第2話 子守唄
「僕は誰だ? 僕は何だ?」
ふと沸いた疑問。
当たり前過ぎて疑問とすら思わない様な事。
「自分が何であるかなんて」分かっていて当然なはずなのに......
「思い出せない」
名前は?
年齢は?
性別は?
家族は?
好きな物は?
嫌いな物は?
思い出せない、思い出せない、思い出せない。
心臓の鼓動が不自然な程早まる。
あんなに心地よいと思っていたこの場所が酷く気持ちの悪い空間に感じられた。
ふと空を見上げる。
真っ赤に染まった脈打つような空。
空は赤いものだっただろうか。
向かえに見えるのは住宅街。道路。電信柱。
振り替えれば僕が目を覚ました三階建ての一軒家。
そのどれもに色が付いていない。白と黒だけのモノクロ。
気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い。
こんなの知らない。
何でこんな所にいる。
何故なんの音もしない。
「誰か! 誰か居ないのか!?」
気が付けば僕は走り出していた。
住宅街を抜け、大きな道路に出て、ただひたすらに。
大きな駐車場のあるスーパー。
上り坂の手前にある薬局。
曲がり角には小さな遊具が並ぶ公園。
その全てが白と黒。
そして虫の音一つしない空間に人の姿などなく......
「あああァァァァァーー!!」
僕は叫んだ。
気が狂いそうな程に無機質な空間。
走っても、走っても、何もない。
誰もいない。
帰る場所が分からない。自分が何者なのかも分からない。
なのに、なまじ理性を持ち合わせてしまっている。
まるで地獄だ。何も与えられない地獄。
「誰か助けて! 誰か! 誰か!」
──その時
『キラキラひかる──おそらのほしよ──』
「......歌?」
『まばたきしては──みんなをみてる──』
何処からともなく聴こえてきた子守唄。
無機質な空間に優しい女性の声が響き渡る。
その歌を聞いていると凄く落ち着いて、気持ち良くて。
『キラキラひかる──おそらのほしよ──』
歌が終わった。
僕は聞き入るようにその歌に耳を傾けていた。
そう言えば何で僕叫んでいたんだっけ?
何でこんなに走っていたんだろう。
「落ち着こう」
まずはここから出ることを考えよう。
そのためにはここが何処なのか知らなくてはいけない。
情報収集が必要だ。
一度、あの目を覚ましたあの家に戻って考えよう。
僕は走ってきた道を歩いて引き返す。
その途中窓ガラスに写った自分の姿を見た。
黒い髪、黒い瞳。白と黒の男子用の学生服。
あぁ、そうだ。
僕は高校生だったんだ。
白いYシャツを着て、黒い制服のズボンを履いて、ベルトをして、顔も若々しくて、きっと僕は高校生だったんだ。
一度理解してしまえばもう不安なんて何もなかった。
僕は高校生で、ここは知らない場所。
ここから出る方法を考える。ただそれだけ。
そう言えば自分の名前を忘れていたんだった。
名前は......
「カナタ」
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