09 未桜の行方




未桜みおー!」


 サラが発狂する声がその場に響き渡る。

 そして何事もなかったように静寂が戻る。だが未桜もナグナスもいない。


「なあ? 未桜は、未桜はどこ行ったんだよ……」


 翔琉かけるがシュラ達に視線を巡らせながら訊ねる。だが皆呆然としているだけで応える者はいない。翔琉は苛立ち声を荒げる。


「なあ! 未桜は! ナグナスと未桜はどうなったんだよ!」


 そして翔琉がシュラへと詰め寄り胸ぐらを掴み叫ぶ。


「シュラ! お前なら知ってるだろ! 教えろ!」

「翔琉……」

「未桜はどうなったんだよ!」

「落ち着け」


 シュラは、胸元を掴んでいる翔琉の腕をそっと持ち外させると、その場に崩れ落ちているサラへと歩み寄る。


「サラ、どういうことだ? 何か知ってるだろ」

「……」


 そこでシュラも何が起ったのか分からないことに翔琉は気付く。


「サラ! この期に及んで言わないつもりか!」


 シュラが強い口調で咎めるように言うと、リュカがシュラの肩に手を置き首を振る。


「落ちつけシュラ。サラの気持ちも考えろ」


 そこでシュラはぐっと奥歯を噛む。今一番苛まれているのはサラだ。本来守らなくてはならない者に守られてしまったのだ。その気持ちは痛いほど分っているはずなのに、つい感情にまかせてサラに詰め寄ってしまったことを後悔する。


「悪かったサラ。だがお願いだ。教えてくれ。急がないと未桜の命も……」

「!」


 サラは顔を上げる。その顔は涙でぐちゃぐちゃだった。だがその姿がとても美しいと場違いにも思ってしまった翔琉だ。


「すみません。そうですね」


 サラは立ち上がり、涙を拭う。


「今私達が動けるようになったのは未桜の今回授かった能力、【無二解術むにかいじゅつ】です」

「だから動けるようになったのか」


 シュラとリュカは分かっているのか、納得する。だが翔琉と亘は分からず眉を潜める。


「それってどういう能力?」


 亘が聞く。今まで未桜は一度も使ったことがなかった能力だ。それに応えたのはリュカだ。


「あらゆる拘束術を無にする能力だ。だが人間にしか効かない能力のはずだが」

「そうなのです。まさか私達にも効くとは驚きです」

「そんなことどうでもいいじゃねえか。で、未桜はどこ行ったんだよ!」


 翔琉は焦りからか声を荒げる。


「過去です。未桜は飛鳥川の禁じ手を使いました」

「禁じ手?」

「はい。それがさっきナグナスと消えたものです。未桜はナグナスだけの時間を遡り、平安時代に戻ったものと思われます」

「!」

「あの術は強引に時間を戻す力業です。下手すれば時渡りの縛りに違反し、時渡りの力を失いかねないため、飛鳥川家では禁じられている術なんです。そして相当の力を必要とする。たぶん過去に飛んだ時点で未桜は意識を失っていると思われます。そこをナグナスに……」


 そこまで言ってサラは両手を口に当て嗚咽する。その後の言葉は言わなくても分かる。


「なんだよ……それ。あいつ、俺らを守るためにやったっていうのかよ……」


 翔琉の言葉に誰も応えない。


「おかしいだろ? なんで? あいつすげえ怖がってたじゃねえか! 嫌がってたじゃねえか」


 そこで翔琉ははっとする。そうだあいつは嫌がってたんだ。その理由が分かり翔琉は後悔する。


「あいつ、先読みの力あったよな?」


 そこで皆、翔琉が何を言おうとしているのか分かった。


「じゃあさっき嫌がってたのは……」


 亘も理由が分かり苦渋の顔を見せる。こうなることを見ていたのだ。だから未桜はこの場を離れたかったのだ。


「俺は未桜にひどいことを言ってしまったな……」


 亘は、未桜はてっきり古墳が嫌で嫌がっていたのだと思っていたため、つい強い口調で咎めてしまったことを後悔する。


「サラ、なぜ未桜だけ動けたんだ?」


 シュラがサラへと訊ねる。


「確信はないのですが、未桜にはあのような呪い系が効かないようです」

「じゃあ、呪術も」

「はい。でも今までそのような事態になったことがなかったため確信がなく……すみません」


 下を向きぐっと涙を堪えるサラに、翔琉は少し明るいトーンで励ますように言う。


「サラさん、未桜は大丈夫だ! だから元気だせって」


 それに対し亘が咎める。


「翔琉、そんないい加減な励ましはやめろ。ただサラを余計に悲しませるだけだ」

「いい加減じゃねえよ。 俺は本当にそう思って――」

「じゃあ余計にやめろ! 未桜は――もう殺されている可能性のが高いんだぞ」


 亘は翔琉の言葉を遮ぎるように強い口調で言う。

 サラは、はっとして目を見開く。そんなサラを横目で見ながら翔琉は亘へ言う。


「亘、何言ってるんだよ……」

「……言葉の通りだ」

「お前、本気で言ってるのか?」


 翔琉は亘を睨むと、亘も同じく睨み返す。


「ああ。今までのナグナスの行動から考えれば、そう考えるのが普通だろ」

「何が普通だよ! まだそうと決まったわけじゃねえだろ!」


 今にも亘に殴りそうな勢いで詰め寄る翔琉をシュラが両肩を持ち止める。だが怒りが収まらない翔琉は亘へと迫ろうと前のめりになる。そんな翔琉に亘も柄にもなく声を荒らげ言い放つ。


「この状況でどうして生きていると言い切れる! 今までのナグナスの行動はお前が一番分かっているだろう!」

「亘、やめろ」


 今度はリュカが亘の肩に手を置き諭すように制する。


「翔琉もだ。今お前達が喧嘩している場合じゃねえだろ」


 シュラも翔琉を静かに咎める。だが翔琉も亘も一度火がついた怒りは、そう簡単に収まることは出来ない。


「あいつは、未桜は生きてる! ナグナスは未桜を殺さねえ!」

「なんでそんなことがお前に分かる!」


 めずらしく亘も声を荒げて反論する。


「こっちも確率だ。未桜を殺すならさっきとっくに殺してるはずだ! だがあいつは自ら止めた! あのナグナスがだ! 理由は分からないが未桜を殺す気がなかったからだ!」


 そこで亘達は目を見開く。そして少し怒りのトーンが下がり冷静さを取り戻す。


 ――確かにそうだ。翔琉の言うことも一理ある。ナグナスならあの状況なら未桜を斬り捨てたはずだ。


「俺はあいつが生きていると信じてる! それにあいつは消える前に俺に言ったんだ! 助けろと! それって死ぬつもりはないってことだろ!」

「!」

「なら助けてやらねえと! それが仲間だろ!」

「……翔琉」

「俺らが最初から諦めてどうするんだよ! まだ死んだって決まってねえんだ! 諦めるのは最後にしろよ!」


 翔琉は亘をまっすぐ見る。その瞳に亘はいつも何も言えなくなる。昔からそうだ。何故か分からないが説得力があり反論出来なくなる。


 ――ほんとこいつはいつも……。


 諦めて立ち止まろうとする自分をいつも立ち止まるなと叱咤する。誤った道を行こうとすると正しい道に導いてくれる。


 だから自分は間違えずに今まで前を向いてこれた。


 亘は嘆息しふっと笑う。


 ――また翔琉にただされたな。


「悪かったな翔琉。冷静さを欠いていた。お前の言う通りだ。最初から諦めるのは良くないな」

「亘……」

「未桜を助け出すぞ!」

「ああ!」

「だがその前にあの盗賊を時空警察に渡してからだな」


 いつもの亘に戻り翔琉はほっとする。亘は離れた場所で翔琉達と同じく拘束術で動けなくなっていた盗賊の男の元へと行くのを見てリュカが翔琉へ礼を言う。


「翔琉、ありがとう。助かった」

「へん! あいつはいつもそうなんだよ」

「お前は反対に前向き過ぎるけどな」


 シュラが突っ込み笑うので、腹に一発肘鉄を食らわせる。


「くーっ!」


 不意打ちだったためもろにくらい、シュラは腹を押さえうずくまった。ざまあみろと翔琉は鼻で笑い勝ち誇った顔をしてサラの元へと行く。


「……翔琉のやろー」


 涙目で文句を言うシュラをリュカは、「阿呆」と横目で呟き亘の方へと歩き出した。

 翔琉は下を向いて動かないサラへと歩み寄り手を差し伸べる。


「サラさん、未桜を助けに行こう」

「翔琉……」

「未桜もサラさんを待ってる。だから元気だして」


 翔琉は優しく微笑む。


「ありがとう。翔琉」


 サラも翔琉に微笑み返した。




――――――――――――――――――――――――――――――


 こちらを見つけていただきありがとうございます。

 そしてここまで読み進めていただきありがとうございます。


 今回で第3章が終わりです。

 

 次が最終章になります。今回は早いぞw


 最終章は、翔琉達は未桜を助けに向かいます。

 ナグナスと消えてしまった未桜の安否は? 

 そして、翔琉とナグナスとの関係は?

 

 

 少しでも面白いと思っていただけたなら、ブックマーク、そして☆評価やレビー、コメントをしていただけると、キャホーと飛び上がるほど喜んでしまいます(≧∀≦)


 どうぞよろしくお願いします。


    

              碧心☆あおしん☆

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