第12話 どの様な写真をご所望で?
「よっす」
ゴールデンウィークが終わり、母さんと父さんも普段通りに仕事に行く。夕方、午後四時を過ぎた頃、篠森が家に来た。
「おう」
俺は篠森を部屋まで入れる。
結局、茶菓子なんて物はない。ゴールデンウィーク中には先生が家庭訪問をする事はなかった。だから、当然三谷先輩の話は聞けていない。今日から学校が再開とのことではあるが、あの時の反応からして期待はしてない。
「ゴールデンウィークどうだった?」
「え……?」
「いや、どっか遊びに行ったかなって」
俺は生憎謹慎中の身であるが、篠森は別に自由に行動できただろう。友達と遊びに行く約束なんて簡単に取り付けられるだろうし。
「別に。私、倉世以外と休みに出かける程仲良くないし」
篠森の交友関係はそんなに広くはないらしい。
「そっちは?」
「見ての通りだよ」
篠森をベッドに座らせ、俺は床に座る。
「謹慎中だから自由に行動なんか出来ないから」
ゲームか、課題をやるか、あとは寝るか。晩飯の準備をするのも入っているが、気晴らしに外にも出れない。ゴールデンウィークだからと外に出れば、先生に見られると色々言われるだろうと思って引きこもっていたわけだ。
「それより……なあ、体育祭大丈夫か?」
「まあ、何とかするんじゃないかな。そうだ、写真撮ってきてあげよっか?」
「写真って……スマホ使えんのかよ」
スマホの使用は禁止だとか学校が面倒なルールを設けて、カメラは学校が配った物か委員会の奴らが撮るとかくらいしか方法が無くなってる筈だ。
「そこは……バレない様にする」
「……バレたら没収だろ」
生徒指導部の先生、まあ最近俺の家に家庭訪問に来る先生にスマホを没収されて親を呼び出されてと言う流れだろう。学校の先生はスマホの使用禁止を謳っているが、思い出の一つや二つ、あっても困らないだろう。何より今回のこれは授業を妨害することでもない。
「大丈夫。というか、謹慎中でそこまで省いたら寧ろそっちの方が問題になると思う」
それは孤立すると言う意味合いで、か。彼女の言う事も一理あると思うが、それでも。
「……仕方ないだろ」
俺が問題を起こしたのは事実なんだし。
俺だって謹慎処分を了承したんだ、形式的には。俺はこの二週間で反省のために家から一歩も出ないことと、学校関係には基本的に関わらないという状態を強いられてる。文句はない。付けられないから。
「まあ、任せて。私がそうしたいだけだから」
そう言われてしまっては止めろとも言えない。俺の言葉には強制力がない。しかも体育祭当日に俺は居ないのだから。
「いや、本当に気をつけろよ」
俺が溜息を吐きながら言う。
現代っ子の俺たちがスマホを没収されたら死活問題だ。アプリゲームが出来なくなるのも中々厳しいが、より辛いのは連絡手段が限られてくる事。
いざとなれば公衆電話は使えるとは思うが、やはりスマホの方が便利だ。
「それで、注文があれば聞くけど……」
「注文ってな……」
商品でもないだろうに。
「ほら……倉世とか」
「俺は別に倉世の写真欲しいって言ってないだろ」
欲しくない訳ではない。
更に言えば、倉世の写真は持ってる。
それは幼馴染だし、ツーショットの写真なんてのは親が撮る。別に俺が望んでる訳ではないが。
「……つか、今の状況で倉世の写真欲しがってたらいよいよもってなんだよ」
今までの倉世ならまあ、笑い話とかになったかもしれない。でも、俺に対する記憶のない倉世の写真を俺が持っていると言うのは……普通に考えて色々と問題がある。
「とにかく、写真撮るってのは分かったけど、普通に楽しんでくれよ」
これで篠森がスマホ没収されて楽しめなかったとなると気にしてしまう。
「了解」
篠森がチラリと自分のスマホを見てから立ち上がる。
「ん?」
どうしたんだろうか。
「帰る」
「そうか」
そんな時間だったか。
「そろそろ甲斐谷の親も帰ってくるでしょ」
篠森の言葉に俺もスマホを見る。時間は五時に近づいている。
「そうだな」
俺も立ち上がって篠森を玄関先まで見送る。これ以上はついていけない。
「気をつけて帰れよ」
「わかってるって」
口うるさい親みたいだ。篠森が失笑を漏らして背を向けた。
「またな、篠森」
この辺りの犯罪率が高い訳ではないにしても、実際危ない人間もいるのだ。事故だって少なからず起きてる。同様に事件も。
「…………」
俺は篠森が帰って行くのを見送ってから、自分の部屋に戻った。課題がある。反省文も。
「はあ……」
やる気が削がれて俺はゲームを起動する。勉強する気力がなくなった。ゲームのロード画面を眺めていると階下から「ただいま〜」と声が聞こえた。
「あ」
母さんが帰ってきた。
ゲームが前回の続きから始まる。
「……何もしてない」
俺はゲームをメニュー画面で止めて階段を降りる。
「おかえり」
料理をしなければ。
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