第10話 払う人2

払う人2


「あら、いらっしゃい」

黒い女は夕凪を見るなり、ニコニコ笑いかけた。

オレは慣れたし、黒い女自身が廃墟の時とは見違えるほど表情が変わって明るくなったので、気にもならない。

やはり寂しかったのだろうな。

が、夕凪は黒い女を見るたびに『ふーっ』と息を吐いて倒れそうになる。

魂まで吐いてしまいそうだ。

「あ、この娘、幽霊怖いんだっけ?」

あははー。

黒い女は幽霊のくせに明るく笑う。

「くろタンはちょっと下がってにゃよ」

ロリッ娘の姿をした蜘蛛猫がさっと場を仕切る。

「はいはい」

黒い女は引き下がった。

てか、いつから『くろタン』とか呼んでんだよ?

「幽霊の事は幽霊が知ってると思ってさ…」

オレはかいつまんで経緯を話した。

「ふーん、悪いけどあたし他の霊の事はよく知らないんだ」

黒い女はわりと冷淡に頭を振る。

「あたしだけじゃなくて、他の霊も似たようなもんじゃないかな?」

「あー、幽霊って大概何か思いにょこした事に囚われていて、他にょ事は見えにゃいもんだよね」

蜘蛛猫が言った。

にゃん言葉うぜぇ。

「ネコがにゃん言葉使わずしてにゃんとしますか!」

蜘蛛猫は何か力説した。

「崇さんは萌えというものが分かってにゃいのです」

「いや、別に分かりたくねーし」

蛇女はオレの肩に乗ったまま寝ている。

好き勝手な奴らだ。

色々脱線した後、ネットで検索したらどうか?という所に落ち着いた。

だいたいその手のスポットは噂が流れてるもんだ。

ノートパソコンを開いてグレゴリ先生で検索してみる。

ちなみにグレゴリは著名検索エンジン。

ターゲットの名前と心霊スポットで、検索したらすぐに出てきた。

かなり名の知られたお化け屋敷のようだった。

面白半分で侵入した連中が不幸に見舞われるという話がわんさか載っていた。

「よいしょ」

蛇女が唐突に何かをつかんだ。

さっきまで寝てたのにどうしたんだろう?

思ってそちらを見たら、中空に人の手のような物があった。

肘の辺りからいきなり現れていて、手のひら、手の甲、手首、腕と至るところに目が付いていた。

蛇女は手首の辺りをがっしとつかんでいて放さない。

グリグリと目玉が動き回っていて、すげぇキモかった。

「…」

静かだと思ったら、夕凪は座ったままの姿勢で泡を吹いて気絶していた。

器用なやつだ。


「調べた途端に様子を探りにきたな」

蛇女は言って、手首をネジあげる。

「…!」

手がバタバタと暴れたが、パワーが違うのだろう、まったく逃れられない。

「様子を…って、まだ行ってもいないのに」

オレが驚いてると、

「年季の入った霊はそういう事もするんだにょ」

蜘蛛猫が間延びした声で言う。

さっぱり緊張感がない。

が、この場合は逆に助かる。

「今回は私の出番もありそうですにゃん」

蜘蛛猫の動きがピタリと止まる。

どうしてもにゃん言葉を入れていきたいようだ。

ばりっ。

と嫌な音を立てて蜘蛛のような細い、それでいて獣のような毛むくじゃらな脚が背中から飛び出してくる。

「さあ、痛くしにゃいから音無しくしてにゃさいよ?」

脚をぞわぞわさせて、蛇女のつかむ腕に爪を食い込ませる。八本全部だ。

ズブズブ。

爪が皮膚の中に入り込み、腕がびくんびくんと痙攣した。

「PC取って下さい」

「ほい」

オレは素直にノートパソコンを渡した。

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