口の中で彼らの断末魔が掻き消えて、死亡エフェクトが口の中から漏れ出る。

 残りの野盗も全員食べられて、残りはリーダーのみとなった。

「さてと、これで後はあなただけですね」

 絶望に脱力しているリーダーに目を向けると、彼は身をすくませた。

「ヒッ⁉︎わ、悪かった‼︎頼む、この通りだ!見逃してくれ‼︎」

 逃げられないと悟った彼は、僕の前に跪いて手を合わせた。

「もうアンタを襲ったりしない!アイテム欲しいなら全部やるから‼︎モンスターの腹も膨れただろ⁉︎だから、命だけは助けてくれ‼︎」

 足元で必死に命乞いをするリーダーを見て、僕は思わず心の中で呆れてしまった。

 仮にも仲間がやられたのに立ち向かうことはせず、むしろそれを理由に逃れようとするとは。死んだ仲間も浮かばれまい。

「たしかに、グリモワールもお腹いっぱいになったみたいだし、もうあなたを食べる理由は無いですね」

「だ、だったら………!」

「でも、殺す理由はあるんですよね」

 僕は握ったナイフを彼に向ける。

「僕が生きるためには、あなたを殺すしかない、でしょう?」

 この世界に住む人間なら誰しも知ってる事実を訪ねて、僕はナイフを彼の喉元に突きつけた。

「や、やだ………死にたく、ない………」

「それなら、殺されないように家に閉じこもってるべきでしたね」

 突きつけたナイフを握る手に力を込めて、横に振るおうとした。



 その時、僕達の真上から青白い炎が降ってきた。



「うわっ⁉︎」

 慌てて跳び上がると、なんとか炎から逃れることができた。もし直撃していたら、死ぬことはなくてもHPが半分以上持っていかれていただろう。

 こんな攻撃ができるのは、僕の知る限り一人しかいない。

 はぁ、またか………

 僕はげんなりとしてため息をついた。空を見上げると、予想通りの光景が広がっている。

 そこには僕達を覆い尽くすかのように翼を広げるモンスターがいた。それはRPGのモンスターの中では定番中の定番、ドラゴンだ。

 グリモワールにも負けないほどの巨体をさっきの炎と同じような青白い鱗が包み、青い瞳が僕達を睨みつけている。

 前足と後ろ足には太く鋭い爪があり、長い尻尾には白い棘が生えている。

 屈強な力強さの中に清らかな雰囲気を併せ持った、聖なるドラゴン。

「ホーリードラゴン、か」

「ガアァァァ───────────ッッッ‼︎」

 僕達の上空を羽ばたくホーリードラゴンが咆哮をあげた。ビリビリと空気が震えて、思わず身を縮める。

 ホーリードラゴンに限らず、ドラゴンは基本的に洞窟のような人目につかない所に生息しており、普段はこんな場所に現れることはない。

 しかもホーリードラゴンはこの世界ではレアもレア、見ようと思っても見れるようなモンスターじゃない。

 そんなレアモンスターが何でこんな森にいるのかと言われれば、答えは一つだ。

 ホーリードラゴンは翼をはためかせて地面へと降りていった。下に降りていくにつれて、ドラゴンの背中が見えていった。

 そこには一人の女性が乗っていた。

 僕と同い年くらいの彼女の装備は、白と青のアンダースーツに揃いの色のミニスカート、銀色の軽めの鎧に身を包んだ戦闘向けの動きやすい服装だ。女性的な身体のラインが浮き彫りになっている。

 そして彼女の腰には、唯一の武器である白銀に輝く細剣が提げられていた。剣の鍔にはホーリードラゴンの紋章が煌めく。

 艶のある黒髪をポニーテールに纏めていて、ホーリードラゴンの羽ばたきによって靡いている。

 凛としていて気の強そうな瞳は真っ直ぐ僕に向けられていて、どこか呆れたようにも見える。

 思わず見惚れるような美貌だが、僕はげんなりとせざるを得ない。

 肩の辺りにはHPバーが表示されており、その上にはプレイヤーネームが浮かんでいる。

Hinamiヒナミ』それが彼女の名前だ。

 ホーリードラゴンが地面に降り立つと、彼女もまたドラゴンから降りて着地する。

「そこまでです」

 ヒナミは僕達に歩み寄ると、僕を一瞥してから野盗のリーダーを見た。そのリーダーといえば、もうリアクションする力も残ってないのか、呆然としている。

「最近この近辺に出没している盗賊ギルドのリーダー、ですね?あなたの身柄は我々で預かります。審判の後、然るべき罰を受けてもらいます」

 そう言って彼女はメニュー画面を開いた。リーダーのプレイヤーIDを打ち込み『通報』のボタンをタップする。

 するとリーダーの姿がかき消えた。

 人を襲った者として、マナー違反を行ったプレイヤーを幽閉する地下牢へと送られたのだ。

 こうなればもうここにいる理由は無い。僕はナイフをしまうとその場から離れようとする。

「待ってください、ベリアル君」

 歩き出そうとしたがヒナミに自分の名前を呼ばれて、足を止めて目線だけを向ける。

「何か?」

「彼ら盗賊ギルドは複数人で人を襲います。リーダーの彼以外のメンバーは、どうしたんですか?」

「ウチの悪魔が食べちゃったよ」

 モンスターらしく、グリモワールは契約者である僕を除いて唯一のプレイヤーであるヒナミを睨みつける。

 しかし彼女は怖がるどころか厳しい目つきで睨んできた。

「あなたは………また殺したんですか?」

「だったら?彼らは僕を襲ってきたんだし、正当防衛でしょ?」

「だからといって殺していい理由にはなりません!」

 ヒナミの鋭い言葉と僕を睨みつける表情からは、明らかな怒気が感じられた。

「わかっているんですか?この世界で死ねば………」

「現実世界で死ぬ。そんなの分かってるって、何度言わせるの?」

「ならば、何故殺すのですか!」

「生きるため、それ以外にあると思う?」

「ッ………!」

 僕が睨みつけると、彼女は言葉を詰まらせた。

「この世界から出るには全てのプレイヤーを殺して最後の一人になるしかない。ヒナミ、それは君も知ってるでしょ?」

「だからって………!」

「いつまでもヌルいこと言ってないで、現実見れば?君達のやってることは、ただの問題の先送りに過ぎないんだよ」

「それは………」

「まぁ君達が何してる事を邪魔するつもりは無いけどさ、僕の邪魔だけはしないでよ」

 端的に希望だけ伝えると、僕はフードを被ってその場から立ち去ろうとする。

 しかし背後から金属音がして、僕は咄嗟に身を翻した。

 体勢を立て直して前を見ると、予想通り僕の行手を阻むように、一本の細い剣先が目の前に伸びていた。

 『シルバリースケール』

 この世界で彼女しか持っていない細剣だ。

 刃を目で追えば、腰に提げていた剣を引き抜いて身構えるヒナミがいる。

「ならば、私はあなたを捕らえなければなりません」

「さすが騎士団長様、真面目なことで」

 僕は再びナイフを引き抜くと、彼女の細剣を弾いた。間合いを取って刃を向ける。

「ちょうどいい。君を生かしてても後々面倒なことになりそうだし、ここで始末するとしよう」

「ベリアル君………」

「ほら、殺し合おうよ………生きるために、さ」

「ア゛ァァァ─────────ッッッ‼︎」

 僕が口笛を吹くと、グリモワールが雄叫びをあげた。

「それならば………仕方ありませんね。ホーリードラゴン」

「グルアァァァ──────────ッッッ‼︎」

 ヒナミの呼びかけに応えるようにホーリードラゴンが吠える。

 僕達は向かい合い身構えた。

「はぁっ!」

「やぁっ!」

 地面を蹴り飛ばして僕達は刃を交える。



 ここはVRMMORPG『Life Of Fantasyライフ・オブ・ファンタジー

 僕達は殺し合う。最後の一人のプレイヤーとなって、この世界から生きて出るために。

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