ARMY OF MONSTERS -零番隊のモノノケたち-

三柴 ヲト

第1話 拝命

 ◇


「訓練生番号五百二十八番、紫ノ宮しのみやヨウ。対妖魔ようま防衛課、妖魔討伐隊・ぜろ番隊配属を任命する!」


 あやかし公安局本部大講堂内・第九十九回公安局入局任命式にて。


 局長の毅然とした声色が大ホールの隅々にまで響き渡ると、しんと張り詰めていたそこに、今日イチのどよめきが沸いた。


「え、うそだろ」「あの落ちこぼれが?」「局長、手の中のメモ、読む行間違えたんじゃねえか」「世も末だな」――。


 とても好意的とは思えない、懐疑的で窘めるような視線が四方八方からつき刺さる。


 おい待ててめえら。十年近く同じ釜の飯を食ってきたってのに、そんなに俺が嫌いかよ。


 喉まででかかる苦情を生唾と一緒に飲み込んで、与えられた使命を噛み締める。


 憧れの妖魔討伐隊。しかも最前線〝零番隊〟。目前にまで迫った妖魔への復讐――。


 驚愕している場合でも、びびっている場合でもない。場内のざわつきを一蹴するよう、俺は強い信念を持って声を張り上げる。


「了!」


 なんとでも言えばいい。


 騒がれようが、反感を抱かれようが、嫉妬されようが。夢にまで見た晴れ舞台で、あの忌々しい妖魔・あやかしどもを一匹残らずこの手で駆逐してやる――。


 そう固く胸に誓って。俺は職員から差し出された『零番隊』の腕章を、この手にしかと受け取った。

 


 ◇



 任命式が終わって小一時間もすると、俺の零番隊入りの話は瞬く間に局内へ広がっていた。


「おい、見ろよ。あいつ、五十七期生の紫ノ宮だろ。あいつが零番隊とか、なんの間違いだよ」


「しっ。聞こえるって。曲がりなりにもあいつはもう零番隊サマサマなんだぞ。下手に喧嘩売ると俺らの立場がまずくなるし、あいつのへっぽこ呪術で封印されちまうぞ」


 いや、もう聞こえてますから。


 大口を開けてガハハと笑う先輩たちの横を、歯を食いしばって足速に通り過ぎる。


 短丈の黒い隊服に、『はち番隊』の刺繍が入った藍色の腕章、腰に帯びた刀――妖魔討伐隊、八番隊、平隊員の先輩たちだ。


 隊服の形や腕章の色、柄の色などから手に取るようにわかった情報を頭の片隅に追いやって前を向く。


 異論はない。確かに俺は、陰陽省の専門職員や討伐隊員を養成する施設〝陰陽寮〟でも、役に立たない式神の使役か、あるいは『封印術』しか使えないへっぽこだった。


 霊力の乏しさを戦闘センスで補おうと随分体を鍛えたりもしたけれど、それすらも折り紙付きの適応力のなさで成績はいつも最下層。頭だってそれほどいいわけでもなく、素行だって取り立てて良いわけでも悪いわけでもなかった。


 そんな俺がなぜ、国が保有する有能な陰陽師戦闘集団・妖魔討伐隊・零番隊に任命されたのかといえば、俺が使える唯一の呪術・紫ノ宮式『封印術』が、陰陽師の中でも使い手の少ないレア属性の呪術であったこと。そしてそれが、討伐隊には欠かせない性質の術であったことが一番の理由だろうと思う。


 何度考えてもそれ以外に思い当たる節はなく、上層部の決定には逆らえるはずもないので、俺は最後まで納得がいっていなさそうな先輩からの当てつけのような視線を背に浴びながらも決して振り返ることなく、今日からの拠点となる〝零番隊本部〟がある地下へ、足早に歩みを進めた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る