学校を召喚しよう!

@OGANAO

第1話 学校が異世界に行ってしまった

1.学校が異世界に行ってしまった


 いったい何が起こったんだ?

 オレは、ぼんやりした頭で考えた。

 さっき、ものすごい衝撃とスパークがあったようだけど。

 オレは頭を振り、身体を起こした。

 何時の間にか床に倒れていた。

 他にも制服姿の男子と女子とが床へ倒れている。……クラスメイトだ。

「おい、大丈夫か?」

 オレは近くに倒れていた女子を揺り起こした。

「う…」

 女子は唸って、身をわずかによじった。

 ショートな髪にくりっとした大きな目。見た目は可愛いが、性格は考えただけで怖気がする。最悪ってことだ。

 こいつは鐶(たまき)。

 家、となり。

 幼稚園、同じ。

 小学校、同じ。

 中学校、同じ。

 高校、同じ。

 ようするに幼馴染だ。

「鐶、起きろ!」

 オレは続けて呼びかける。

「……ん。カイくん、何?」

 鐶はぼけっとした顔で、頭を起こし、オレを見た。

 カイはオレの名前。

「……まあ、そんな。カイ君がこんなに積極的だなんて。あたしは構わないけど……」

 鐶は恥らうような仕草をするが、

「誤解されるようなことを言うな」

 オレは全否定。

 ほっとくと止め処もなく幻想に浸り続けるからな、こいつは。

「……何だ、つまんないの」

 鐶は醒めた表情で、さっと起き上がる。

 こいつの家は武術を継承する家柄だ。それを修得しているので、身のこなしは男以上に凄い。

「で、何がどうなったわけ?」

「んーと」

 オレは考えようとして、

「いや、オレに分かるわけないだろ」

 何もつかんでいないことに気づいた。

 自慢じゃないがオレの成績はよくない。むしろ悪いほうか。

「そりゃそうね」

 鐶は納得。

 いや納得すんな。

 こいつは悪い性格とは正反対に成績は好い。

 だからかもしれないが、なんかムカつく。

「それよりみんなを起こそうぜ」

 オレは他のクラスメイトを見る。

「えー、カイ君といちゃついてるほうがいいよー」

 鐶はあからさまにイヤそうな顔をした。

「殴るぞ」

 オレは拳骨を固めてハーッと息をかける。

「はいはい、分かりました。……そんなに照れなくても」

「いいからやれ!」

「はいはい!」

 てな具合にみんなを起こした。


 *


「漂○教室~~~ッ!」

 角刈りの男子が叫んだ。

「こらこら何を叫んでるかっ」

 オレはとがめるように言ったが、その気持ちは十分なくらい分かる。

 オレたちが起きた後、誰ともなく窓の外に広がる景色に気づいたのだった。

 その景色は、いつものそれとはまるっきり違っていた。

 いや、結論から言えば普通の景色なのだが、今まで見ていた町並みとか、田んぼとかがないのだ。

 原生の林とでもいうのか。

「なんか野生の動物王国って感じがするっ!」

 角刈りの男子が、喚いた。もう既に泣きそうである。

「おいおい、このぐらいで不安がるなっつーの、男だろ!?」

 と角刈りをたしなめたのは、ロングな髪の女子。

 高い身長。つりあがった目。

 角刈り:始(はじめ)

 つり目:美紀(みき)

 紹介終わり。

「…男女同権」

「アホか」 

「それぐらいにしろよ、ケンカしてる場合じゃねーだろ」

「うん、カイ君がそういうならぁ」

 目にハートを浮かべ、美紀は両手を胸の前に組んでオレに擦り寄る。

 そう、困ったことに美紀はオレにラブラブなのだった。

「こらあ、カイ君はあたしのもんだからね!」

 鐶が間に割って入る。

「ちっ……カイばっかもてやがってよぉー」

 始は別の意味で涙していた。


「始、お前、見て来いや!」

「やだよ、自分で行けよ!」

「いやいやいや、ここでお前がやれば男が上がる!」

「上がんなくていいもーん。つーか、命令すんな。言いだしっぺがやるべきだろ?」

「てめー、やれっつったらやれよ!」

「やだね!」

 オレと始は、のっけから、みっともない押し付け合いをしていた。

 誰ともなく景色を眺めているうちに外へ行ってみよう→でも誰が? という流れだ。

「あのさー、君たち醜い争いはヤミてくれるぅ?」

 呆れた声がする。

 鐶だった。

「ねー、まず先生を頼るべきじゃん?」

 美紀がまともな意見を言った。

 こいつは外見こそレディース入ってるが、その実まともな思考の持ち主だ。

「そーそー」

 鐶がうなずく。

「あいつら、こういう時にこそ生徒を守るために命を投げ出すべきなのよ。土蜘蛛みたいな凶悪な未来人から生徒たちを守って市にやがれ。セクハラなんかで全国版にぎわしてる場合じゃねーっつの」

「あ、それ同感」

 美紀もうなずく。

 前言撤回。

 こいつら性根が腐ってやがる。


 *


 とはいえ正論である。

 身近にいる大人を呼ぶのが、世間一般での常識に従った行動だろう。

 他のクラスメイトたちも同じ意見のようで、オレたちはぞろぞろと教室を出た。

 隣のクラスも、そのまた隣のクラスのヤツらも、同じように廊下へ出てきていた。

「職員室へ行こうぜ」

「今頃、何言ってんのさ。先生たちはみんな使い物にならないさ」

 と、オレたちの前に立ちはだかったのは、見るからにキザッぽい男子。

 整った顔立ちで、いわゆる二枚目。

 笑うと歯がキラリと光る。

 身に着けているものはみな高級品。

 家が金持ち。

「マサオじゃん」

 オレはうざったそうにそいつを見た。

 なぜだか、ヤツはオレを敵視しているというか、いつもつっかかってくるのだ。

「惜しい、マスオさんとは一文字違いかぁー」

 始は何事かくっちゃべっている。

 ……アホだ。

「…いや、お前の思考、狂ってるし」

 オレは始に汚いものでも見るような視線を浴びせたが、一向に効き目はなかった。

「相変わらず、訳の分からんことを!」

 マサオは声を荒げた。

 勢いだけのセリフが得意技だな。

「いや、分からんのは始だけだが」

 オレは冷静に反論するが、

「うるさいっ」

 マサオは、さらにイラついてきたようだ。

「さっきボクら、2-Bの有志たちが職員室へ行ったけど、先生たちはみんな現実逃避してたさ。大人たちは現実を受け入れられるほど頭が柔らかくはないってことさ」

「……ちっ、役立たずどもめ」

 オレは舌打ちした。先公どもは後で全員、極刑に処してやる。

「とりあえず、オレが法律だ!」

 オレはいきなり怒鳴った。

「突然何を言ってるのさ?」

 マサオは哀れむような視線を向ける。

「るせぇ、てめー誰の味方だあっ!?」

 オレの方こそ勢いだけのセリフだったが、

「……ボクは鐶クンの味方さ」

 マサオはぼそっと言った。

 そう、コイツは鐶に惚れている。

「黙れ。このキモメンがっ!」

 悲しいことに鐶は相手にしてないが。

 ま、みんな知ってることだが、鐶はオレに惚れてる。

「キ、キモメン…ッ。ボクがキモッ!? ボクキモッ!?」

 マサオは真っ青になって取り乱す。

 自尊心が客観的な判断を受け入れられないのだろうな。

「きーッ、ぼくはキモくない、キモくない、キモくない、キモくない。肌のお手入れだってしてるし、ムダ毛の処理もしているし、(以下略)」

 回路がショートしたロボットの如くブツブツと自分の世界に逃避してしまった。

 気の毒に。

 と瞬間的に思ったが、

「さて!」

 すぐに気持ちを切り替える。

「どうする?」

「んーと地形を把握するのが吉だな!」

 オレは何の根拠もなく叫んだ。

 ゲームではまずこれが先決だしなぁ!

「ふん、今日だけその意見に乗ってやらあ」

「あら、カイ君もたまにはまともなこと言うんだね」

「うん、カイ君が言うならぁっ」

 ……お前らヘン過ぎるぞ。


 ともかく周辺環境を調査してみることにした。

 みんな怖がって尻込みしたので、オレと鐶と美紀と始の4人で出かけた。

 オレの直感が正しければ、学校の周囲が変化したのではなく、オレらは学校ごとどっかに飛ばされたのだ。

 異世界召喚モノってヤツ?

 だとすると、この先、魔王を倒すハメになるのだろうか。

 ……まさか、ないよな。

 それはさておき、オレたちには食料の備蓄がないし、生活に必要な道具もない。

 あるのは電気がないと使えない最新鋭のガラクタどもだけ。

「異世界きゃっほー!」

 オレは先陣を切って林の中へ走ってゆく。

 林の中はようするにヨーロッパのファンタジーっぽい雰囲気とでもいうのか。日本の野山という感じではない。

 サバイバル生活がオレたちを待っている。

「異世界ファンタジーは制服当たり前ぇー」

「怪しげな家伝の武術とか、度を越えて超絶な無差別殺戮破壊魔法とか、何で動いてるか分かんないロボットとか…」

「べっぴんのお姫様と知り合いに慣れますようにィ!」

 みんなオレに輪をかけてヘンですね。

「君たち、そういうオタクなことを言うなよ」

 マサオが前髪をかきあげながら言った。

 マサオは2分で立ち直っていた。

 つーか、何で着いてくんだよ、コイツ?

「お前、何しに着いてくる?」

「きついね、どうも」

「お礼を言われる筋合いはない」

「皮肉はやめるんさー」

「てめー、何で着いてくる?」

「より砕けた言い方に直してもムダさ」

「……おい」

「なにさ?」

「いやな」

「もったいぶらず、はっきり言え」

「そうか、じゃあ、お前の後ろに凶暴そうなゴリラとイノブタの親戚のような野生動物が今にもがぶりと行かんばかりに牙を剥いて爪を立てて」


 がぶり。


 あ、間に合わなかった。

 オレの親切な忠告も空しく、マサオは背後から獰猛な野生動物に襲われたのだった。


 *


「せいっ!!!」


 どごっ。


「きーきーっ」


 野生動物さんは、鐶の一撃(重たーいパンチ)を食らって逃げ去りました。


「こらー、もっと早く言え!」

 マサオは抗議したが、

「おお、生きてるそ、コイツ」

 オレは顔も見ずに言う。

「タフだな、お前、ぎゃはは」

 始は笑っている。

「肋骨を折ってやったよー。うーん、いつやっても素敵な感触よねぇ」

 鐶はニヤーッとして拳をぶらぶらさせてた。

 その指には鉄甲。

 メリケンサックの日本版とでもいうか。

 ちなみに鐶の家伝の武術は『獄門流』という。

 名は体を現すを地で行ってるというか、暗器を使った陰険な技が特徴なのだ。

 道場破りの両手両足を折って再起不能にしたとか、行方不明になったとかはまだ良い方で、殺して肝を取って食べたとか、さばいて肉屋に卸したとか、気味悪い噂が流れている。

 ……本当にやってそうだから怖いッス。

「鐶ちゃん、キモッ!」

 美紀は1メートルくらい引いた。

「キモくないもん!」

 鐶はぷいっと顔を背けるが、

「キ、キモーッ!?」

 マサオがまた反応した。

 どうやら厳禁ワードらしいな。

 いや、マジで収集がつかん。

 誰か何とかしろや。


 で、周辺環境の調査結果だが、お手上げ。

 はっきり言って広すぎてオレらの足では調査しきれませんでした。

 歩いて行ける範囲内では、まず川を見つけた。きれいな水だ。水源として使える。

 学校にある給湯室や調理実習室、理科実験室の火で沸かせば飲めるだろう。

 確か、給水用のポリタンクがあるはずだしな。

「後は食料だが…」

「誰が毒見するんだよ」

「お前、やれや」

「やだよ、自分でやれよ」

 繰り返し。

「あんたたちには学習能力ないのかね」

 鐶がバカにしたように言って、取ってきたキノコや植物をより分け始めた。

「お、お前、もしかして見分けられるのか?」

「うん」

 鐶は満面の笑みを浮べ、

「ウチの流儀は、毒物を扱うことならエキスパートだよ!」

 ……。

「……」

「……」

 みんな100メートルくらい引いていた。

 心理的にだけど。

 ……毒のある植物やキノコが分かるってことね。

 それは裏を返せば、同時に毒のないものも見分けられるってことにつながると。

「なーる、そいつは凄いさー」

 マサオだけがリアクション。

 恋は盲目。

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