未来からの贈り物

ガエイ

第一章

◇ 未来/1 ◇


 歩道の無い道を歩いていた。


 何故、車道側に彼女を歩かせてしまったのだろうか。


 気が抜けてしまっていたのかもしれない。


 次の瞬間、隣を歩く彼女の姿は無かった。


 黒い自動車が猛スピードで走り去る姿が見える。


 車道には、腰が曲がっては行けない方向に折れた彼女が倒れていた。


 頭からだろうか、ゆっくりとアスファルトの地面を伝って血液が流れてくる……。


 後悔は物事が起こってしまった後にしか出来ない。


 ゆっくりと時計を見つめ、今の時間と日付を確認した。


■■ 1 ■■


 寒く雪が降りそうな空。澄んだ空気を吸い、吐き出すと温かく白い息が広がった。


 十代後半くらいであろうか、その少女は広い公園のベンチに座り、暗い闇夜を照らす明るい月を眺めていた。


 まるで部屋着のような薄いシャツとズボンは所々汚れており、美しかったであろう漆黒の長髪もいたんでいた。


「……これで凍死できるかなぁ……」


 少女はつぶやく。


 吐く息は白く、暖かさがあった。


「こんばんは。なにしてるの?」


 気がつくと、すぐ近くに二十代の青年が立っていた。


 さわやかな短髪で、今まで走っていたのか息が荒く、白い息が乱れていた。


「こんばんは、初めまして。私、凍死をしようとしているんです」


 少女はまるで当然かというように、素直に答えた。


「それはまた難儀なんぎな話だね。隣いいかな?」


「どうぞ」


 青年は少女の隣にドスンと腰掛けた。


「何でまた凍死なんてしようと思ったの?」


「私、未来がわかるんです」


「未来が?」


「そう、どうやってかは知らないんだけど。今知ってるのは凍死する未来、だからそれに従おうと思ってるの」


 少女は空を見上げながら語る。


 青年は少し苦い顔をした。


「その未来はどうやったら叶うんだい?」


「わからない……」


 少女はスッとベンチから立ち上がり、虚ろな目で立ち尽くしている。


「今日は凍死はしない日だったのかい?」


「そうみたい、また凍死する日がきたら死ぬわ……」


 少女はフラフラと歩きだす。


「どこか行く宛はあるの?」


「ないわ……。私はどこから来て、どこに行くのかしら……」


 そう言いながら、少女は遅い足取りで一歩ずつ歩いていく。


 青年はベンチから立ち上がり、少女の真正面で行く手を塞いだ。


「じゃあさ、俺の家に来ないか? 部屋も空いてるんだ」


「あなたの家に?」


「凍死しようとしている人を、それも帰る宛も無いような人を見捨てるわけにもいかないだろ。何か悪いことなんてするつもりもないし、単なる好意だよ」


「そう……、あなたは良い人なのね……。不思議と安心感があるし、お邪魔することにするわ……」


 少女はフラフラと歩いて青年の横に立つ。


「私、名前は……多分ミライだったと思うわ」


「ミライ……さんね……。俺はイマイ、忘れないでくれよ」


「えぇ、覚えたわ、イマイさんね……」


 イマイは自らが羽織はおっていたジャケットをミライに着せ、二人でイマイの自宅へ向かった。


◆ 過去/1 ◆


 歩道の無い道を歩いていた。


 必ず自らが車道側を歩き、彼女は道路側には立たせなかった。


 危ない運転をする車は沢山いる。それが意図的なのかどうかはわからない。


 だが、彼女が道を歩けるのであれば、それはどうでも良かった。

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