第14話 言えない戦略

次の日は新しく始まるゼミのグループ分けの発表があった。

グループはタケシとリコも一緒だった。


夕方からゼミの初めての集まりがあると学科長が話していたため、その前にタケシを呼び出した。


「こないだの話なんだけど、何か分かったこととかあった?」


「いや特にないな。女子も噂としか思ってないみたいで、逆にカスミがそんなこと言い出したことを不思議に思ってる子もいるみたい」


「それなんだけどさ、リコとかの耳に噂が入る前にリコに事実を話してしまおうかと思ってるんだけど、どうかな?」

「リコに?お前のこと信用するか?」


「そこなんだけどさ、ゼミを通して上手く距離を縮めたくて。ちゃんとこっちの話を聞いてくれるように」


「俺よりは達也の方がリコと面識あるしな。逆に俺を上手く使ったら関係が作れるなら使ってもらっていいよ」


「ありがとう、助かる。いきなりなんだけどさ、今日の夜時間ある?」


「今日?バイトは休みだからあるけど、どうすんの?」


「ゼミのメンバーでいけるメンツ誘って飲みに行こう」


「いきなりだな。リコが来なかったら意味がないけど大丈夫か?」


「リコは今バイトしていないはず。前にカスミが言ってたし」


「どうやって声をかけていく?」


「それもタケシに頼みたくてさ…俺よりは皆信頼してくれるだろうし…」


「そういうことね。分かった。リコは最後に声をかけるわ。皆行くなら断りづらくなるだろうしな」


「たしかに。さすが!頼むわ」


「いつか飯でも奢れよ」


「もちろん!」


タケシは同じゼミの子たちに順々に声をかけていった。

バイトがあって無理という子もいたが、リコも含めた8割方参加してくれることになった。


ゼミの集まりは今後の流れについての説明がされるだけの簡単なものだった。

終了後、参加メンバーは駅前の居酒屋に集合した。

ゼミとして集まるのは初めてだったが、普段学科内では見ている顔ぶれなので、すんなりと会は始まった。


タケシはリコと仲良さげに話していた。


“あいつほとんど話したことないって言ってなかったっけ”

それぐらい距離は縮まっていた。


「達也!」

タケシに手招きされた。


「なに?」


「リコがカスミとどうなってるのか聞きたいってさ」

すでにカスミのことについて話している様子だった。


「達也カスミと別れたんだよね?何があったの?」

リコは怒るでもなく、ただ不思議そうな顔で問いかけてきた。


「リコはカスミから何て聞いてる?」


「カスミからはお互いのために別れたってだけかな」

“よかった。やっぱりグループには何も話してないんだ”


「本当にそうなんだけどさ、少し気になることがあって…」


「気になること?」


「別れ話自体はお互い納得した上で終ったはずなんだけど、カスミは納得できてなかったみたいでさ。あと、その場にもう一人カスミの地元の友達って子がいてさ…」


「別れ話の席に?どういうこと?」


「それが俺も最近まで分からなかったんだ」


「最近まで?」

「そう。聞いてるかもしれないけど、俺今キョウコと付き合ってるんだ」

一瞬、リコの顔色が曇った。


「みたいだね…風の噂で聞いた。でもカスミと被ってたわけではないんでしょ?」

意外な回答に正直驚いた。


「もちろん」


「でも、カスミからしたら被ってたって思っても仕方ないよね。バスケサークルの飲み会のときにも色々あったみたいだし」


「そこで変に隠した俺も悪かったんだけど、被ったりとかはなくて…」


「まぁそのへんのことは二人の問題だろうしいいとして、最近になって分かったってのは?」


「キョウコが嫌がらせをされてるんだ」


「カスミから?」


「いや、多分カスミじゃなくてカスミの友達から」


「その別れ話にいた子ってこと?」


「断定はできないんだけど…」

キョウコから転送してもらったメールを見せた。


「アドレスからしてもカスミではなさそうだけど…そもそもカスミ自身がわざわざそんなやり方をする必要もないしね」


「こんなことリコに言うのは間違ってるかもしれないけど、嫌がらせを辞めさせるのに協力してほしいんだ」


「これが本当ならさすがに良くないね。でも協力するとしてもどう協力したらいいか分からないよ」


これまでのキョウコとのLINEのやり取りなどを含めて付き合うに至った経緯を全てリコに伝えた。

挨拶の件については「信じられない!」と怒ってはいたが、最後まで話を聞いたリコは被っていないことには納得していた。


「伝えた通りの経緯なんだけど、リコにはカスミに俺と別れた理由の詳細を聞いてほしい」


「達也と別れた理由を聞くの?それだけ?」


「うん。今、リコには事実を話したから、カスミが何て答えるかで分かる気がするんだ」


「もし本当に友達を使って嫌がらせをしてたとしても、それは認めないだろうし、何も変わらないんじゃない?」


「直接何かを変えようとしなくていい。リコに迷惑かけるわけにもいかないし、ただマヤには俺から聞いた事実は伝えていてほしい」


「それぐらいなら全然いいけど。本当に話を聞くだけでいいんだね?」


「うん。お願い」


「分かった。明日話してみる」


俺はスポーツマンらしい真っすぐなリコの性格と人間性を考えて、あえて話を聞くことだけをお願いした。


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