第7話 生物


 ハルカさんに連れられ町を歩く。

 人の気配は愚か、蟻の一匹すらいない。

 家や道路などはどれも不自然なほどきれいで、埃一つない徹底したこの空間はやはり気持ちが悪い。


「ハルカさんは、こんな所に連れて来られて平気なの? 凄く落ち着いているように見えるけど......」


「平気──ではなかったと思う。寂しくて、怖くて何度も発狂した。発狂する度にきらきら星が聴こえて落ち着いて、それを繰り返す内に大丈夫になったよ」


「......凄いね。僕は結構不安で心が折れそうだよ」


「きっとカナタ君も慣れるよ。私も慣れたから。そして、落ち着けば、落ち着くほど願いに従順になってくる」


「......」


「大丈夫。もう襲ったりしないから。今は一緒に居てくれれば──それでいい。ほら見えてきたよ」


 ハルカさんが指差す先を見る。

 住宅街の隙間から、波打つ広大な水面が見えた。


「本当に海みたいだ......それに、黒い穴?

 みたいなものも確かにあるね 」


 広大な水面のその先。

 黒い穴の様なものが確認出来た。

 こんなに遠くからもはっきりと確認出来るその穴は、かなり巨大だと予測できる。


「あれ? 何かいる」


 穴を観察していると、ハルカさんが水面を指差した。


「あれは......オタマジャクシ? でもこんなに大きいはずは......」


 水面に見えたのは巨大なオタマジャクシ? の様な生物。

 サイズは遠目でも一メートルほどあり、そんなオタマジャクシは自信の記憶にない。

 それに、一匹や二匹だけでなく、大量に泳いでいる所が確認出来た。


「今まで何もいなかったのに、なんで......」


「そうなの?」


「町を探索してたけど生物なんて一切見なかった。この海だってそう。何も居なかった」


「確かに僕もここに来てから初めて見た。それと、この近くに川や水路か何かはあったりした?」


「多分ないと思う。水があるのはこの海しか見たことない」


「おかしいな」


「どうしたの?」


「基本的にカエルは海にいないからさ。もしかしたら近くに川があって、ここが汽水域だったりするのかなって思ったんだけど......」


「確かに海でカエルは見たことないかも」


「ウシガエルのオタマジャクシ何かは汽水域でも生きられるらしい。でもウシガエルにしたって大き過ぎる」


 もしかしたら、ここは海じゃない可能性があるな。

 この閉鎖的な空間からして、海だと考える方がおかしいかもしれない。

 水を少し舐めてみるか?

 いや、迂闊に口に入れるのは危険か......


 そもそも、本当にオタマジャクシが現れたのは偶然か?

 河も付近にない。

 カエルの鳴き声や気配もない。

 それなのに大量にウジャウジャとオタマジャクシモドキは泳いでいる。


 仮に、あれがオタマジャクシではないとしても、不自然な点は拭えない。

 何か外部から意図があって放流された?

 何の為に? いつ?


 この空間ではやはり、何かの実験が行われているのか?

 そう考えれば、他にも変化している所があるか知る必要がある。



「不思議だね。昨日まで何も居なかったのに、今日急に現れるなんて。もしかしたら、少しずつこの場所も変化しているのかもしれないね」


「その可能性はあるね。とりあえず見たいものは見れたし、一度家に帰るのが──ってどうしたの?」


 ハルカさんがいきなり吹き出した。


「──五点ね」


「な、何が?」


「気にしないで、大した事じゃないから」


「......分かった。他に何か気になった点はある?」


「特にないかな。帰り道変わった所がないか注意しながら見てみるね」

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