性知識ゼロの魅了の魔眼持ち
エイゲツ
第一章 一年生最強
プロローグ
魔法学園アドミスの校長室の主、『魔女』と呼ばれる最高位魔道士の麗人、リーベナ=シュナイゼンは、自身の目で入学生の名簿を眺めていた。
魔法学園は魔法を学ぶ高等学校であり、複数の魔法科に分けられる。魔法の知識を持たずとも魔法に高い素養を持つ平民が多い普通科、魔法の知識を備え通常の魔法を使う者達の魔法科、そして最高位貴族及び王族、特殊な家系が保有する秘匿魔法や特異体質者が集い、それぞれにあった教育をする特殊科の三つが存在する。
リーベナは特に特殊科の生徒達を楽しみにしていた。どの家の子が来るのか、それを確かめ、最高の教育を施し高位魔道士にする。教育者として磨きがいのある原石達を眺める彼女の瞳は実に楽しげだった。
「あら? この子は見覚えが……ああ、アイゼン家の例の子ね」
目に留まった人物の名前に首を傾げたが、家名を見ると納得した。
バルドル=アイゼン。
魔眼の特異体質者を排出する
しかし、バルドルは違った。
特異体質は身体機能に魔法的な現象を持つことを指し、成長と共に効果も上昇する。また、剣を習う時に体ができていない状態で鍛えるのが逆効果であるように、アイゼン家の場合は6歳になった時、魔眼を開眼することが許される。
そして、バルドルが開眼した魔眼は──〈魅了の魔眼〉だった。
だが、一番の不幸だったのは……初めて魔眼を開眼した時、たまたま魅了した相手が母だったことくらいか。
そのことにアイゼン家の当主が激高し、バルドルを殴ったことから関係が悪化し、息子バルドルは目に魔眼の封印具をつけられ、以降部屋に閉じ込められ、廃嫡され社交界などの華々しい舞台に立つことはなかった……。
それ故に付けられたあだ名が「出来損ない」である。
「それにしても、どうやって試験を受けに来たのかしら? まず目が見えない状態で来たのは……見えなくても移動できる技術を身に着けたから、それ以外は? これは、試験を担当した先生方に聞かないといけないわね」
面白いことになってきたと、リーベナは物語の邪悪な魔女のように微笑み、名簿を机に置くと校長室を後にした。
その頃、話題の本人、バルドル=アイゼンは王都に向かって魔導列車に揺られていた。
一般人客と同じ席に座る彼の目には、拘束具のような目隠しがされていた。その異様な姿に二度見する者は後をたたない。
当のバルドルは慣れたもので、無視しながら王都につくまで静かに本を読んでいた。
「お兄ちゃん、本見えるの?」
「うん、視えるよ」
トテトテと疑問顔で近寄ってきた幼女の疑問ににこやかな顔で答える。
「ただ、目じゃなくて魔力を視ることで読み取ってる、て感じだけど……ふふ、難しいよね」
詳しい説明をするとなおさらに頭を悩ませ、眉間にシワを寄せる幼女の頭に手を置いた。
「可愛い顔が台無しだよ。まあ、僕が凄いから目が見えなくても視えるってことだよ」
「そうなんだ! 凄いね!」
幼女は納得すると「ありがとう! お兄ちゃん!」と手を振ってから、親の元に戻った。それを見届けたバルドルは、親二人に頭を下げられ、会釈した。
「お兄ちゃん、か……」
バルドルは本を閉じ脇に置くと、ポケットから手紙を取り出した。差出人の名前はシスカ=アイゼン。
バルドルの双子の妹に当たり、彼が魔法学園アドミスに通うことになった原因の少女だ。
小さな頃は仲がよく、「お兄ちゃん」と慕っていてくれた。
でも、魔眼を開眼した日から……一度しか合うことができなかった。
この手紙にはバルドルを家から追い出すためと書かれている。
(もしそうだとしても、就職のチャンスはある。ありがとう、シスカ)
自立する機会になると、少しだけ悲しさを混ぜた笑みを浮かべて、魔導列車は王都に到着した。
降車すると魔法学園アドミスに向かっていく。
そうして、バルドルが目にしたのは、彼に様々な変化をもたらすことになる、運命の場所だった。
「ここから、始まるんだな。……行こう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます