払う人

第9話 払う人1

払う人1


「ちょっと崇君」

学校に来るなり、夕凪に呼ばれた。

「あなたに協力して欲しいの!」

夕凪はテンションが高かった。

「え?」

オレは分けが分からず聞き返す。

「お払いで厄介なのが出てきたのよ」

夕凪は捲し立てた。

「お払いって…オレ?」

「んな訳ないよ、崇君に憑いてる人に決まってんじゃん」

なんだ。

がっくりしたが、それもそうだ。

「わらわは良いぞぇ」

蛇女はあっさりと承諾。

「どうせヒマだしのぅ」

「きまりね」

「オレの意思は?」

言ってみたが無視された。

世の中どうにもならない事は多い。


夕凪の話を聞いてみたら、こいつの家はお払いとかする家系で家族全員そっち系なのだとか。

霊能者の家系ってやつ。

夕凪は見習いだが、そろそろ力が付いてきたのが認められ、一人立ちするための試験を受ける事になったのだそうだ。

卒業試験だな。

試験の課題はある家に取り付いたものを払う事なんだそうだが…。

あれ、こういう語り口調って妖怪じゃなくね?


「う…そ、そうなのよ」

夕凪は一瞬言い淀んで、視線をあちこちにさ迷わせてから、言った。

まるきっり自信がない顔だ。

試験の課題は妖怪じゃなくて幽霊らしい。

いや、妖怪ハンターが幽霊ごとき払えなくてどうすんだよ?

てか世の中幽霊の方が多いぞ、絶対的に。

オレは思ったが、口にはしなかった。

幽霊恐怖症を克服出来なかったら、この家業で食っていくなんてムリだろ。という事で、わざと試験課題にしたんだろうな。


可哀想だが、これはどうしようもない。

「そもそも論だが、人の力借りたら試験にならねんじゃね?」

「妖魔との戦いってのはルール無用のデスマッチだよ。師匠の手を借りる以外は何でもアリだよ」

夕凪は反論するが、自分に自信がないのが根底にありそうだな。

「ルール的に問題ないならいいけどよ」

オレはちょっと意地悪を言ってみたくなった。

「こないだの黒い女に聞いてみようか。同じ幽霊だし、何か知ってるかもな」

「……」

夕凪の顔が真っ青になった。


で、夕凪を連れて部屋に戻ったのだが、何度も途中で逃げようとする夕凪を捕まえるのに一苦労。

「おまい、自分の事だろ。逃げんな」

「だって怖いもん!」

ブルブルと脂汗を滲ませながら夕凪。

「こういうのは理屈じゃないよ!」

だからと言って逃がせばオレは無駄骨折らされた事になる。

最初は、ちょっと意地悪をしてやろうという気持ちもあったが、後になると意地になっていた。

しかし、いい加減疲れを感じてきた頃にやっと部屋についた。


「う…」

異様な雰囲気に気圧されてか、夕凪は入る前から唸った。

その手の用語ではコールドスポットというらしいが、三ひ…人も人外がいるオレの部屋はまさにそれだろうな。

「今、匹と数えようとしてたな?」

蛇女が言った。

いや、心を読むなし。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る