第47話 曳馬城開城
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今川軍の総攻撃が始まったが織田軍は今までと同じく挑発や誘いに乗らず守りに徹していた。信行は本陣で直虎と共に戦況を見守っていた。
押され気味になっても信行から出る言葉は守れの一点張りなので兵士たちは本当に勝てるのか不安になり、上長に反撃命令を出してくれと懇願する者も出始めた。
「申し上げます。明智勢が曳馬城に到達、攻撃を開始致しました」
「服部党も動いているので落城も時間の問題かと思われます」
「反撃に転じるよう各隊に伝えよ。首を捨て置き曳馬城を目指せ」
反撃に転じた織田軍は鉄砲隊を前面に押し出し、抵抗する者を根切りにする勢いで攻め立てた。
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突然の反撃に面を喰らった今川軍は指揮系統が乱れて収拾が取れなくなり戦場を離脱する部隊が現れた。総大将の飯尾乗連が混乱を鎮めようと躍起になっている最中、一人の兵士が慌てふためいた様子で本陣に飛び込んで来た。
「申し上げます。曳馬城が攻撃されています!」
「何だと?」
乗連は耳を疑う知らせを聞いて腰を抜かさんばかりに驚いた。
「敵は誰だ?詳しく話せ!」
「敵は織田軍です。木瓜の旗印が見えました」
「どうやって我々の背後に回り込んだ?」
背後に敵軍が現れた事で動揺の色が隠せない味方を見て何らかの手を打たなければならないが、突然の出来事だったので全く思い浮かばなかった。
「御大将、今は曳馬城に退却するべきです」
「その通りだ。全軍退却!曳馬城を失えば遠江は終わりだ」
乗連は兵士の言葉で我を取り戻して直ぐに退却指示を出した。本陣には多くの物資が残っていたが、足手まといになると大半は捨て置かれたので織田の手に渡る事になる。
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直ぐに退却した乗連の判断は正しかったが、曳馬城を目前に立ち往生していた。光秀が率いる別働隊に加えて三河水軍の上陸部隊が要所を固めていたので攻撃しようにも動けなかった。
「退路を塞がれたか…」
「こうなっては浜名湖から遠州灘に出るしか道はありません」
「無念だが止むを得ん」
乗連は進言に従い浜名湖方面に退却した。湖を縦断して今切口から遠州灘に脱出した。遠州灘には三河水軍が居たものの乗連が漁船を使うとは考えていなかったので何とか逃げ切る事が出来た。
駿河湾近くで味方の水軍に助けられた乗連は遠江失陥と三河水軍の存在を伝えた。水軍を率いる土屋貞綱は自軍を率いて急ぎ遠州灘に向かったが三河水軍は既に退却しており一艘も見当たらなかった。
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織田軍主力は指揮系統を失った今川軍を蹴散らしつつ曳馬城に到達した。佐久間盛次と佐久間盛重に三河衆(旧松平家臣団)の一部を預けて吉田城の制圧と大井川西岸までの確保を命じた。
「光安(明智光安)、曳馬城を落とす策は?」
「正攻法になりますが、軍使を送り降伏を促しましょう。この状況では降伏するしか道はありません」
「これ以上追い込めば死兵になり我々の被害も大きくなるだろう。その方向で話を進めるように」
「承知致しました」
光安は直ぐに軍使役を選んで曳馬城に送った。曳馬城を守る瀬名氏俊と吉良義貞は軍使から説明を聞くと、抵抗したところで落城は避けられないと考えて降伏を決断した。二人は軍使と共に城を出て織田軍本陣に入った。
「織田軍総大将、織田信行である」
「曳馬城代の瀬名氏俊と申します」
「同じく吉良義貞と申します」
二人は死を覚悟して白装束を身に着けて信行に平伏した。
「曳馬城は織田軍に明け渡します。我々の首と引き換えに城内に残る者の助命をお願い致します」
「貴殿らを含めて城に残る者全員の生命は保障するので安心されよ」
「感謝致します」
「ありがとうございます」
信行は降伏を認めると共に抵抗しない者の助命を認めた。無駄な殺生をすると統治に影響する事に加えて、直虎の故郷で下手な真似は出来ないという思いもあった。
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信行と直虎は衣服を改めると内藤勝介・明智光秀・服部正成の三人を同席させた上で井伊の残党と顔合わせを行った。
「織田直虎です。信行様に嫁ぐ前は井伊次郎法師と名乗っていました」
「直盛様のご息女様だ」
「本当に生きておられた」
「明智殿と服部殿を信じて良かった」
父直盛と母祐椿尼を知る者は直虎の姿を見て喜びの余り涙を流していた。小野政直の讒言により今川義元に介入されて一族が分断されてから井伊家は辛酸を嘗めていたが、ようやく日の目を見る事が出来たと万感の思いだった。
「次子に井伊の姓を名乗らせて遠江を治めさせる事を約束する。皆も一致団結して協力してほしい」
直虎と約束していた内容を井伊残党に伝えた。その場に居た者は井伊家の再興が成されるなら命懸けで協力すると誓い、織田家に臣従する事を承諾した。井伊残党は身を隠していた引佐に因んで引佐衆と名付けられ、織田家による遠江支配の一役を担うことになる。
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