第13話 払う人5

払う人5


「いや、まだだ」

蛇女が止めた。

「ここで夕凪を助けてしまったら、この先この稼業ではやってゆけなくなる」

「……それはそうだけど」

オレは言った。

「このままじゃ、ショック死しかねないだろ」


そんなことを言ってる間に、他の霊たちが襲ってくる。


「ほいっ、迎え討つにゃ!」

蜘蛛猫が霊たちを指さすと、


マッシ


なんか古くさい擬音とともに、骸骨がガッシと他の霊たちに組み付いた。

組んず解れつ相撲を取りだしたのだが、これが気持ち悪いことこの上ない。


「おーい、お前もやるにゃ!」

蜘蛛猫が家の天井辺りを見やると、


さっきの目玉が一杯ついた腕が現れて、加勢する。


キエーッ!


って言った感じで、霊たちに飛びかかる。


ウゴオォッ


ギョエエエッ


もはや怪獣大進撃だな。


「ッシャアッ!」

黒い女は意気揚々と迎え討つ。

血の気が多い性質らしい。


「よっし、わらわも」

「おいおい、待てよ」

蛇女が参加しそうな素振りを見せたので、崇は慌てて呼び止める。


「しかしのぅ、味方は数が足りとらんぞ?」

蛇女は指摘する。

「え?」

オレが見ると、黒い女を含む3体の霊が1体ずつ抑えているが、他の霊たちはフリーである。

「ギャーッ! こっちに来たぁ!?」

夕凪が叫ぶ。

腰を抜かしているので逃げられない。

「うげ!?」

思わず、オレも叫んだ。

「助けなくてもいいのかえ?」

蛇女が聞くが、もう時既に遅しってヤツである。


「夕凪!」


「く、来るなー!」

夕凪が絶叫した。

両手を幽霊に向けていた。


ボワン。


と、気の抜ける効果音がして、


霊の1体が煙に包まれた。


何が起きたんだ?


周囲にいた霊たちも驚いて、進撃が止まっている。


そして、煙が消えてきた頃に現れたのは、


ミニチュアサイズの幽霊。

掌サイズに縮んだ、まるで洋物アニメに出てくるキャラクターのようだ。


「え?」

「は?」

夕凪とオレが同時に言った。


「あら、なにこれ?」

夕凪はキーキー騒ぐミニチュア幽霊を見てニッコリした。


「どういうこと?

「眠っていた才能が目覚めた……みたいにゃ?」

黒い女と蜘蛛猫が顔を見合わせる。

「お、面白い術だな」

蛇女は興味深そうに見ている。

「もっとやれ、夕凪」


「よっし!」

夕凪は意を決して、立ち上がった。

怖さがなければ大丈夫なのだろう。

現金である。


「それぇッ!」

掌を霊たちに向けて、叫ぶ。


ボワン。

ボワン。


次々に不気味な霊たちがミニチュア化されてゆき、ちょっとキモカワイイ程度の怖さに変化していった。



「みんな、この容れ物にお入り」

全部の霊に術を掛け終わると、夕凪は特製の容れ物を取り出した。

外見はただのバスケットだが、術が施された容れ物で、霊を保管することができる。


ミニチュア化された霊たちは皆、顔を見合わせている。


「おまえら、良かったな。皆、供養してもらえるぞ」

蛇女が言ったので、


コクリ。

コクリ。


霊たちはうなずいて、素直にバスケットに入っていった。

本音では皆、供養をしてもらって成仏したかったらしい。


「わー、これでミッションクリアだよ」

夕凪は踊らんばかりに喜んでいた。


「良かったのう」

「私たちに、それ使うなよ?」

「助けて上げたんだからね」

ウチの妖怪&幽霊さんたちが言ったが、


「……」

夕凪はちょっと間を置いてから、


「えいッ」

掌を指しだして、術を使った。


が、何も起きない。


「ゆうなぎ~~~」

「今、何したのかにゃー?」

「ヤキ入れたる」

「ぎゃー、ごめんてば~!」


この後、夕凪がボコられたのは言うまでもない。



新たな能力に目覚めた夕凪は、これで試験をクリアできたそうだ。

ちなみに新たな能力「霊のミニチュア化」は自分より強い霊には効かないようだった。

妖怪さんには効かないのな。


「皆さん、ありがとうね」

夕凪は言って、ペコリとお辞儀をする。

オレの部屋に来ていた。


「わらわに術を使ったのは許してないからな!」

「夕凪タン、この埋め合わせはしてにゃ」

「私はアロマな線香のセットがいいな」

3名はむくれている。

いや、黒い女はこの機を利用してるだけのようだが。


「はい、分かりました。スイマセンでした」

夕凪が謝ると、

皆の表情が和らいだみたいだった。


よかった、よかった。


オレは何もしてないけどな。

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