✕✕✕✕しないと出られない空間 ~このモノクロな世界で君は愛を教えてくれと言った~

岡田リメイ

第1話 目覚め



 重い目蓋を開ける。

 いつの間に眠ってしまったのだろう。

 目をこすり、視界が段々とクリアになる。

 知らない天井だ。


 視線を巡らせると、壁に掛かった時計、勉強机、テレビ、本棚、タンスなどが確認できる。


(ここはどこだ?)


 気だるい身体を起こした僕はベッドから出る。


「おわっ!」


 ベッドから起き上がった瞬間、地面がぐらりと揺れる。


(地震か?)


 毛布に尻餅を着いた僕は揺れが収まるのを待った。


 大きな揺れで頭が冴えた僕は、もう一度部屋を観察する。


 壁に掛かった時計は三時ぴったりを差し、止まっている。

 ベッドから正面に配置されたテレビは電源を入れても暗いまま。

 本棚に置かれた無数の本達はどれも白紙で何も書かれてない。

 唯一タンスに仕舞われた男性用の物と思われる服だけが正常と言えるだろう。


 一見すれば何の変哲もない一人部屋。

 しかし、生活感の感じられないこの部屋は酷く歪で味気ない。

 それなのに......


(何でこんなに落ち着いているんだろう)


 知らない場所、知らない部屋、無機質な空間。

 いきなり目が覚めてこんなに所に居たらこんなに落ち着いていられる訳がない。

 それなのに、この場所はずっと居たいと思えるほどに心地良かった。



 僕は部屋を出る。

 左手に見えるのは階段。

 どうやらここは上の階だったらしい。


 汚れ一つない廊下。

 不自然な程に静まり返った空間。

 僕は好奇心に任せ、家中を探索する。


 この家を探索して分かったが、どうやら三階建ての一軒家らしい。

 僕が目覚めた部屋と同様に部屋が複数存在し、リビングやトイレ、風呂場に玄関など一般的な家と相違ない。

 家具や冷蔵庫などの電化製品も置かれているが、どれも新品同然の状態であり、埃一つないこの家はやはり異常と言えるだろう。


(外はどうなっているんだろう?)


 僕は玄関の前に立っていた。

 靴箱の上には木目調の写真立て。

 本来そこに飾られるはずの写真はなく、酷く空虚だ。

 更にその上の立て掛け式の時計も三時を指して止まっている。


(本当にここは人が住んでいる場所なのか?)


 まるで思い出だけ抜け落ちてしまったような住まい。

 家の中に人の姿はなく、玄関の鍵もかかっていない。

 普通出掛ける時に鍵を閉めるはずだが、忘れてしまったのだろうか?


 思考を巡らせても答えは出ず。

 やはり外に出てみるべきだろうか。


 僕は玄関のドアに手をかける。

 こんな訳の分からない所に長くは居られない。

 僕も早く帰らなければ。

 帰る場所......帰る場所......


 あれ?



「僕って誰だっけ」












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