第2話 初めましてあなたが
「はぁ、、。」
俺の1日は、ため息をつくことから始まった。
女の子から好きだと伝えられる幸福の空間から、静かで物の少ない簡素な空間へ引き戻されたことが大きな原因だろう。
夢は、自分の願望が現れることもあるそうだから、自分がどれだけ愛に飢えていたのかと恥ずかしくなった。
そんな俺の名前は榊宗則さかきむねのり。
今まで女子と話をした記憶はあまりなく、彼女がいたことなんてあるはずもない。
そろそろ大学へ行くか。と簡単に朝食を済ませ、リュックを背負い、大学へ向かった。
しかし、歩いているとどうしても夢のことを思い出してしまう。まぁ、今にして思えば初めましてで好きになられるほど優れた容姿はしていないし、そんな俺が何断ろうとしてんだよと、あ、なんか悲しくなってきた。
およよ、、、。と1人芝居をしていると、ふと携帯が震えた。
『おはよー宗則。いきなりで悪いんだけど、なんか俺、めちゃ体調悪いんだよね!しかも食べ物もないし動く気力もわかないんだよね!つまり、何が言いたいかって言うと』
『体にいい物持って看病に来てください!!お願いします!!』
と二件のメッセージが来ていた。ちなみにこいつは俺の数少ない友人の1人である、
しゃーねえ、行ってやるとするか。講義も午前で終わるし今度なんか奢ってもらうとしよう。そう思いながら、
『了解』
と返すのだった。
〇〇〇〇〇〇
午前の講義を終え、近くのスーパーで簡単に買い物を行う。
そういえば体調を崩したと言っていたけど、風邪でも引いたのか?念のためお粥の具材でも買っていくとするか。ちなみに俺は、塩卵粥が大好きだ。
次々と具材をカゴに入れていると、プリンタルトが目に入った。たしかあいつ好きだったよな。ついでにこれも買っておくか。
会計を済ませると、少し急ぎ気味に冬真の家へ。ちなみに今回購入した物は、レトルトの白飯、卵、食塩、プリンタルト、長ネギだ。あいつの好きなものとかよく知らんが、これなら間違い無いだろう。
やがて冬真の家に着き、ドアをノックすると冬真はすぐに出てきた。
「宗則ぃー。マジでありがとなー!もう体がだるくて仕方なくてさー。」
「礼はいいよ。ほれ、卵粥作ってやるから寝てな。」
ありがとなー。と言いながら寝室へ歩いていった冬真は全然風邪という感じでもなく、シンプルにだるいだけのようだった。
こいつは話し方からもわかるがマイペースなやつで、のんびりとしている。まぁ、そういうところが絡む中で楽ということもあるが。
とはいえ、買ってきたからには卵粥を作るしかない。めちゃくちゃ美味く作るぞと、俺は作業を開始した。
〇〇〇〇〇〇
「いやー、普通に美味かった。お前意外と料理上手いんだな。これから毎日ウチに来ないか?」
「何言ってんだよ。そんなの死んでもごめんだね。」
俺がそう言うと
なんだよー。つまんねぇなぁ。と文句を垂れていたが、これが俺の本心だ。
「あ、そういや礼と言ってはなんだけど、これやるよ。」
と冬真は、「ケーキ一切れ無料!⚠︎対象商品は店頭看板をご覧ください。」と書かれたチケットを差し出してきた。
「俺、甘いのあんま好きじゃないからさー。従兄弟がくれたんだけどどうせならお前にあげようと思って。」
あら?この子甘いの苦手だったっけ。プリンタルト好きだったと思ったんだけどな。
「お、おお。サンキュ。有り難く貰っとくわ。」
ちなみに俺は甘いの大好きなので非常に嬉しい。ニヤニヤが止まらないわぁこれ。
しばらく他愛もない話をした後、いい時間にもなったので俺は帰ることにした。
「じゃ、そろそろ帰るわ。明日は来いよな。明日これの感想でも聞かせてやるよ。あとなんか奢れ。」
俺はチケットをひらひらさせながらそう言った。
「おー。ま、行けたらいくよ。奢りはこのチケットで勘弁な。」
苦笑まじりにそういう冬真はなんだかスッキリしていたような気がした。なんやかんや寂しかったのかな。また遊びに来よう。
〇〇〇〇〇〇
ケーキ屋までの道のりは、通ったこともない道だったから心なしかわくわくした。建物も多くなく、静かで、好きな雰囲気だ。そこの曲がり角でモンスターにでも遭遇しないかな。
自分の中にこのような冒険心が残っていることを感慨深く思っていると、いつのまにかケーキ屋の前まで来ていた。
そのケーキ屋は初めて訪れたはずなのに、どこか懐かしさを感じさせた。店頭に置かれた看板には、
《OPEN!!
1000〜1800
おすすめ!!⤵︎
豆乳チーズケーキ
ショートケーキ
ガトーショコラ
全て390円!⚠︎チケット対象商品》
と、美味しそうな写真と共に可愛らしい文字で書かれてあった。うわー、どれも美味しそう。普通に全部買いたいまである。
しばらく悩み続け、ガトーショコラに決めたところで店内へ入った。
スライド式の自動ドアを抜けた先には、色とりどりのケーキやスイーツがガラスの中へ収まっており、店内左方向には買ってすぐに食べることができるよう、イートインスペースまで完備されていた。近くにこんなにもキレイで良い雰囲気のケーキ屋があるとは、俺の常連になりたい店ランキングトップ10入りだな。
そんなことを考えつつ、人見知りな俺はチケットを取り出しガトーショコラを頂こうとメニューを見るふりをしながら店員さんに話しかけた。
なんかこういう時、店員さんと目合わせられないよね!
「すみません。友人からこのチケットを貰ったんですけど、使えますか?」
すると、その店員さんはボソッと何かを呟いた気がしたが、すぐに
「いらっしゃいませ。もちろん使えますよ。どのケーキに致しましょうか?オススメはこちらのガトーショコラです。」
と対応してくれた。
「良かったです。ちょうどガトーショコラにしようと思ってたので。」
それでお願いしますとそこで俺は初めて店員さんの顔をみた。
そこには、ありがとうございます。と満面の笑みを浮かべる天使がいた。明るいブラウンの髪は肩口でキレイに切り揃えられ、ニコッと細められた目は見るものを引き込む魅力があった。可愛い。俺はこの時一目惚れというものは実在するという事を知った。
浮かれた気持ちでボーっとしているとテキパキと作業を終えた店員さんが
「賞味期限は一応、1週間までは持ちますが、できるだけ早く食べてくださいね。それと、これは店を出たらすぐに見てください。」
とガトーショコラが入った袋と一枚の紙を渡してきた。はて、次回から使えるクーポンかなんかだろうかと、言われた通り、店を出てすぐに紙を見てみた。そこには、
「もしお時間よろしければ18時、ケーキ屋の裏に来てください。」
と書かれていた。現在時は、17時34分。
とくに予定はないが、、。
なに?カツアゲ?ジロジロ見たから怒ったの?
こんなふうに怯えながらも、店員さんを待つことにした。ここからの26分は非常に長く感じた。
時計の針が18時になると同時、関係者入口らしき扉が勢よく開かれ、先の天使が出てきた。
「初めまして!す、すみません!お待たせして!」
「い、いえ。あの、なにかありましたか、、、?」
恐る恐る尋ねると、その天使が放った言葉に俺はひどく驚かされる。
「いきなりこんなこと言われても、戸惑うかと思われますが、
一目惚れしました。あなたが好きです。」
「ほえ?」
俺のことが、、好き?一目惚れ?はは、そんなのあるわけないじゃん。きっと聞き間違いだよね!
「あ、あの、今なんて、?」
「ですから、あなたが好きです!」
聞き間違いじゃなかった。
俺は理解ができなかった。
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