熱の行方

それは、ひどく蒼い鱗であった。


熱帯と同じ温度に設定した水槽の中、

蒼い尾ヒレを優雅にくねらせ、

ヒラヒラと舞い泳ぐ1匹の熱帯魚


柔らかに動く度、

鱗が照明の光を受け止める


淡く、鋭く、煌めく


こんなに艶やかな美貌なのに


同じ種族の雄同士を共存させると

攻撃し合う、悲しき本能


水温が下がるだけの事で

命を落とす儚さ


それをぼんやり眺める私たちと

この美しく脆弱な生き物は


どう違うと言うのだろう


先程まで、この場所で、

同じ熱の中で抱き合った


絡め合うように

孤独の熱をぶつけた


美しい尾ヒレの熱帯魚

四肢を顕にする二人


その時から抜け出した今

簡素な部屋が静かに冷える


冷めていく温度が

徐々に心を殺していく


〝また、離れ離れ〟


もう分かりきっている


「次はいつになるかしら」


「すぐだよ、お互いが望むなら」


服を着終わった男性は

まだ素肌の女性の部屋を出た


蒼い鱗の熱帯魚は

熱い温度で

冷えた蒼をくねらせ


優雅に泳ぐだけで

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