06 トスマの部下の八将神



 ――ち! 避けきれねえ!


 覚悟した瞬間、青龍せいりゅうの刀が弾き飛ばされた。そして六合りくごうの棍棒の攻撃も何者かに阻止される。なんだと見れば、越時えつときを囲むように2人の背の高い甲冑を着た男達がいた。


 すぐにそれが誰だか越時は分かった。


「越時、トスマの命により加勢する」

「ありがてえ、クルラにキサラ。だがもう少し早く来てくれねえかな。肋骨やられたんだけど」

「それはお前が弱いからだ」

「いや、そこは、そうだな、悪かったって言うところじゃねえか?」

「くだらんあいさつはいい。体勢を整えろ」


 無表情で言うクルラとキサラは、トスマ専属の部下、八将神はちしょうしんの天部の者だ。

 ほとんど姿を見せることはないが、トスマが必要な時のみ召還される頼もしい部下2人だ。だが、トスマ以外には冷たいところがあるのが玉にきずだ。


「相変わらず俺には厳しいねー」

「お前は我らの主ではない」

「一応その主の大事な守護する人間なんだから、もう少し優しく接してくれてもいいんじゃねえか」

「減らず口はいい。さっさと終わらすぞ。この2体は我らがする。お前は陰陽師をどうにかしろ」

「へいへい。てか俺、肋骨痛えんだけど」

「それだけ話せれば大丈夫だ」

「ちっ! わかったよ」


 越時は陰陽師へと間合いを一気に詰める。だが陰陽師は印を結び、越時に拘束をする術をしてきた。透視で五芒星が越時を覆い被さるように頭上から降ってくるのがわかり、越時も印を結ぶ。


「【弾辺だんへん】!」


 すると五芒星は上へと跳ね上がり陰陽師の頭上に落ち陰陽師を拘束する。


「なに!」


 驚いたのは陰陽師だ。まさか術を跳ね返されるとは思ってもいなかったようだ。


「それ以上動くな」


 越時は陰陽師へと剣を向ける。


「おとなしくしててくれれば何もしねえ」

「何者だ! 我の術を跳ね返すとは、同じ陰陽道の者か!」

「ちょっと違うなー。まあこれ以上話してもしょうがないから、はい眠ってね」


 越時は陰陽師にポケットから取り出した香水を顔にふりかけた。


「な、なにを……」


 急激な眠気に陰陽師はその場に倒れた。


「良い夢見な。起きたら記憶消えてるけどね」


 刹那、殺気に気付き、越時が体をずらした瞬間、にぶい音と共に左後ろ脇に衝撃が走る。


「!」


 視線を向けると、小刀が刺さり着物は血が滲んで真っ赤になっていった。


「越時ー!」


 越時の不慮の事態にトスマの叫び声が響く。越時はゆっくり視線を後ろに向けると、そこには十二天将の1人、玄武げんぶがいた。


「まだいやがったのか……」


 陰陽師に何かあった時に行動を起こすようにしてあったようだ。


 そこへトスマが玄武げんぶへ斬りかかる。だが玄武げんぶは瞬時に越時から刀を抜き、後ろに大きく飛び退き回避。

 すると、真横から1人現れ、凄い勢いで玄武げんぶへと斬りかかった。


 ――あれは……。


 トスマの眷属の1人だと越時はわかったが、体を支えることが出来ずその場に倒れた。


「越時! 越時!」


 トスマはすぐさま越時を抱き起こし、脇の傷へと手をあて治癒する。


「大丈夫だ……。ツッ……一応急所は避けたからな。脇をちょっとやられただけだ」

「話すな。傷に触る。今傷口の血を止める」

「悪いなトスマ。朱雀はどうした……」

「倒した」

「さすがだな……。くっ!」

「痛むか。我慢しろ」

「俺はいいから、十二天将じゅうにてんしょうを……」

「ばかを言うな。お前が先だ。あの者達に任せておけば良い」

「あれは? 初めて見るな……」


 玄武と戦っている者に視線を向ける。一度も見たことがない人物だ。


「ジエラだ。八将の中の1人だ」

「……なんだよ。今まで……隠してたのかよ」

「あの者はめったに出てこぬ。この私の命でも聞かぬことがほとんどだ。だが今回は出てきてくれた。あやつに任せておけばいい。あやつは八将神の中で一番強い」


 越時が見るとジエラが玄武を倒すところだった。やはり一番強いというだけあり、あっという間に倒してしまった。そこでトスマの話し方が違うのに気付く。


「トスマ……素が出てるぞ……」

「そんなこと気にするな」


 越時はふっと笑う。そして目を瞑る。


「わりい……トスマ……限界だ……後は……頼……む」

「ああ。ゆっくり眠れ」


 越時はそこで意識を失った。トスマの治癒の力により強制的に寝かされたのだ。そこへジエラ、クルラ、キサラがやって来てトスマに跪く。


「お前達すまなかった。助かった」

「越時は大丈夫ですか?」


 クルラが心配な顔をし越時を覗き込みながら尋ねる。


「急所をうまく外したみたいだ。命には別状はない。そこはさすがだ」

「そうですか。よかった」


 クルラとキサラは安堵のため息をつく。越時には冷たく接しているが、クルラとキサラは越時を嫌っているわけではなく、反対に気に入っていた。


「もう一体いたのに気付かなかった私の責任だ」


 トスマは苦渋の顔を越時に向ける。下手すれば越時の命が亡くなるところだったのだ。


「すまぬ、越時」

「我々も気付かなかったこと、申し訳ございません」


 クルラとキサラも頭を下げ謝ったが、トスマは首を横に振り否定する。


「いや。私が気付かなかったのが一番の責任だ。お前達は悪くない。ジエラ、出てきてくれてありがとう」

「主の声が尋常ではなかったからな」


 ジエラは越時を見る。


「これが主の大事な人間か」

「ああ。越時という。私の大事な宝だ」

「そのようだな。よい魂を持っている。これからはいつでも参じよう」


 ジエラはその場から消えた。


「ほんと、あいつは素気ないな」


 トスマは苦笑する。


「元々あのよう者です」


 キサラが無表情で応えると、トスマは肩を窄める。


「そういうお前達も同じだと思うがな」


 トスマからすれば、越時に対する接し方はジエラとまったく変わらないのだ。自覚はあるのか、2人は否定をせず質問を変えてきた。


「これからどうするのですか」


 トスマは越時を抱き抱えると立ち上がる。


「ユウラ達と合流する。よい頃合いだろう」

「御意」




      ◇




 ユウラは屋敷からかなり離れた場所に来ると、意識を戻したのぼると盗賊を下ろす。


「ここまでこれば大丈夫でしょう」

「越時さんは大丈夫かな」

「……大丈夫です」


 ユウラは越時が刺されたことを知っている。守護神同士は話さなくてもわかる。だが今、昇に余計な心配をさせたくないため、ユウラはあえて話さないことにした。


「お、お前らも時空警察か?」

「そうです」


 昇が応えると、盗賊の男が笑う。


「あはは、こんな子供がか?」

「誰が子供ですか! 昇はれっきとした大人です!」


 ユウラが昇のことに対して怒るが、


「たぶんユウラを見て言ったんだと思うけど……」


 と昇は小声で突っ込む。


「逃がしてくれてありがとよ。悪いが捕まるつもりはない」


 男はその場から逃げようとするが、体が硬直して動かなくなった。


「なっ!」

「誰が逃がしますか」


 ユウラが男を拘束したのだ。


「くそ!」


 その時だ。ユウラ達の近くに突風が吹き、フードの男が現れた。


「!」


 昇とユウラは驚く。


「ナグナス!」




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