俺の恋人(仮)×2が俺の恋人(真)の座を狙っている。
渡路
001 朝宮望愛はお姫様系美少女である。
もちろん、我が校はファンタジー世界にあるものではなく、れっきとした現実に存在する公立高校であるのだが、しかしながら、彼女という人間を一言で言い表すのであれば、やはりお姫様としか言いようがないというのが現実であった。
ただの人気者では足りず。
クラスのトップカーストと言えば味わいが変わってしまう。
男女問わず憧れてしまうような、あるいは嫉妬させてしまうような。
高嶺の花がそのまま人に生まれ変わったのではないかと、まことしやかに囁かれる女子生徒。
同じ人間の腹から生まれたのではなく、フィクションからそのまま飛び出してきたと言われた方がまだ幾分か納得が出来る。
そう語られてしまうほどに、朝宮望愛という少女は整っている。
容姿だけの話ではない。確かに彼女は恐ろしく美しい黄金の髪を持ち、青空をその瞳に宿し、白魚のような肌を持ち得てはいるが、それだけではない。
朝宮の性格や所作はまるで、そうあれかしと望まれたままのように、理想を体現するかのように、万人受けするようチューニングされている。
凡その場合において間違えることはなく、常に正しく、弱者の味方であるように振舞う。
みんな平等に、なんていう理想論を、少なくともクラス内に適用させてしまえるような人格者。
運動はあまり得意ではない。病弱という訳ではないので、見学に回るようなことはないが、少なくとも活発に身体を動かすことを好む人間ではない。
どちらかと言えば大人しく、物静かな方だ。食事の量も少なめであり、それで栄養が足りているのかと外野からしてみれば少々不安になる。
しかし、だからといって貧弱なのかと言われれば、それもまた違う。
線は細く、たおやかで、けれども儚げではない。
彼女がお姫様と呼ばれる所以の一つと言っても良いだろう。
反面、勉学は他の追随を許さない。
入学時から今日に至るまで、学年トップを他に譲ったことはなく、もっと言ってしまえば学校全体として見ても、彼女はトップの優秀さを誇るのではないだろうか。
開校以来の才女だなんて言う教師もいるほどであり、とてもではないが、いつも赤点をスレスレで乗り越えている俺とは比べ物にならないだろう。
友人は多い……と言って良いだろう。少なくとも朝宮の認識としては、友人は多いのだと思う。
俺のような外野からすれば、アレは友人というより下僕だったり、従僕に近いような気はするが……。
どちらにせよ、常に朝宮は人々が集まる中心にいる。
しかし、一つのグループに所属しているのかと言われれば微妙なところであり、日替わりで関わっている人が変わっているように俺の目には見える。
来るものを拒まず、去る者は追わない。
どうにもそういったスタイルらしい朝宮には、クラスカーストなどという枠組みさえ超えて多くの人が寄り集まっている。
だからいっそのこと、我らが二年F組、それ自体が朝宮グループであると、そう言ってしまうのが適切なのかもしれなかった。
無論、俺のように関係が良好でも無ければ不良でもないやつも、俺を含めてチラホラいるが。
そこはまあ、全体として見れば誤差の範囲内だ。
それに、朝宮と友人ではないからといって、何か不都合なことがあるということもない。
マイノリティはマジョリティに圧殺されるのが世の常とはいえ、我がクラスのトップは朝宮望愛というお姫様である。
迫害はなく、排斥されることもない。
個々人の意志が尊重されている──なんて、そこまで朝宮が考えている訳ではないと思うが。
少なくとも現実はそうなっていた。
誰にだって、何にだって存在する適切な距離感というものが大切にされており、お陰でこのクラスは息がしやすかった。
仲良くしたい者は仲良くし、仲良くしたくない者は仲良くしない。
本来であれば自由にされている部分で、集団に入ると強制されてしまう、複雑な仕組みから解放されている。
それはきっと、朝宮自身の思想が反映されている、唯一の部分なのだろう。
その点は好ましいと思うし、だからこそ俺は朝宮と関わることがない。この先も、恐らくは無いだろう。
事務的なやり取りはもしかしたらするかもしれないが、まあ、そのくらいだと思う。
万人受けする人間って言ったって、どうしても合わない人間というのはいるものだ。
そして残念ながら、俺はそれに該当する人間だった。
しかし言ってしまえば、クラスメイト一人と友人になれない。ただそれだけのことである。
元よりクラスメイト全員の名前だって覚えられない俺なのだ、そういうことだって当然あるだろう。
特に悲観することもなければ、残念だと思うことでもない。
その内卒業して、それから数年も経てば忘れてしまう程度のことだ。顔も名前もすぐに抜け落ちてしまうだろう。
それで良い……むしろ、それが良い。朝宮とて考えは同じであるはずだ。
こんな話に正解があるとも思えないが、それでも間違ってはいない。少なくとも俺はそう思う。
──否、そう思っていた。
とある日の、放課後のことである。
具体的に言えば、俺が幼馴染と別れることとなった一日前のこと。
今どき奥ゆかしい、ラブレターだか果たし状だか分からない(指定の場所に来いという旨しか記載されていなかった)手紙に誘われるままに、我が校のセールスポイントの一つ。
自由開放された屋上にやってきた俺を出迎えたのは、その朝宮望愛であった。
夕陽をバックにすることで、これ以上ないくらい美少女ポイントを加算させまくっていた朝宮は少しだけ頬を染めながら、俺の元へと歩み寄ってくる。
そうして言ったのだ。その小さな口で、されどもはっきりと。
「
なんてことを。
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