第16話 不気味アルバイト3

不気味アルバイト3


待ち合わせ場所に行くと、夕凪と朝日さんはもう来ていた。

「あ、来た来た」

「遅いよー」

朝日さんと夕凪が言った。


「すいません、ちょっと場所が分かりにくくて」

オレは謝りながらも相手を責める。

「なによ、私たちが悪いっての?」

夕凪はぷうっと頬を膨らます。


『おお、可愛いのう、可愛いのう』

その姿を見た蛇女が夕凪の頭を撫でる。

「ねえ、可愛いでしょ?」

朝日さんも一緒になって撫でている。

「やめてよ、2人ともッ」

夕凪は嫌がりつつも、その実、満更ではないようだ。


「ま、このビルの間って分かりにくいの極地だろ、JK」

オレはブツクサ言った。


ビルの間って、この当たりには何カ所かあるんだよな。

右から何個目とか、指定してくれたらすぐ分かるんだろうけどな。

一から確認せなならんかったから、無駄に時間かかったんだよなぁ。


「ブツクサ言ってないで、早速、いくよ?」

朝日さんが、言った。

背中にバッグを背負っている。

退魔に使う道具を入れてるのかもな。

服装もワンピースではなく、動きやすいシャツにパンツルック。


夕凪もそれに習ってるようだが、


「そのバスケット、常備なのな…」

オレが呆れながら言うと、

「なによ、私のオリジナル能力に使うんだよ?」

夕凪は心外とばかりに言い返す。


「でも、妖怪じゃん、今回は」

オレが指摘するが、

「怪異ね」

朝日さんが訂正する。

「どっちでもいいですけど、幽霊じゃないから効かないですよね、コイツの能力」

オレは言った。

ビシッと。

ハッキリ言ってやらないとコイツのためにならない。


「う…」

夕凪は言葉に詰まる。

役に立たないのに手にバスケットとか無駄な荷物だ。


「まあまあ、そういうこと言わないの」

朝日さんは事をうやむやにした。


「まあ、いいですけど…」

オレは根負け。


それから皆でビルの間をテクテク歩く。


「アラフォーって、なんでビルの間に出るんです?」

オレは疑問を口にしてみた。

「あー、きっとアレね。森みたいだからなんじゃない?」

朝日さんが答えた。

が、なぜに疑問形?


『あー、そうだな。似てるんだろうな…』

珍しく、蛇女がうなずいた。

ずっと黙っていたのに、ここで口を挟むのか?


「似てるって何が?」

オレは蛇女に聞いてみたが、

『……』

蛇女は答えなかった。


なんだい、気分悪い。


そこへ。


『クエーッ!』

妙な声が鳴り響き、


ぬもっ


と、赤い物体が現れた。


「アラフォー!」

朝日さんが叫ぶ。


赤い帽子、赤い服、2メートルを超える背丈。

髪は妙にサラサラのロング。


『ギョエーッ!』

アラフォーは叫び返すように言って、


ドスドスドス、


と走り出す。


加速がすさまじく、すぐにビルの間から大通りへと出てしまう。


「追うよ!」

朝日さんは言うが速いか、だっと駆けだした。

かなり速い。


「ちょ、待っ…」

「バスケット、重っ…」

オレと夕凪は遅れること数瞬、朝日さんを追いかけた。


ビルの間から出て、大通りを見渡す。

「どっちに行った?」

「あっち!」

オレがキョロキョロと左右を見てると、夕凪が指さした。


赤い帽子が上下しているのが見える。

まあ、その帽子があり得ない速度で小さくなっていくのだが。


「うお!?」

「わ!?」

通行人が驚く声が聞こえてくる。


「まてー!」

朝日さんの声も聞こえてくる。


ああ、だからパンツルックなのか。

オレは理解した。

走るの前提なんだな。


「とぉっ!」

朝日さんはどこから出したのか、鎖のようなモノを投げつけていた。


『ギョッ!?』

アラフォーは鎖が首に巻き付いて、おぇっとなった。

ステンと後ろ向きに倒れる。


「ヨシ! 捕獲!」

朝日さんは、ふーっと息を吐いた。


……えっと、これ、逮捕案件だよな?


だが、周囲の人達は、注目はするものの、騒ぎ出すことはなかった。

一回見たあと、さっと視線を戻して、何事もなかったかのように歩き出すのだった。


「ん? なんで?」

オレがつぶやくと、

「はー、はー。術の効果だよ」

夕凪が息を荒げながら、説明した。

「こんな大通りで捕り物やったら、すぐ捕まるから、術で隠してるんだよ」

「しかも相手、妖怪だしな」

オレは追い討ちするように言った。

「そう、私たちはこういう術に長けてるってワケ」

夕凪は偉そうに解説している。


「夕凪ちゃんは、キチンと術が使えるようになってから言ってね」

朝日さんが鎖をコントロールしながら、言った。

かなり体格差があるはずなのだが、アラフォーがほとんど抵抗できてない。


「ふぁーい」

夕凪は力なくうなずいた。


『ふん、妖力を封じる道具だな』

蛇女がつぶやく。

「あ、そーいうヤツなのか」

オレは今頃、気付いてうなずいた。


「どうどう、大人しくしなさいよ」

朝日さんは鎖を両手でたぐり寄せて、徐々にアラフォーを押さえつける。


『お、また来たぞ…』

蛇女が言った。

「え?」

オレがその視線を追うと、


『クエーッ!』

通りの向こう側にアラフォーが現れる。

別の個体か。


「都道府県に1体だけじゃないのかよ!」

「誰もそんなことは言ってないよ」

驚いてるオレに、夕凪がツッコミを入れる。


「面倒ってこういうことか?」

オレは蛇女を見るが、

『うん、まあ、それもあるが……』

蛇女は煮え切らない。


『グエーッ』

そんな事をしてる内に、新たに現れたアラフォーがこちらへ向かって走ってくる。

同時に、もう1体、更にもう1体とアラフォーが通りに現れて、同じように走り出す。


あれよあれよという間に、5体の走る巨女集団と化した。


「げ! これ、まずいんじゃ!?」

オレは身構えたが、


ダダダダダダ。


怒濤のように足音が響き、アラフォーの集団は、オレらを通り越して通りの向こうへ走り去る。

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