第12話 払う人4

払う人4


夕凪は気絶したままだったが、黒い女が後ろから抱えて歩かせていた。

ちょっと変な感じだが、通行人は気にもせず通り過ぎてゆく。


これって、憑依って言うんじゃ?

オレは思った。

よく考えたら、オレも蛇女に憑かれているのか?

蜘蛛猫は幼女姿なんで、実体を持ってるようだが……。

そうすると幼女連れってことか、オレ。

逮捕案件じゃね?


「霊幻○士3を思い出すにゃあ」

蜘蛛猫が何か言ってる。

「知らねーよ」

「あ、世代じゃにゃい?」

「分かんねーって」

オレは頭を振った。


電車に乗り、目的地へ行く。

場所は気絶する前に夕凪から聞いていたのだった。


住宅地の外れにある建物。

ここだけ何故かポツンと一軒家って感じで、周囲には草が生い茂っていて不気味だ。

ぱっと見、草原の中の古くさい家。


「ここだな」

オレは言って、足を止める。

「さっきにょ霊からにょ報告を見ると、10体はいますにょ」

蜘蛛猫はスマホのような機械をのぞき込みながら、言う。

「お前、スマホ持ってんのか」

「1人1台にょ時代ですにゃん」

「妖怪のクセに」

「流行りもにょには敏感でして…」

「私にもくれよ」

蛇女が割って入ってくる。

「良いですけど、注文してから少し掛かりますにょ」

蜘蛛猫が答えると、

「えー」

蛇女は不満げな声を漏らす。

その間も、オレらは玄関のカギと開けて中に入った。

黒い女が一旦、夕凪から離れて玄関の扉をすり抜け、内側からカギを開けたんだが。

便利だな、幽霊。


「物に触るのは疲れるなぁ」

黒い女は言って、また夕凪の背後に取り憑いた。

「さ、入りましょにゃ」

蜘蛛猫はスマホを見ながら言った。

何やら確認している。

「おっ、さっそくお出ましだにゃん」

蜘蛛猫が言って、前方を見る。


カハァ…。


息を吐く音。


ギョロ


廊下の向こうから目を剥いて現れた。

手が6本。

骸骨が2つ胴体の上に乗っている。

胴体は服がボロボロで肋が見えていた。


うげ。

またキッツい見た目してんなぁ。


「はい、ごくろーさん」

蜘蛛猫が言って、背中から足を生やした。

かと思うと、


ドス

ドス


蜘蛛の足がソイツに突き刺さる。


ウゲェエエ。

骸骨は声を上げて身をよじった。


「こら、お前が倒しても夕凪の手柄にはならんだろ」

蛇女がたしなめる。

「だから、そのために調整してんにょ」

蜘蛛猫が説明した。

「夕凪たんが勝てるようにしてるにょー」

突き刺さった蜘蛛の足がうにょうにょとうごめいている。


恐らく改造してるんだろう。

さっきの霊と同じだ。


「ウィルス組んだから、流すだけでいいんだにょ」

蜘蛛猫は得意げに言った。

「ウィルスって?」

「霊虫にょ、元々は霊のにゃい部に潜り込んで食い荒らす害虫にょ」

「うげっ」

オレは呻いた。

「霊虫を調教して霊をにゃい部から操れるようにしたにょ」

「とんでもないな」

オレは呆れている。

でも、怖さ半減してるから、まあいいか。


「夕凪、起きないんだけど」

蛇女はチラッと夕凪を見やる。

黒い女に抱えられたまま、夕凪は気持ちよく気絶している。

「そろそろ、起こそうか」

黒い女は空気を読んだのか、気絶した夕凪に平手打ちをくれた。


パシィッ


と鋭い音がする。


「ん……」

うめき声を上げて、意識を取り戻す夕凪。

「お、起きたか」

オレは夕凪に話しかけるが、

「ぎ、ぎょえ……ッ」

夕凪は目の前にいる骸骨の霊を見て、また泡を吹き始める。

「こら、寝るな!」

「折角起こしたのに!」

蛇女と黒い女が口々に言う。


その声を聞きつけたのか、家の奥から他の霊が現れ出した。


ううう…

ギャアァァァ


色んな声を上げて、数体の霊が姿を現した。


「ギョエーッ、た、助けて!」

夕凪は驚いて腰を抜かしている。

「こりゃ、ダメっぽいな」

オレは諦めた。

ドクターストップってヤツだろ。

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