第3章 【Mission】捕まった不法トラベラーを救い出せ

01 墓地と古墳



 翔琉かけるが時渡りの仕事をして1ヶ月が過ぎた。


「ふぁあ、ねみい」


 翔琉はあくびをしながらわたると大型ショッピングモールを歩く。


「よく言うよ。昼まで寝てたやつが」

「ちゃうぞ。昼までしか寝てないんだよ」

「はいはい。で、何時に寝たんだ?」

「何時だっけなー」


 翔琉はわざととぼける。どうせ朝まで起きていたことはすぐに予測はつく。だから質問を変えた。


「夜遅くまで何してたんだ?」

「ネットゲーム」


 やはりそうかと亘は嘆息する。


「お前なー。やるのはいいが、仕事に支障きたすなよなー」

「わかってるって」


 少し鬱陶しそうにムッとする翔琉。するとシュラの声だけが聞こえてきた。


『こいつわかってねえぞ。仕事の時もがっつり朝までゲームしてるからな。現に今日も朝までしてたぜ』

「シュラ! 言うんじゃねえ!」


 翔琉は慌ててシュラに文句を言う。


「お前なー」


 そんな翔琉に亘は聞こえよがしにため息をつき睨むように抗議の目を向けると、悪いという自覚はあるらしく気まずそうな表情をし応える。


「わ、分かってるって。悪かったよ。これからは気をつける」


 すると、


「あー! 風船!」


 と女の子の叫び声が聞こえた。


 見れば、風船が女の子の手を離れ上へと上がっていくのが見えた。翔琉はすぐに十字を切り、くいっと下へと指を向ける。すると風船はゆっくり下がってくると女の子の前で止まる。女の子は、ぱぁと満面の笑顔になり風船の紐を掴み喜んだ。隣りの母親はなぜだと不思議そうな顔をしている。


 その様子を見ていた亘が驚く。


「お前、現代でも能力使えるんだな」


 時渡りの能力は、普通過去へ行かないと使えない。それなのに翔琉は普通に使えているのだ。


「そういえば普通に使えるな。だが制限がかかってるが」

「制限?」

「ああ。威力が半減してるかな。それに使える能力はほとんど理解不能なんだよな」

「どういうことだ?」


 亘は眉を潜め首を傾げる。翔琉はどう説明しようかと腕組みをして考える。


「難しい参考書って読んでも意味が分からないだろ? あんな感じだ。たぶんそれは俺は使えないやつなんだと思う。後はモザイクがかかっていて、今はまだ見えないようになってる感じだな。それはいつか分かるようになるやつなのかもしれない」

「へえ。それも時を司る神があえてしているということなのか」

「たぶんな」


 ちょうど未桜みおのぼると待ち合わせに指定したショッピングモールの真ん中にあるオブジェの前に着いた。2人の姿を探し首を巡らす。


「まだ来てないみたいだな」

「あっちは墓地経由で来るからなー。遅いかもな」


 亘が意味ありげに応えると、リュカが抗議をするような声をあげる。


『墓地に行かせたのか?』

「ああ。だって古墳よりはいいだろ?」

『まあそうだが……』

「古墳ってさっき行った場所か?」


 翔琉達はショッピングモールに来る前に調査のために古墳に行ってきていた。


「ああ」

「あいつらは墓地を調査しに行ってるんだよな? なんで墓地を経由すると遅いんだ?」

「来ればわかるよ」


 そう言って笑う亘に翔琉は首を傾げる。

 それから10分後に未桜と昇がやって来た。だが2人の姿を見て翔琉は眉間に皺を寄せる。


「げ! なんだあれ」


 その異様な光景につい声を上げてしまった。亘は苦笑する。


「わかっただろ?」

「ああ……」


 原因は未桜だ。未桜の周りだけ異様な空間になっているのだ。本人もいつもの元気がなく辛そうだ。


「おまたせ。ごめん遅くなって」


 それに比べ昇はまったく影響がないようで元気に挨拶をした。


「未桜が体調悪くて」

「そりゃそうだろうな。それだけ連れていれば体調悪くなるわ」

「え? 何が?」


 まったく分からない昇は首を傾げる。


「未桜、なんだよその数。何百人も連れてるぞ」


 未桜の後ろに何百人という死者の霊が憑いているのだ。


「やっぱり? もう死にそう……」


 未桜はその場に座り込む。するとサラが姿を消したまま未桜の背中をさすっているのが見えた。


『やっぱり墓地はだめですわね』

「うー、吐きそう…… 」


 翔琉は十字を作り右手を複雑に動かし最後に円を描き上へと跳ね上げるようにして唱える。


「【浄土天上じょうどてんじょう】」


 すると未桜の後ろにいたすべての霊が一瞬でその場から消えた。


「あ、軽くなった……」


 未桜が驚き呟く。


『翔琉が全員を上に上げてくれましたわ』


 サラの説明に未桜は翔琉を見る。


「え? 翔琉が? そんなことまで出来るの? すごいな。ありがとう。助かった」


 未桜はふうと息を吐き立ち上がる。


「でもなんでそんなに未桜だけに憑くんだ?」


 霊に憑かれやすいといっても半端ない数だ。1度につくには多すぎるのではないか。


『サラがいるからだな』


 シュラがそれに応えた。


「サラが?」


 見ると、サラはただ困った顔をして苦笑しているだけだ。


隠形おんぎょうした姿でも俺らは死んだ者からは見える。ましてや人間は神は女神という概念があるからな。サラが女神のように光って見えるのだろう。だからサラについていけば極楽浄土に連れて行ってくれると思っているんだろうな』


「じゃあなんでシュラ達には憑かないんだ? さっき古墳にもたくさんいたよな?」


 翔琉は古墳で成仏できていない霊がうじゃうじゃいたことを思い出す。


「そんなの当たり前だ。リュカのように厳い顔の怖そうな武神に近づこうと思うか?」


『おい』


 亘の言葉にすぐさま厳い顔で突っ込みを入れるリュカの顔を見て翔琉は納得する。


「いや行かねえな……」


 翔琉でもリュカやシュラよりはサラがいいと思う。


「だよなー。俺だって美人で綺麗な優しそうな女性に着いて行きたいもん」


 笑いながら言う亘の後ろで睨みをきかせているリュカを見て翔琉は苦笑する。


「じゃあなんで昇にはついてないんだ?」


『見りゃ分かるだろう。気の弱そうな男と見た目が子供についてくるやつなんていねえよ』


 シュラが笑いながら応える。それには昇は「ひどい……」と肩を落とし、ユウラは憤慨だと怒る。


『シュラ! 侮辱もいい加減にしてください!』


 シュラに噛みついているユウラは、どう見ても子供にしか見えない。


『別に侮辱してないぜ。見たままを言ったまでだ』


 その通りだと皆が思ったことはユウラは気付かないだろう。180センチ以上はあるシュラとリュカに比べ、ユウラは150センチぐらいしかないのだ。どう見ても大人と子供だ。


「なんでサラさんは霊を浄化しないんだ?」

『私達守護神は出来ないんですよ』


 意外な回答が帰ってきたので翔琉は驚く。


『俺らは場所は浄化出来ても霊体の人間をうえに上げることは出来ない。そっちは仏や地蔵が専門だ』


「ふーん。よくわかんねえ」

「とにかく上に上げるのは守護神の仕事じゃないということだ」


 亘が笑いながら言う。


「じゃあいつも未桜はどうしてるんだ?」

「神社に行けば氏神様が取ってくれるわ。でも基本墓地と古墳には行かないようにしてる」


 だから古墳は未桜はだめなのかとやっと理解した。古墳のほうが墓地よりもだんぜん不成仏霊が多いのだ。


『でもこれからは翔琉が祓ってくれるから未桜、行けるぞ』


 シュラがからかうように笑っている。


「シュラ、冗談やめてよ。行かないわよ。本当に行かないといけない場合以外はお断りよ」


 ふんと未桜は横を向くのだった。





 だが次の日。



「なんで古墳なのよー!」


 亘が運転する車の中で未桜が泣きそうになりながら叫ぶのだった。

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