第12話復讐完了

全てを打ち明けることで自分の業が軽くなるだろうか。

ただし、全てにおいて打ち明けることだけが正しい判断とは言えない。

飲み込んで自分の中だけで背負い続けるのもまた正しい判断だと言える。

端的に言って彼女らの気持ちを弄んだ結果だけが残っている。

だけど…。

そこまで思考していると車中で里央は唐突に口を開いた。

「私さぁ。多分気付いていたんだ」

「何にですか?」

話が見えて来ずに返事をすると里央は軽く微笑んだ。

「ん?いつかサイコくんに復讐されるって。裏切ったあの瞬間から私は気付いてた。大人になった未来で手酷い仕打ちを受けるんだって。今がその時でしょ?」

里央は少し儚い表情を浮かべると残念そうな口調で言葉を紡いでいく。

「突然どうしました?元夫が亡くなったことがやはりショックですか?思い出してナーバスになっているとかですか?」

それに里央は否定の言葉を口にしてから話を続けた。

「だってさぁ。あり得ないじゃん?浮気したのは私だよ?恨まれていて心の底から憎んでいるんだろうなぁ〜。って再会する直前はずっと不安だった。それなのにいざ会ってみたら何も気にしてないんだもん。私も最初は都合のいい話だなぁってラッキーぐらいに思ってたんだけど。でも本当は恨んでいたんでしょ?良いよ。正直に言って。サイコくんになら何をされても許せるよ。先に裏切ったのは私だからね。どんな仕打ちも受け入れるよ」

里央は諦めたように口を開くと何かを悟ったような表情を浮かべていた。

(ここで正直に今までのことを明かすのがベターなんだろうな…)

そこまで思考するが俺は違う選択を取ることを決める。

「初めから恨んでなんて無いですよ。初めて恵さんを見た時は少し古傷が疼きました。でも過去のことです。私は神や仏では無いので他人の罪を裁くことも出来ません。浮気の一つや二つ若い男女なら必ず経験するものでしょ?以前にも少し話しましたがあのまま付き合っていたら私が逆の立場になっていたかもしれないのです。浮気をした里央さんは今でも当時のことを悔やんでいる。私は当時傷付いた。それなので両者痛み分けで良いじゃないですか。これも以前言いましたが恋は最終的に誰と一緒に居たかじゃないですか。その過程を私は気にしませんよ。それなので私から言えることは復讐など初めから考えていないです」

それを聞くと里央は少し表情を明るくさせて、話を信じたい気持ちを顕にしていた。

「本当に?」

その問に俺は頷いて応える。

「じゃあ。もしも私と結婚してほしいって言ったらどう思う?」

それが最終的な話なのだと分かると俺はしっかりと答える。

「もちろん。光栄ですよ」

「じゃあ私と結婚してくれる?」

「はい」

そのまま答えると彼女は満面の笑顔を浮かべて…こう一言。

「マジでバカなんですけど!自分を裏切った女とまた一緒になるつもり!?お人好し超えてバカだよ!あんまり笑わせないで〜!」

そこで俺は再度裏切りを受けるわけで…。

だが、話はここで終わらせない。

あの頃の自分を超えるために俺は復讐を選び、そして最後は善人の皮を被り続け好意を本物だと偽ることを決めたのだ。

ここで逆上して里央の運転する車のハンドルを思いっきり切って心中するのもありだろう。

に説諭される前の俺だったらきっとそうしていた。

だけど今は違う。

学生の頃の自分とも復讐に燃えていた頃の自分とも違うのだ。

(自分を取り戻せるのは自分の行動だけだよな…)

そう決意すると冷静に口を開いた。

「バカですか。バカでいいですよ。私は里央さんを忘れられませんでした。恵さんを見ると若い頃の里央さんの事を思い出してしまいます。いつまでも何処までも忘れららない存在。それが初恋の彼女というものです。私は一生、里央さんを忘れられないでしょう。里央さんが私をバカと一蹴し笑い飛ばしても結構です。私の中では今日までの日々で培った三人の関係に嘘はないって信じています」

何処までも善人の皮を被り続けると里央は信じられないと言ったような表情を浮かべていた。

「なんでよ…なんでそこでブチ切れないの!?ハンドルを切って私と心中していい場面なのに!私は…サイコくんにちゃんと償いたいのに…なんでよ…何で優しくするの…?」

思った以上に里央は精神を病んでいたようだ。

テンションが激しく上下して定まらない。

多分里央の方が俺よりも苦しんだはずだ。

一時の気の迷いで俺を裏切り妊娠までしてしまったことも、旦那がどうしようもないクズだったことも、ずっと後悔していたんだ。

自分の人生が間違いだらけだったとずっと心のなかで後悔しているのだ。

それならば俺が取る最善の手段は一つだけだ。

「だから。今でも好きだから優しくするのですよ」

その言葉を受けて里央は車を路肩に駐車させた。

「ちょっと…待って…今、混乱してるから…」

里央が落ち着くまでそこで長い時間待っていると彼女はポロポロと涙を流しながら言葉を紡いでいった。

「本当に…わたしで…良いの…?」

どうやら里央は今までの俺と同じ様に仮面を被り強がって生きてきたのだろう。

それなので俺は里央の肩の荷を降ろし、仮面を外させてやることを決意する。

「何度も言わせないでください。最終的に誰と居たのかが大切ですよ。過程は関係ありません。裏切った裏切られたなんて無しです。私はこれからも里央さんとも恵さんとも一緒に居たいですよ」

何度も優しい言葉を投げかけると里央の心の壁は完全に消滅したのか彼女は車内で子供のようにわんわんと泣き崩れた。

さんざん泣き続けて気が済んだ里央は決意した表情で口を開く。

「あの時、サイコくんを裏切ってしまい本当に申し訳ありませんでした。もしも全てをチャラにして頂けるのであれば私達母娘をお願いしてもいいですか?」

里央はしっかりと謝罪を口にして頭を下げる。

俺はそれを目にして…。

目の前の景色が一気に鮮やかになっていくのを感じる。

色彩感覚も元に戻り、俺は過去のトラウマに打ち勝てたことを理解する。

最後は朗らかな表情で里央と相対した。

「こちらこそ。是非よろしくおねがいします」

キレイに微笑むと里央は満面の笑みを浮かべて熱い抱擁とキスをしてくるのであった。

「そうと決まれば家に帰りましょ?恵にも伝えなきゃ!」

里央は一気にUターンをすると元来た道をなぞるように走っていくのであった。






後日の休日のこと。

全員が目覚めると誰からともなく行為は始まる。

三人の歪で奇妙な関係性。

何処までも続く幸せな背徳感や罪悪感の中で、その三人の親子はいつまでもお互いの歪で不確かな愛を確かめ合うのであった。



その後、二人の母娘がどの様な運命を辿ったのか…

それを提示するのはあまりにも…

なんてね…!うそうそ…! 完

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