第5話 夢
「✕✕✕ちゃん、おかえり。学校どうだった?」
「うん。特に。普通だったよ」
鞄をおろし、洗面台に向かう。
手を洗ってリビングへ移動すると、✕✕✕✕✕はキッチンで料理をしていた。
こねた肉だねの空気をぺったんぺったんと両の手で抜いている。
今日は僕の好物のハンバーグだろうか。
「ちょっと話いい ?」
「どうしたの✕✕✕ちゃん?」
「進路のこ──」
「あー! 今日は✕✕✕ちゃんの好きなハンバーグにしたんだよ! 何ソースが良いか聞いてなかった!」
「......ソースは何でも良いよ。✕✕✕✕✕は料理上手だから」
「嬉しい事言ってくれるじゃない! 今日はデミグラスソースにするね」
「うん、ありがとう」
「本当に✕✕✕ちゃんは✕✕✕の事が大好きだよね。顔もあの人に似てきたし」
「そう......なんだ」
「覚えてないの? まぁ✕✕✕ちゃんは小さかったからね」
「うっすらとしか。写真は見たことあるけど」
「そっか、もうそんなに前の出来事になっちゃったんだね」
「......うん」
「✕✕✕ちゃん」
「何?」
「✕✕✕ちゃんは✕✕✕の事好き?」
「感謝してる。多分好きだと思う」
「じゃあさ、✕✕✕ちゃん」
「何?」
「✕✕✕を......✕✕✕✕✕を一人にしないでね」
目を開ける。
知らない天井だ。
正確に言えば知らないわけじゃない。
一度この体験をしたことがあるからだ。
時計を見れば針は四の数字を指している。
最初に見た時は三時だったので、それほど時間は経ってないのだろうか?
ここが非現実的で実験的な場所であることを考えれば、時計の数字に意味なんてないかもしれない。
こればかりは考えても分からないし、仕方がない。
一つだけ分かる事があるとすれば、どうやらこのモノクロの世界に監禁された事は夢ではなかったということだ。
身体を起こすと、気だるい頭に寝る前の記憶が溢れだした。
「ハルカさん......」
部屋を見渡しても彼女の姿は見えない。
昨日の事が夢でないならば彼女もいるはず。
ハルカさんの様子からするに、僕よりもここの情報を知っていそうだ。
ここから脱出するために彼女の話は聞いておきたい。
まだ遠くに行っていない事を祈りつつ、部屋の戸を開ける。
すると、ちょうど扉を開いたタイミングで、隣の──確かここと同じ様な一人部屋だったかな? の扉が開いた。
「おはよう、カナタ君」
「あっ......お、おはよう」
「カナタ君は良く眠れた?」
「うん。あの、ハルカさんが良ければ......」
「良いよ。私に聞きたい事があるんでしょ?
そっちの部屋に向かうね 」
ベッドの上に腰かけるハルカさん。
僕は彼女の正面の勉強机の椅子に座った。
「僕はここに来たばかりで......ハルカさんの知ってる事があったら教えて欲しい」
「うん。だけど私も詳しい事は分からないかも知れない。それでも良い?」
どんなに些細な事でも良い。
今は小さな情報でも知っておきたいのが本音だ。
「......うん」
「先ず、私がいつここに来たかだけど──これは分からない」
「分からない?」
「うん。ここの時計が多分だけど正常に動いてない。それと外の景色も変わらないから時間の感覚が分からないの」
「体感とかでも良いから、どのくらいか分からない?」
「う~ん。分かる事があるとすれば、眠たくなる子守唄は三回くらい聞いたかな」
「って事は三回睡眠を取ったって事?」
「そうだね」
一回の睡眠でどのくらい寝ていたかは分からないが、僕よりも長い時間ここにいたようだ。
「食事はどうしたの? お腹が空いたりとかは?」
この家を探索した時に食料などは一切なかったはずだ。
「そういえば、ここに来てから何も食べてない......全くお腹も空かないし、もしかして、そんなに時間が経ってないのかな?」
「なんとも言えないね......」
睡眠時間が少なく、時間が経っていない線も捨てきれないが、全くお腹が空かないのは不自然だ。
考えて見れば、僕も食欲はなく、排泄すら行きたいと思わない。
ここに連れて来られる時に、何かされたのか?
それとも何かしらの外的要因でそういったものを調節されてる?
不覚的要素が多すぎて検討がつかない。
可能性の候補として考えられるのは......
「眠たくなる子守唄以外に聞いた歌はある?」
「何回か聞いたのはきらきら星かな? きらきら星を聞くと気持ちが落ち着いて、思考がクリアになる感じがするね。もしかして、お腹が空かないのと関係があるのかも」
可能性はある。
しかし、唄──音だけで食欲を抑えられるのか?
現に、きらきら星を聴いて気持ちが落ち着いたのは事実である。
確信は持てないがもう少し、情報を集める必要がありそうだ。
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