第11話 直虎懐妊(1554) 修正版

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2024.5.22修正


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「兄上が岩倉を落とされたぞ」

「おめでとうございます」

「織田信安と嫡男信賢が内輪揉めした事で簡単に落とせたようだ」

「内輪揉めと申しますと?」

「降伏を主張する信安と抵抗を主張する信賢が喧嘩したとある」

「信安は先代様と対立していたので抵抗すると思っていましたが…」

「兄上からの誘いも蹴っていたからね」

「心変わりした理由は何なのでしょうか?」

「信安曰く同族で争う事に嫌気が差したと。反対する家臣を処分しようとしたら信賢に止められて喧嘩に発展したらしい」

「親に刃向かうとは変心に対して腹に据えかねたのでしょうか?」

「いや、斎藤義龍に唆されたとある。それを示す手紙も見つかっている」


義龍の調略に引っ掛かった信賢は賛同する家臣と共謀して信安排斥に動いたが、信長の城攻めによって計画が露呈して信安に巻き返された。


「斎藤義龍は追求されても知らぬ存ぜぬと聞き流すでしょうね」

「兄上は蝮殿の面子を立てる意味で何も言わない気がする」

「兵力差を考えれば時期尚早ですな。御館様も奥方様の手前、斎藤道三が健在の間は動かないでしょう」

「だろうね」

「二人の処遇は?」

「信安は那古野に移されて近郊の土地を充てがわれる事になった。信賢は混乱に乗じて城から逃げ出して行方知れずだよ」


信長は許す方向で考えていたが、信賢本人は処断されると思い込んで義龍を頼って美濃へ逃げ込んだ。


「岩倉城に信広兄者が入る。叔父上の与力扱いで美濃に備えてもらう事になった」

「清洲と岩倉が万全になれば斎藤も手出し出来なくなるでしょう」

「そうなるように祈るしかないね」


信行は入ってくる情報を聞いていると、散々な目に遭った義龍がこのまま沈黙を続けるとは思えなかった。


「俺は尾張守を名乗る。お前は尾張介を名乗れ」

「必要ですか?」

「戯けた事を申すな。俺の補佐役たるお前が尾張介を名乗らないでどうする?」

「分かりました。尾張介信行と名乗るように致します」

「物分かりの良い弟で助かった」


信長の命令で信行は尾張介を名乗る事になり、家臣からは名前ではなく官職名で呼ばれる事になった。


*****


尾張統一後しばらく経ったある日、信行は藤林正保から気になる事を聞いたので信長に報告を兼ねて相談する事にした。


「叔父貴に護衛を付けたい?」

「織田信友と坂井大膳が斎藤義龍の庇護を受けていると耳にしました」

「その件は俺も聞いている」

「斎藤義龍も兄上を敵視しているので間接的な嫌がらせを仕掛けてくるような気が」

「間接的に?」

「私が義龍なら叔父上・信広兄者・私信行に刺客を送り、亡き者にして弱体化を狙いますね」

「警戒が薄いところを狙う訳か…」


信光は清須に残っていた斯波の旧臣を数多く召し抱えている事から刺客を送り込まれる可能性が高かった。


「誰が欠けても織田にとってかなりの痛手になる。段取りを任せるから直ぐに動いてくれ」

「承知致しました。お任せ下さい。」


信行は正保を通じて百地三太夫に対応を依頼した。

三太夫は配下の忍を岩倉と清須に派遣して周囲の監視を始めた。


*****


「お前の予想通りだったな」

「知らせを聞いた時は冷汗を掻きましたよ」

「斎藤義龍にやり返すか?」

「それをすれば斎藤道三も敵に回す事になるので止めておくべきです」

「織田信友と坂井大膳には代償を払わせるぞ」


信長の指示を受けた百地三太夫は配下の忍を率いて美濃に入り、信友と大膳を暗殺した。

二人が突然亡くなったので義龍は信長の関与を疑ったが、証拠は見つからず病気扱いで処理された。

加えて義龍が信光暗殺に関与している証拠が見つかったので道三から叱責される結果になった。


*****


「お前の配下に前田利昌の息子が要るだろう?」

「利家の事ですか?」

「そうだ。刈谷の戦いで派手に暴れまわったと聞いているぞ」

「派手ではなく尋常でないと言った方が良いと思いますが…」

「尋常でない?」


刈谷の戦いで朱色の甲冑を身に纏い朱色の槍を手に単騎で敵陣に突っ込み、返り血を全身に浴びながら多くの首級を挙げた事を信長に説明した。


「それ程の男なのか!」

「勝家配下でしたが、その功績で侍大将に昇格させて一隊を預けています」

「その前田利家を譲ってくれないか」

「利家の性格を考えたら兄上と合わないと思いますが…」

「どういう事だ?」

「上には敬意を払いますが、自由気ままで必要以上に束縛される事を嫌います」

「昔の俺に似ているな。ますます手元に置きたくなった」

「利家に聞いてみますが、本人が嫌がれば断りますよ」

「それで構わん」


信長は護衛役兼使番として黒母衣衆を設けて若手の精鋭がその役に就いている。

尾張統一が間近に迫り家臣の数も増えてきたので新たに赤母衣衆を設ける事になり、利家をその中心に据えようと考えていた。


*****


信行は刺客騒動の件があって那古野にしばらく滞在していたが、状況が落ち着いたので鳴海城に戻ってきた。


「お帰りなさいませ」

「無事で何よりです」

「ただいま戻りました。直虎、顔色が悪いように見えるけど大丈夫かい?」

「大丈夫です」

「直虎、嘘を言ってはいけませんよ」

「申し訳ございません」

「病に罹っているのですか?」

「病ではありません。直虎が直接言うべきでしょう」

「?」


直虎の身に何か起きているのは何となく分かったが、二人の会話を聞いて理由が分からなくなった。


「子が出来ました」

「はい?」

「はい?ではありません。直虎に子が出来たのです」


直虎は鳴海城に移った直後から体調不良になり休息しても改善しない事から御前の勧めで医師に診てもらったところ妊娠している事が分かった。


「身体は大丈夫なのか?」

「大丈夫です。母上が助けてくれておりますので」

「それを聞いて安心したよ」

「直虎の事を考えてしばらく自重するべきでは?」

「出来る限り鳴海に居るように致します」


直虎が悪阻で苦しんでいた時、那古野に行って不在だったので土田御前から小言を言われて信行は散々な目に遭った。


*****


【登場人物】

織田信友

→1516年生まれ、元織田大和守当主

坂井大膳

→1510年生まれ、元織田大和守家臣

斎藤道三

→1494年生まれ、斎藤家当主

織田信安

→1505年生まれ、元岩倉城主

織田信賢

→1535年生まれ、信安の嫡男

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