第19話〜汚泥〜

二人の間の空気は張り詰めていた。

そのままジリジリと読み合いに移るかと思った矢先に今度は気が一気に距離を詰めてきた。地を撫でるような踏み込みからの逆袈裟斬りをいなし、そこから5合ほど切り結ぶ。6合目を躱した雷は咄嗟に足払いを繰り出すが、気もそれを飛び上がることで躱し上から斬撃を浴びせた。すんでのところで防ぐことは間に合ったが雷は大きく体勢を崩し、ペースは奪われたままだった。苛烈な剣戟の応酬、まさにしのぎを削る闘いは22合目まで続いた。互いにぶつかり合って生まれた火花は彼らの命を燃やすようにしてさらに激しく散っていく。反撃を弾かれた隙にぶん殴られた雷はついに倒れてしまい、窮地に立つことになる。しかしその時二人を異様な雰囲気が包み込んでいた。その妖気はまさに山側から垂れ込めてきており、恐る恐る振り返るとそこには油っぽくドロドロした玉虫色の汚泥が顕れていた。

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